第三十八話 準ビ
「こちらが選手控室です。この紙にある程度のルールが記載されているのでよく確認しておいてください。試合開始は10分後です。」
黒服が部屋からそそくさと出ていく。
部屋は、殺風景な作りであちらこちらに小さなへこみがある。
たぶん……これまでにやってきた奴隷が暴れた跡だろう。
「えっと……奴隷闘技場のルール……」
薄い紙一枚の両面に殴り書きされた文字。
まず、1攻撃魔法の使用は禁止……これは僕が少しだけ有利になりそうだ。
そして、2防具、武器の使用は定められた物以外禁止。アクセサリは一つまで許可する。
ってことは、愛用の刀は使えないということか……
近くにあった箱を開けて中身を確認する。
そこには、薄い皮の防具一式と子ぶりなナイフ一つ。
貧弱すぎる装備だろ……
えっと?3途中棄権は禁止、相手が気絶するか死ぬまで戦い続けること。
……逃げ道はすでにふさがれているようだ。
そのあとも、長々とルールがつづられていた。
ほとんど気になるものはなかったが、一つだけ気になったものがある。
それは、優勝賞金はチップ500枚というもの……意外と少ないがこんなものだろう。
皮の装備を身につける。
少し大きいがまぁいいだろう。
「あの、すみません。」
「はい?」
さっき入ってきた場所から知らない人が入ってくる。
黒服ではないようだ。
「あなたにお願いがあってきました。この試合、棄権してくれませんか?」
「……は?」
突然の提案に戸惑ってしまう。
たしかそれは出来ないんじゃないか……
「たぶん、あなたは棄権は出来ないんじゃないかと思っているでしょう。ですが、途中棄権が禁止されているだけで、試合が始まる前に棄権をする事は認められています。もっとも、奴隷にその様な権利は認められていませんがあなたなら出来るはずです。」
「え……でも……」
「もし、棄権してくださるのであればこちらを差し上げます。」
その言葉と共に大量のチップが机に置かれる。
「優勝金と同じ500枚です。どうですか?この提案受けていただけないでしょうか。」
「でも……こんな大金頂くわけには。」
「別にいいんですよ。依頼主からの預かりですから。」
頭の中で少し考えてみる。
これは、自分の為にも提案を受けておいたほうがいいのではないか。
同意の言葉を喉を動かして伝えようとする。
「申し訳ありませんがお断りさせて頂きます。」
……は?
喉が再び無意識に動いてしまう。
だが、今度は自分がまったく意識していなかったわけではない。
頭の中の片隅に一瞬だけ現れた考えが口に出ただけだ。
「……理由をお聞かせ願えますでしょうか。」
「ただ……ムカつくからです。」
心の奥底で思っていた簡単な答え。
奴隷制度に僕は反対はしていない。
だが、同じように賛成もしていない。
誰かが幸せに暮らすために誰かが虐げられるのはしょうがない事かもしれない。
自分の事情で奴隷になってしまう人もいるかもしれない。
でも……それを見てあざ笑ったりするのは趣味が悪すぎる。
同じ……人なのに……
だから……そいつの鼻を明かす為に……
「本当に……ムカつくだけです……」
「そうですか。では、ご健闘をお祈りしています。できれば……ご無事で。」
あっさりと引いてくれた。
そのまま扉を開けて外に出ていく。
……何者だったのだろうか。
頭の中をリセットして、最後の準備を整える。
うん、いつでも大丈夫だ。
「そろそろ試合が始まります。準備はよろしいでしょうか。」
「はい。」
おとなしく席を立ち、入ってきた方とは逆の扉へ入る。
すると、そこは吹き抜けの一階に設置された闘技場。
「さぁさぁ!優勝者を決める大切な一戦!今回はマルシスと謎の挑戦者の戦いです!」
その言葉で周りから歓声が上がる。
「マルレス!お前に全額かけたぞ!絶対負けるんじゃねぇぞ!」
「こんなチンケなガキやっちまえ!」
「お子様は速攻で退場しちまえ!」
会場は完全にマルレス押し。
これが四面楚歌というものだろうか。
前の冒険者選定大会よりも酷い気がする。
さっきは良く見えなかった対戦相手を観察する。
顔は黒いマスクで追われていて目の一部分しか見えない。
生気を失って、濁ったような目。
もう……これまでの生活で壊れてしまったのだろうか。
体は、筋肉で覆われていてムキムキ。
魔法が主となっている今に、ここまで体を鍛えている人は少ないだろう。
たぶん、パワータイプで、スピードはそこまで無いだろうと予測。
こっちはスピードがメインだから、素早さで翻弄してその隙に攻撃を加えればいける!
神経を集中させ、相手の一挙一動を読み取れるようにする。
このストレスを……全部ぶつけてやる!
「試合!開始!」
次回、戦闘
第二章の終りがだいたい決まりました。
みなさん、ブックマーク、評価、感想など宜しくお願いします。
下の文字クリックも宜しくです!




