第七話 逃走
冷静に周りの状況把握に努める。
敵は数十体のオーク。
それに対してこちらの目的は三匹のウルフと一人の少女。
三匹のウルフがやられる前にオークを倒し切る、または少女を助け出すのが遂行完了条件。
三匹ともだいぶ消耗していて残り時間は少ない。
見積もってあと20秒ぐらいだろう。
必死に考える。
この状況を打破するにはどうすればいい!
オークはまだこちらに気が付いていない。
ならば背後からの不意打ちが可能だ。
だがばれないように一体づつ倒すのは時間がかかりすぎる。
ならばこちらに目標を引き付けて一振りで複数を倒すという方法もある。
だが、それだと時間がかかりすぎる。
オークの弱点の首を落とせば一撃だが、一振りですべてのオークの首を攻撃できる自信はない。
ならば、どうすればいい!?
技術に頼るのではなく状況を変えれば行けるかもしれない……
全部を倒さずに直線で倒そうとすれば二回か三回攻撃すればたどり着けるかもしれない。
だが、たどり着いてから脱出するのが大変だ。
それでも……やるしかない!!
ばれないように静かになおかつ素早く回りを移動する。
すべてのオークがウルフに気を使っているせいかこちらがばれることはなかった。
”弱そうなオークがそろっている場所を探す”
これが計画の第一段階。
回り込むように移動する。
すると、弱そうなところはなかったが突撃にいいところが見つかった。
「あそこなら……」
声を押し殺して呟き、ニヤリと口角を上げる。
小さく深呼吸して呼吸を調える。……がなかなか上手くいかない。
早く行かねばという焦りが身体中に駆け巡るのを無理矢理押し鎮める。
足を構えて踏み出せるようにする。
ウルフは一体がやられて残り二体だ。
残り時間は残り少ない。
だが、準備は万全な状態になった。
静かに音を立てずに足を踏み出す。
狙いを定めてできる限り敵に近づき刀を水平に振るう。
いつも鍛えてるからか大した抵抗はなかった。
自分の近くにいたオークが首を落として倒れる。
よっしゃ!
9体ぐらい倒せただろうか。
この場所を選んだ理由。
それは、首の位置がどのオークも同じぐらいの高さにあったからだ。
その共通している部分を狙って刀を振るう。
すると一斉に首を切り落とすことができるというわけだ。
まだ、気が付いているオークは少ない。
刀を振るった勢いを手首をひねってそのまま反対に向ける。
倒れてまだ少しもがいているオークのからだを踏み台にしていさらに踏み込む。
突撃した勢いと振るった勢いをそのまま活用して首に向けて刀を再び振るう。
周りにいた敵を再び一掃する。
もう周りにいた敵は気が付き始め、こちらに少しづつ近づいてくる。
もう迷っている暇はない。
さっきと同じように手首を返し、オークを踏みつけ突撃する。
少女達への道をふさぐのはあと3体ぐらいのオーク。
勢いのまま刀を振り払う。
倒れていくオークを横目で見ながら突き進む。
残っていたウルフは一体だけ。
ここまでよく生き残れたと思う。
急いで駆け込み少女を持ち上げて肩に抱える。
急いで担いだため頭が後ろに来て胸が背中にあたる構図になってしまった。
これは不可抗力だ。
まな板ではなく、少し大きな丘のようになっていた。
背中にくるやわらかい感触を無視しながらさっき切り開いた道に戻る。
ウルフはいきなりのことで驚いたようにこっちを見ていたが、いきなり吠えるなどのことはしなかった。
雰囲気かなんかから僕が助けに来たと理解してくれたのだろうか。
意外と頭のよいウルフである。
道の近くまでくるとオークが脇から襲ってきた。
右側の敵は何とか刀で胴体を切り裂く。
片手でもなんとか振り切ることができた。
だが、左側の敵は対応しきれなかった。
体を回転させて自分が攻撃を受けようとしたが、その必要はなかった。
ウルフが勢いを付けて体当たりしてくれたのだ。
オークがよろめいたその隙に走り抜ける。
オークの集団からぎりぎりで抜けきることができた。
道なりに沿って全速力で走るが体力に自信があるとはいえ人を担ぎながらではそこまで持たない。
一分ぐらい走ったら疲れてきてしまった。
「ふぁぁぁぁぁ~」
なんとタイミングが悪い事で。
「あれぇ……なんでわらわは宙に浮いておるのじゃぁぁ??」
「おはようっと言った方がいいのか?」
「ありゃぁ?わらわにそんなことをいってくれるやつはとうに死んで……ってなんじゃこりゃぁぁぁ!」
いきなり肩の上で暴れ出す。
「てめぇ!動くんじゃねぇよ!死ぬぞ!」
「なんでじゃぁ?はよぉ降ろしてくれぇ……」
「そんな場合か!後ろを!いやお前からしたら前を見てみろぉ!」
今後ろにあるのは地獄絵図だろう。
たくさんのオークがものすごい勢いで迫ってきているのだ。
「なんじゃぁ?こんな雑魚かんたんに倒せるだろう……」
「あぁ倒せるよ!お前さえ肩の上にいなければな!」
「ふぁぁぁ……めんどくさいがわらわがやってやろう……」
彼女が何も唱える様子もなく魔法陣を形成し始める。
呪文を唱えなくても魔法が発動することができるのか!?
これは魔法の研究を見直さなければいけないなと決心する。
彼女が構築しているのは中級魔法の『爆炎球』のようだ。
球体を『火玉』のように生成して飛ばし、着弾地点で爆発させる魔法だ。
威力は高いが、爆発の範囲がそうとう魔力を込めないと大きくならず燃費も悪いため人気は少ないようだ。
「なんでそんな魔法使うんだよ!集団には聞きにくいだろそれ!」
「まぁ見ておれ。おもしろいぞぉ。」
「見れねぇよ!お前のせいで!」
「そうかならば降ろしもよいぞ。」
「それならお言葉に甘えて。」
肩からそっと地面においてやりそのまま後ろを向く。
10メートル先ぐらいまで迫ってきている。
魔法陣はすでに形成されて空中に浮いている。
僕が見るために発動を待っていてくれたようだ。
「いくぞい!」
少し高いけど気の抜けたような声でしゃべる。
それと同時に魔法が発動して火の玉が形成される。
気のせいだろうか。
少し輝いているきがする。
重力に従いながらオークたちの中心に落下していく。
そしてぶつかった瞬間。とてつもない爆発が起きた。
ふつうの人なら、小さな爆発が起こるだけである。
この魔法が得意な人でもせいぜいモンスター一体を飲み込めれば相当腕の立つ者である。
だがこれは規格外だった。
一瞬にして数十体いたオークをすべて飲み込み、それだけではなく周りの木や地面までえぐれいている。
残ったのは15メートルぐらいのクレーターと焦げたようなにおいだけだった。
この魔法を出すには人が十人ぐらい枯れてしまうほどの魔力が必要であろう。
相当な量の現象を相当な魔力で押し付けるということを少女はあくびとともにたやすくやってしまったのだ。
これはこういうしかあるまい。
「なにこのチート野郎……いや、チート少女……」
チート所持少年とチート少女が出会った瞬間だった。