第四十六話 強セイ
「この下に……シュナが……」
とりあえず、もう一度魔法袋をイメージしてシュナの居場所が下にある事を確認する。
間違いは……ない……
僕が今、立っているのは大きな倉庫のような場所。
人が隠れるのにはもってこいの場所だろう。
何が置いてあるかは……忘れた。
「とりあえずっと。」
屋根のブロックを、音を立てずに腕力を使って引きはがす。
意外と固かったが、少し動いたら簡単に外れた。
その直後、
「てめぇ!速くしろ!」
図太い男の声と共に、何かがはじけるような音がする。
これは……ビンタをした時の音か……
急いで、あいた穴から離れる。
……うん、反応がないからばれてはいないだろう。
なぜ……シュナがいるであろう場所に男がいるんだ?
協力者か……もしくは……
今一度、空いた穴に慎重に近づいて中を覗き込む。
そこに見えたのは、
「え!?」
何人もの、むさくるしそうな男。
いかにも、盗賊ですといったようなぼろぼろながらも何回も戦い抜いたような鎧をほぼ全員が着こんでいる。
そして……彼らが囲んでいる中には……
「なんだ!?」
男のうちの一人が急に上を見上げてくる。
とっさの判断で、顔を逸らす。
見られた……だろうか。
「どうしたんだ?」
「上から物音がしたような……」
「てめぇの聞き違いだろぉ。」
何とか、ばれてはいないようだ。
だが、一番問題だったのは彼らが囲んでいた人。
あの白い髪……まさか……
「早く、この袋からすべてのもの出してくれないかなぁ?僕たちには開けられなくてねぇ。」
「いやじゃ、けがらわしい。」
気持ち悪い猫撫で声が聞こえた後に、聞き覚えのある声音と口調でののしる声が響く。
この声は……やっぱり……
「いつまで待たせるのかな?早くしないとお兄さんが気持ちいい事だけじゃなく痛い事もしなくちゃいけなくなっちゃうんだけどなぁ。」
「もちろん断るのじゃ。お前なんかに触れられたくもないのじゃ。」
シュナ……か……!?
頭の中が一気に混乱する。
シュナが……盗んだのではなく……シュナごと盗まれたのか……!?
最終的な結論。
シュナを疑った事を後悔する。
シュナが……盗むはずはないのに。
疑ってはいけない者を疑った自分への怒りが増幅していく。
これまで、怒りをふさいでいた失望が消え去り、怒りを止めていた物がなくなる。
魔法袋をイメージした時にシュナのイメージが流れ込んできたのは……シュナが魔法袋を持たされていたから……
それでも……なぜシュナは捕まっているのだろうか。
シュナほどの力があれば、こいつらを蹴散らすのは簡単だろう。
とりあえず、もう一度穴から覗きこむ。
「……あれか。」
縛られているシュナの手に取りつけられている物。
どこかで一度見た事がある気がするもの。
……道中であった盗賊の持っていた腕輪にそっくりだ。
確か、魔力を外に出せなくなる物だったはず。
だから……シュナは抵抗できなかったのか。
シュナは、魔法戦闘力が高いが物理の戦闘力は平均よりも低いだろう。
「もう、いいだろボス。少し楽しんでから奴隷商人に売りに行こうぜ。上玉もいっぱいそろってるし。」
「まぁまぁ、この魔法袋だけは開けておきたいしな。」
「そうだいい事を思いついた!少々、痛い目見せたらいいんじゃないか?」
穴の方から下卑た声が聞こえてくる。
今すぐ、飛び込んで倒してやりたいがそれはできない。
武器もなく、相手は多数。
こっちは魔法も使えず、防ぐすべもない。
多方向からの大量の魔法が避けれるはずもない。
一人で突撃しても……ぼこぼこにされるだけだ。
それじゃぁ……シュナも助けられない。
「それもそうだな……なんなら気持ちいい事と痛い事を一緒にしてあげようじゃないか!」
「ギャハハハハァ!」
下卑た声を無視して思考を限界まで加速させる。
今、自分ができる事は……人を呼ぶ事だけ……
間に合うかどうかは分からない。
その間にシュナは大きな傷を負ってしまうかもしれない。
でも……やるしかない。
足をあげて、警備隊の駐屯所へ向かおうとする。
だが……その直後。
「なぁ~に抵抗してるんだ?無駄な行動なのに。」
「触らないでほしいのじゃ!」
「縛られた状態で言ってもむだだがな!」
「助けに来るのじゃ……助けに来るのじゃ!イツキは絶対に助けに来るのじゃ!」
「ギャッハッハ!馬鹿じゃないのか!あの男の事だろう?どうせ逃げたに決まってるだろう。武器も無いのに特攻してくるバカじゃないだろうし、一人で突撃してきたらボコボコにしてやるだけだ!」
「それでも……それでも助けに来るのじゃ!」
「ふ~ん!でも、来ないものは来ないんだよ!」
シュナの切実な声と布を裂くような音が僕の足を止める。
くそっ!くそっ!
最善策を実行しようとするも……最悪の一手に手を伸ばしてしまいそうになる。
怒りが、男たちにうつり……体が誰かに操られているように動かなくなる。
また……この現象か……
「『起動』」
意識していないのに魔境眼を起動させる起句を呟いてしまう。
視界に光が灯った瞬間、自分の体の異変に気が付く。
体から……薄い光が出ているのだ。
最悪の一手。
一人であの中に飛び込んでいく事。
頭の中ではやってはいけない事だと分かっていても……奥底からわき上がる今すぐシュナを助けたいという感情と男たちを殴り倒したいという感情に押し流される。
そして……体は意識していないのに、要望のまま動き……
屋上を足が貫いた。
次回、暴走。
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