第八話 伴侶
「で、お前は何者なんだ?」
「待て、わらわは今考え事をしている。」
「へぇ、どんな事だ?」
「お前は殺すべきか、それとも自殺させるべきか。」
「まって!それって僕が死ぬってことじゃないか!どっちに転んでも!」
正直勝てる気がしない。
こんなチートと戦いたくもない。
「素が出てるぞ少年。演技がばれてるぞ。」
「チッ!」
「まぁ考えてる事は本当だがな……」
「待って!なんで!!!助けただけなのに!」
理不尽だ。
助けただけなのに命を狙われるのは本当に理不尽だ。
「物事が終わってから考えると我が大事な友人をお前が殺して私をさらって売ろうとしてたところをオークが助けようとしていたところとも考えられる……」
「待て……僕がいったいどれだけ悪者に見えているんだ。ちょっとなに魔法陣展開してるの!?やめ「黙れ」ぐふぅ!」
とてつもない速度で魔法陣が形成されて発動する。
発動した術式は中級魔法の『水縛』。
相手を水を凝縮した紐で相手を固めるものだ。
速すぎて対応しきれずつかまってしまった。
複数魔法適性所持者か!
地味にきつく締められていて、動く事も困難だ。
よほどの硬さを持っているだろう。
規格外にもほどがあるだろう……。
「さて、どうやって殺してやろうか……」
「待って!僕は何もしていない!!」
「わらわの大事な仲間のウルフを何体も倒した罪!絶対に許すまじ!」
「ガゥ!ガウガゥ!」
「なんじゃ。お主はなぜをこやつを守る。」
生き残った唯一のウルフが少し焦ったように吠える。
なぜか僕を守ってくれるように見える。
改めて見ると意外とふさふさそうに感じる。
ものすごい触りたくなってきた。
っと殺されそうになっているのに変なことを考えてしまった。
「ガウゥゥ……ガゥガゥガゥ!」
「ふむ……にわかに信じがたいな……」
どういうことだろう・・・なぜか会話が成立している。
一体この少女は何者なんだろうか。
「ガウガウガゥゥゥゥ!ガウゥゥ!ガウゥ!」
「ふむふむそれが本当なら大変な事だぞ……」
「ガゥゥ!ガゥゥ!」
「そうか、それなら……」
突然拘束していた魔法が消えさる。
それと同時に少女が動き出した。
「すまない!命の恩人に無礼を働いてしまって!」
突然の土下座である。
いきなりの行動で戸惑いしかない。
何をしているんだ……
「いや……いいって……」
「いや本当にすまなかった!!!」
「だから頭をあげてくれ!こっちが恥ずかしいから!」
「分かった……」
しぶしぶながら頭をあげてくる。
改めて見るとだいぶきれいな少女だ。
最近では少ない透き通るような銀髪に整った顔。
幼さというかあどけなさが残る顔で町につれて帰ったらクラスの男子はこぞってやってくるだろう。
十人に聞いて十人がきれいというだろう。
それほどの美貌だ。
たぶん年齢は12歳ぐらいだろう。
ちなみに僕の年齢は15歳である。
「まず……名前を教えてくれないか。」
「シュヴィナだ。呼びにくいらしいからシュナと呼んでくれて構わないぞ」
「まぁ分かった。僕はイツキだ。短い時間だけかもしれないけどよろしく。」
「あぁこちらこそだ。よろしく頼もう。」
全く災難だ。
植物を取りに来たつもりが大変な事になってしまった。
「今回の恩は返させてもらえないか。今すぐにでも。」
「いや、どうするんだよ……」
「ちょっと今わらわは信頼できる者を探していてのぉ。ちょうどいいところにわらわの命を助けてくれる者がいたからのぉ。」
「言ってる事が分からないがまぁ協力者が欲しいってことだな。」
「いや、生涯の伴侶だ。」
「おい!待て!そんなんで決めていいのか!?」
まさかこんな人がいるとは思わなかった。
伴侶を見つけるならたいていの人は合コンなどに行くだろう。
この美貌なら余裕で見つけられるだろう。
というか12歳ぐらいで伴侶を探すってどんな子供だよ。
「というか、お前何歳だよ……どうみても結婚などを考える年頃ではないだろ……」
「何歳ってわらわは20歳だぞ。」
「まて、ごまかすな……その見た目でその年齢はない……背伸びしすぎだ……」
「本当だといってるじゃろ!!嘘つく意味がない!」
見た目から絶対ないとは思ったが、魔物と会話が成立したり、規格外の魔法を使う少女である。
ありえなくはないがないと信じたい。
年上だとは思わなかったから子供の様に扱ってしまったからだ。
でも、この年であの胸は意外と最近の子供は発達しているのかな?
