第四十五話 跳ヤク
頭の中に浮かんだのは……シュナのイメージ。
まさか……でも……
頭の中で必死に考える。
なぜだ……なぜシュナのイメージが……
「まさか……」
一回想定してしまった最悪の事態。
今考えられる中でこの状況に当てはまるのは……これしか……ない……
「シュナが……泥棒……?」
出てきてしまった結論に心が拒絶反応を起こす。
そんなの……嘘だ……
だが……当てはまる事が多すぎる。
まずは、シュナはなぜ……ここを選んだ?
普通ならキレイな宿でもよかったはず……
だが、こういう人通りの少ない宿を選んだ……
考えられるのは……目撃者を減らすため?
こんなにぼろい宿で夜遅くまで歩いている人は少ないだろう。
そして……なぜベットで窓際を選ばなかった……?
それは……扉に近いから……
「嘘だ……!」
だが、思考は止まらない。
服屋でのおばさんの言っていた事……
色仕掛けで迫って、資産などを根こそぎ盗んでいくという悪人の話……
これは……シュナにもあてはまるのではないか……?
そして極めつけは……魔法袋。
シュナには、魔法袋に使用権がある事を伝えていない。
しかも、まだシュナには設定できてない。
そして、持っている人が分かるという事も……
感情の台風が心の中で吹き荒れる。
ほのかな怒り、推測を否定したいという感情。
そして……失望。
怒りを何十倍も上回る……失望。
信頼していた人に裏切られた時の……失望。
失望の荒らしが、心を猛スピードで削っていく。
怒りはほとんど砕け散り、否定の感情も削られていく。
何もしたくない……
とりあえず、魔法袋を取り寄せようとして……思いとどまる。
シュナに……理由を聞かないと……納得できない。
盗んだとしても……何か原因があるかもしれない……
弱みを握られているとか……
考えられる中で最善の物を思い浮かべ続ける。
ただ……金の為に利用したとか可能性も……
一瞬出た、最悪のイメージを一気に忘却する。
でも、まずは……シュナの所に行かなくてはいけない。
頭の中のイメージは……ちょうど窓の方向からきている感じがする。
下から出ても、支払いなどで時間が取られて面倒なだけだ。
申し訳ないけど今は……短縮するに限る。
防具がしっかり身についている事を確認する。
一応念のためだ。
窓から外を見ると、少しずつ人通りが増えていく。
あまり人が増えすぎると……シュナを見つけるのが大変だ。
早めに出ないといけない。
窓を開けて、足を乗り出す。
そのまま、体を前に向けて……足を踏み出していく。
全力で壁をけり……前方に思いっきり飛ぶ。
きている謎の黒衣がはためき、風を切る感覚がある。
いつもなら、爽快感で満足しているだろうが……今はそんな気分ではない。
道を挟んだ反対側のお店の屋根に一回転して飛び乗る。
怪我はなく、即座に跳び起きる。
「なんだ?あれ?」
「パフォーマンスかしら?」
「かっこいいなぁ。」
下から響く声を無視して、再び頭の中に来るイメージの元へむかう。
あっちか……
方角に変わりはない。
道に下りてもいいが、入り組んでいるため時間がかかりそうだ。
今は……屋根伝いに飛んで行った方がいいだろう。
再び地面に足をつけて全力駆け抜ける。
そして、間を挟んでいる道を全力で……飛び越える!
体に少しだけ浮遊感が掛かり、宙を舞い、重力にひっぱられ始める。
それを手を広げて風を掴み、少しだけ飛距離を伸ばす。
そのまま足を向こうの屋根に乗せて……
「あっ!?」
足が思いっきり滑る。
屋根が脆かったからか、足を乗せた場所が外れてしまったようだ。
そのまま、体は屋根の斜面を重力によって転がり……落ちる。
そこを、手を無理やり伸ばして屋根のふちを掴む。
ふぅ……危ない……
一度落ちると、のぼるのが本当に面倒だ。
その状態から腕の筋肉を総動員して……体を持ち上げる。
屋根が外れそうになるものの、何とか持ちこたえてくれる。
そのまま体を持ち上げて、乗りあげる。
「曲芸かな……」
「あの人、どっかで見た事あるわ。」
「あぶねぇ……」
下で人が騒いでいるのをひたすら無視する。
足元に気をつけて、ふたたび全力で走り出す。
そのまま旨く体をコントロールして、バランスを保ち続ける。
道を飛び越え、鳥の横を通り、風の様に走り抜ける。
二、三回飛ぶうちに体が慣れて安定してくる。
下から聞こえる声はだんだん歓声のようなものが増えてきている気がする。
とりあえず、無視して走り続ける。
定期的に魔法袋をイメージしてシュナの場所を把握する。
このまま、まっすぐだな……
足を曲げて、少し大き目な道を思いっきり飛び越える。
だが……足は届かない。
屋根のぎりぎりを足が通り、体は重力にそってそのまま落下しようとする。
それを、うでを伸ばして屋根を掴みなんとか阻止する。
あんまり時間がたつと……シュナが追えなくなるかもしれない。
魔法袋の察知範囲がどれぐらいか分からないから心配だ。
体を力任せに持ち上げて、屋根の上に体を投げ出す。
そのまま、立ち上がり突っ走る。
「ここか……」
魔法袋のイメージの流れ込んでくる方向が下になる場所に……ついた。
次回、潜入
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