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偽り戦士の祈り  作者: 如月サト
1/3

Prologue

これは、戦いの時代を生きる、少年と少女の物語。


* * *


西暦1621年。今日我が国ステラは、激戦のさなかに巻き込まれていた。一度はうまく行っていたはずなのだ、その国との交渉も。

30年ほど前から、国境線あたりにある油田の所有権をめぐって両国の国王は争っている。そこは昔から質のいい石油がよく取れるという評判で、売れば高くついた。当然その油田を後ろ盾にすれば自給率の乏しい国とは都合よく行くようになるだろうし、自国の自給率だって上がる。もともとエネルギーを大量に欲していたステラには大変いいものだったし、当然ながら自分のものだと確信していただろう。だが、隣国は自分のものだと主張したのだ。自国の領土に含まれる、よって我が国のものだ、と。

何故争そうのか、どうしてか俺はそう思う。

争いのおかげで仕事を得ている俺が言うのはいささかおかしいとも思うが、この話を聞くたびに疑問に思ってしまう。国のためだとか言いながら無駄な殺し合いで意味なく死んでいく若者たち。そして、それを黙って見物する貴族階級の者達。上下の差が広がり、尊い命が失われていくばかりではないか。

これが俺の生きる時代。そして俺は、敵対する国に潜り込むスパイ。平民――ルトと呼ばれる――の中から選ばれた、いわば国のための道具。シアン=ルト=グリーン、17歳。それが俺だ。

ボーカーフェイスと言われていたからか表情を偽るのは得意だ。変装もお手の物、一度だけ招待された王族たちのパーティーでも、討ったばかりの敵王に変装すれば兵隊たちが焦りを覚えて通報したほどだ。自分で言うのも何だと思うが、今の俺は司令官に絶対的な信頼を置かれている。だが、そんなに嬉しくないのはなぜだろう。

考え事をしながら、目の前の緑色を断っていく。俺は今隣国の庭師として、その国の城に置かれている。ここへ来た一年前から城の中は庭と自室以外には立ち入ったことはないが、随分と裕福な国だ。ひろく花にあふれた庭は入るだけで心を落ち着かせ、敵国であることを忘れてしまうほどの癒やしを感じる。低身分である俺でさえゆとりのある広さの部屋が与えられ、国民もさぞかし幸せだろうと自国と対比しながら考えてみる。裕福ならば、少しくらい貧しいステラに譲ってくれてもいい。ステラの王はそう言って、また何かを横取りするのだろうか。

葉が全て落ちたら、今日は終わりだ。自室に戻ろうかとも思ったがやめ、ちょうど庭の真ん中に配置される白いベンチに腰掛けた。木漏れ日がチラチラと瞳を射し、心地よい風が吹き抜ける。ここはもう、皆が認めた俺だけの休憩場となりつつあった。外国から送られてくる機械的な玩具に興味のある城の住人たちは、自然とはあまり触れ合わない質のようだった。従って、庭を訪れるものもいない、いても仕事に耐えられなくなって抜け出してきた侍女とかそこらへんだ。仕事が終わればいつもここに来て、しばしの休息を取る。

たった一人で、静かに。          

俺には家族はいない。聞きたいとも思わなかったし、聞こうともおもわない。友達も知り合いも、いなかった。顔と名前が一致するのはあの理不尽な王くらいで、毎日話しかけてくる人間たちはみんな変わる。

仕方ない、スパイの身であるからこそ、逆に覚えられたり親しくされたりしたら任務を遂行したときにいろいろと面倒だ。人間とかかわらない。情は移さない。他人との繋がりは持たない。それを守れると判断したからこそ、国は孤児院から俺を連れ出したのだから。俺以上の実力者が現れるまで、この生活は変わらない。俺はそれまで、スパイとしての無機質な生活を送り続ける。俺はこの不変を微塵にも疑っていなかった。

そう、今日までは。


不意に鼻歌が聞こえてきて、隙だらけだった俺は体を固くした。また侍女が抜け出してきたのだろうか。それにしては随分楽しそうな音がしている。では、暇になったから遊びに来たのか?働く身である女が遊びに来るなどいいものか。ましてそんなことをしていたら、確実にその女は職を失うだろう。そんな馬鹿な真似は城の住人たちは絶対にしない。心得ているはずだ。


「あら?だれかいるの?」


鈴を転がしたような可愛らしい声音に、これは侍女のような下位のものではないと理解する。その説はない。なら、この声の持ち主は誰なのだろうか。下位のものではなければ、自然に俺より上の階級だと考えていいだろう。返事はするべきか…いや、しなければ変だし、怪しまれる。しなければならない。仕事を失うことにもつながりかねない。


「いますよ」

「わぁっ」


小さく驚いたような声が帰ってくる。そんなに驚くことだろうかと思いながら疲れで重くなった腰を上げ、声をした方へむかう。


「どなたですか」


声をかけてみればガサガサと葉音を立て、現れる同じ年頃の可憐な少女。

ドレスに身を包んだ、そう、『姫』だった。


…To be continued

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