「まぁいいや。」
「よくないわ!」
「そんなことよりなんでこんな山道を歩いているんだ。伴侶を探すなら普通は街中で合コンを探すだろ!」
「………」
「どうした?」
「……わらわを見てかんたんにプロポーズしてくるやからは何人かいたぞ……」
「ならいいじゃないか……」
「だが!わらわの事情を話した途端馬鹿にしたような目でこっちを見たり、それを主張し続けて証拠を出したりしたら化け物のように扱ってくるんだぞ……」
話しているだけでも泣きそうな様になっている。
これはよっぽどのことがあったんだろう。
「おぬしは、人をちょっとしたことで判断するのか……?馬鹿にしたりするのか……?」
まいった。
これは相当のわけありの様だ。
「対価なしで助けてくれる人は信頼する価値はあると父親が言っていたから……」
「まて、俺がいつ対価なしで助けるといった。」
「だって、対価を要求してくるようなやつなら最初にそのことを言ってくるぞ。これまでそういうやつはたくさんいたからな。さらにお主はわらわにそっけなかった。その時点でわらわの事を利用しようとしているとは思えないのだ。」
「なんかすごい無茶な論理だな……」
なんかすごいカオスな事になってきた気がする。
「お主は……穢れた血についてどう思う……?」
ものすごいつらそうに問いかけてくる。
「穢れた血……って獣人族のことか。別に何とも思ってないぞ。」
「ふぇ?」
「一瞬だけかもしれんけど素が出てるぞ……」
「いや!なんでもない!予想外だったからだ……」
ものすごく慌てたように見えたのは気のせいではないだろう。
なんでだろう。めっちゃかわいい。
自分はロリコンではないと信じたい。
いやマジで。
「別に獣人族だからって本人に罪があるわけではないだろう。他の人が言っている事は賛成できないな。」
「もし、獣人族よりも穢れた血だったのなら……」
「血っていっても親からの遺伝だろ。本人には何の罪もないじゃないか。僕は迫害する気はないね。」
「その言葉嘘ではないと誓えるか。」
「あぁ本心だから疑いようもないだろ。」
「そうか、ならば試してやろう。」
そういうと少女は自分の瞳を凝視してくる。
なぜだろう。
少女の瞳が少しずつ赤く染まっていくように見える。
「お主は……本当に……そう……思っているのか……」
妙に重々しく言ってきた。
背中に悪寒が走る。
それを打ち払うように少し大きな声で叫ぶ。
「男に二言はねぇぇ!!」
つい言ってしまった。
人生に一度でもいいから言ってみたかったセリフ。
「ふふふ、」
ふいに笑いだす少女。
なんか怖い……
「お主、なかなか面白いやつだのう。」
「なんか酷い気がするのは気のせいか。」
「まぁ、いいじゃろう。お主には人とは違った価値観があるようじゃのお。嘘をついてもいないようだ。」
「なんか、傷つくその言い方……というか嘘をついていないか判断できるのか?」
「まぁそれも数少ない特技の一つじゃな。」
確かにあり得ない話ではない。
特殊なスキルでも持っているのであろう。
目が赤くなっていたのはそれに関係するのであろうか。
「まぁ獣人が嫌いではないのは他にも理由があるんだけどな。」
「なんじゃ面白そうだから聞いてやろう。」
「それは決まってるだろう。あの耳や尻尾のふさふさだ。細かな毛がきれいに生え揃っていて軽く触ると跳ね返されるような弾力がありそうなそれでいてふんわりと包み込むようなさわり心地が想像できるあの見た目。抱き枕みたいにして尻尾を抱いて寝てみたいと思うぐらいの魅力的な「もういい……」なんで!これからがいい所なのに!」
真に不本意である。
まだまだ語り足りない。
「ふふふ……あーッはッはッは!!」
なんかいきなり笑い転げ始めた。
情緒不安定という奴だろうか。
「お主!気に入ったぞ!」
「なんか気が狂ったのかと思ったが大丈夫か?」
「話を聞いておったか!いまの!」
「え?気に入ったって事?聞いてたけど。」
「せめて反応ぐらいしてほしいのだが……」
「気に入ったという意味がわからないのだが……」
「なんじゃそんなことか!えっとこれをいいかえると……惚れたってことでいいのだろうか……まぁいい!お主を伴侶にすることに決めた!」
衝撃発言だった。
てちょっとまて!
「まって!いきなりそんなこと言われても困るんだけど!」
「なんじゃ?この見た目が気に入らないのか?」
「それよりももっと大事な事があるだろ!過程とか相手の事をよく理解してからそういうのにいくだろ普通!」
「まぁそれももっともじゃな。」
ちょっとだけ納得したような声で言われる。
そこで納得されても困るのだろうか。
「じゃあ軽い自己紹介だけしようじゃないか。わらわはシュヴィナ、20歳のしがない少女だ。」
「名前はもう言った。20歳で少女はおかしい。そしてお前は何者かを語っていない。」
おかしい点を3つ連続で挙げる。
だが、最後の一つがまずかったらしい。
「何者かを語ってもいいのだが……それが想像以上の物でも軽蔑したりしないか……?」
なにか辛そうな表情で言う。
なんだろう……心が痛い。
子供をいじめて泣かせているみたいだ。
「別に無理強いはしないけど……」
「じゃあ……今は伏せていよう。今より仲良くなったら時の楽しみとしておこう。」
すこし機嫌を直したようだ。
だが、少し気まずい空気が流れてしまった。
そこに……
『ギュルルルルルゥ……』
お腹の虫が盛大に泣く音がした。
シュナの顔が赤く染まる。
「お前、今日なにか食べたのか?」
「いや、決してわらわは何も食べておらんわけではないぞ!」
一日中断食していたというわけだ。
育ち盛りの子供にはつらいだろう。
「はぁ~しょうがねぇ僕の家に来るか?」
「おぉ!ついにわらわの伴侶になることに決めたのか!」
「ちげぇよ。ただ飯をおごってやるって事だ。」
全く食べていない少女をここに放っておくことは心が痛い。
もうひとつの理由があるとすれば同情心だろうか。
自分と同じようになんらかの理由で迫害されてきたのだろう。
共通点などでなんか仲良くなれそうな気がしたからだろう。
まぁシュナからの好感度はだいぶ上がっているようだったが。
魔法の研究もシュナによって進みそうってのも一つある。
「じゃあしばしば行くか。」
「そうじゃな……よいしょっと。っておっとっと……」
立ち上がった瞬間よろけてしまったようだ。
いそいで支える。
「エスコートしてくれるのか。ありがとうな。」
「ちげぇよ。ただ支えただけだ。」
しょうがないので魔法袋からスライムグミを出す。
「おぉこれは。いいのかもらって?」
「いいんだいっぱいあるから。」
「お主、なかなか器の大きい者じゃのぉ。ますます惚れてしまうやないか。」
「没収」
「まってくれぇ腹が減ってるのじゃぁ!」
そのまま返してやると美味しそうにほおばった。
にこにこしながら食べるその様子は子供にしか見えなかった。