第六話 魔物
まだ朝日が顔を出してから余り立っていない頃。
家から出発した。
「ふぁぁぁぁぁぁぁ……」
探している植物は貴重なので、一日探して見つかるかどうか。
だから、朝早くから出発した。
もし一日で見つからなかったらそのまま野宿でもう一日探す。
おばあちゃんには少し出かけてくると伝えてあるので大丈夫だ。
森へ向かう道は町中にある。
町を歩いてると少しずつ店が開き始めたりしている。
朝早くから御苦労さまだ。
「おらぁ!とっとと歩け!ウスノロがぁ!」
ほんわかとした雰囲気の中に野太い声が響く。
最悪の奴に出会ったしまったようだ……
”シャルム”だ。
名前は爽やかでよさそうな人だが、中身は最低である。
この町にいる金持ちの一人でその中では一番信頼の無い奴だ。
他のお金がない人にお金を貸すのはいいものの、暴力的な金利で金を荒稼ぎしてさらに払えなかったものを捕まえて強制的にものを奪ったりそれもできない場合は本人をうっぱらったりしている。
偉そうな態度で町を歩き、料理屋に入っては味が変だ不味いなどとケチをつけてお金を払わなかったり、お店では商品に難癖をつけて無理やり値下げを迫ったりなど町の人の信頼は最悪だった。
さらに言う事を聞かなかった場合は、後から権力などを使って町の警備隊を操り冤罪なでをかけたりして横暴ばかりを働いている。
国への訴え状を出した人もいるものの、もみ消された後にまた冤罪をかけられて国に捕まった。
もはや町の人々からの信用はないに等しい。
彼がどなっているのは奴隷だ。
所持権を持っている人に逆らうことのできない人の形をした道具という事になっている。
ほとんどの国で条件付きで認められている。
だが、人間の奴隷はほとんどいない。
条件があるからだ。
ふつうの人間は奴隷にすることが出来ない。
条件に当てはまるのは重犯罪者だけだ。
裏のマーケットで扱っているところもあるみたいだが、表の舞台では活動することができない。
だが、人間として認められていない者は奴隷にすることができる。
”獣人”だ。
人間と魔物の間にできた生物で、体のどこかに動物の証がある。
ほとんどが獣の耳が生えていたり尻尾があったりする。
彼らは人として認めてられいないため奴隷に落ちている人がほとんどだ。
ほとんどの人が嫌悪感を抱いているみたいだ。
どこに行っても迫害されることが多く奴隷にするためにかってに捕まえて売り払う人が多い。
国はなにも言わないが、獣人を奴隷にするのを認めているような感じになっているようだ。
彼が使っている奴隷は全員獣人だ。
しかもほとんどが女性といわれている。
今彼が使っている奴隷は全員女性のようだった。
全員体のあちらこちらに傷があり、やせ細っている。
ろくな食事を与えずに無理やりこき使っているようだ。
嫌悪感からか、お腹がむかむかする。
奴隷は全員奴隷紋という特別な術式で縛られている。
この術式は体に表面に彫られている。
言い方はひどいが、魔法を刻みこむというよりは人を媒体にして魔法道具を作っているようなものと言われている。
人道的ではないと思うが、制度として決まっている以上ただの平民の僕にはどうしようもない。
この魔法陣は、特定の人か知らない。
だれでも知ってたら大変なことになってしまう。
だれでも奴隷を作ることができればもはや混乱どころではない。
知っているのは奴隷商人や国の一部の魔法使いのみだ。
使うのは特別な植物や液体などを混ぜ合わせて出来上がった黒い液体だ。
それに所持権を持つ者の血を混ぜ合わせるのだ。
それを使って奴隷にするもののどこかに一段の簡単な魔法陣を描くらしい。
すると自動で魔法陣がその液体を使って描かれ、刻み込まれるらしい。
すべてらしいなのは実際にその瞬間を見たことがないからだ。
奴隷紋の効果は命令を無理やり聞かせるためだ。
特定の行動を起こしたら罰を与えることができるというものである。
特定の行動は所持権を持つものが自由に設定できる。
うそをつく、逃げようとする、命令に従わないなどだ。
自分で自由に決めることもできる。
罰は基本的に一つ。
奴隷紋が刻まれたところにひどい痛みを与えるというものだ。
それは、相当な痛みのようだ。
悲鳴を我慢することもほとんどできず、体の内側から炙られるような感覚のようだ。
奴隷紋は特定の人にしか外すことができない。
それは、所持権を持つ人と国の最高司祭だけだ。
彼が持っている奴隷は全員首輪をつけられている。
別につける必要はないが、見た目の問題もあるだろう。
奴隷を持っていると周りに威厳を持たせるためだろう。
だが、首輪にはもう一つ効果があることも知っている。
それは奴隷紋の能力を向上させるものだ。
痛みを増幅させたり、さらには死を与えることまでできるようだ。
「おせぇって言ってんだろごらぁ!!」
無理やり奴隷紋を発動させたのか、奴隷たちが一斉に苦しみ始める。
ひどい様子だ。
獣人だからって目の敵にされているがかわいそうだ。
僕自身は獣人だろうと人間だろうととくに違和感はない。
むしろ耳はかわいいと思うぐらいだ。
迫害されたことがあるという共通点があるからだろうか。
何もできない無能がそういう扱いされるのはしょうがないかもしれないが、ただ獣耳があるくらいでそういう扱いされるのは理不尽だと思う。
本人にはなんの罪もないのに。
だが僕自身にはなにもできない。
権力もない僕が異議を出したところで政府に逆らったなどで捕まるのが落ちだ。
なにも見ていないふりをしながら通り過ぎる。
罪悪感はあるがしょうがないだろう。
それでも……お腹のムカムカは治らなかった。
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森の中に入る手前まで知り合いに見つからずに来ることができた。
周りに人がいないのを確認してからゆっくりと入っていく。
道から外れると帰ってくるのがとても大変なので道のまわりにないか確認しながら進んむ。
木が周りに生い茂った道を進んでいく。
なんだか空気がおいしく感じる。
何分たっただろうか。
道をふさぐように魔物が立っていた。
水色でねっとりしていて体を変形させて動いている。
”スライム”だ。
雑魚だが、数が集まると厄介な性質を持っている。
魔法が使えるならば少し離れたところから攻撃することで簡単に倒せるが、持っている剣は長さ一メートルぐらい。
相手の攻撃が届くぎりぎりまで近づかないといけない。
スライムの厄介なところの一つは体が変形するところ。
長さもだいぶ変わるため、非常に近接攻撃があてにくい。
だが、日ごろから鍛えられたせいか、動体視力と回避能力だけは自信がある。
さらには毎日素振りなどをくりかえし、イメージトレーニングはしっかりしてあるので命に関わるようなことにはならないだろう。
スライムがこっちに気が付いたようで近づいてくる。
慎重に間合いを確認するも、こっちは片目である。
遠近感覚がつかみにくいため剣を前に出して先端と見比べて距離を測る。
あと5メートル弱まで近づいたころだろうか。
いっきに駆け出し、接近する。
それに反応して、あわてたように体を変形させて攻撃してくる。
狙いは足。
転ばせてその隙に襲うようだ。
それを一瞬で察知し、ジャンプで回避してよけて、そのまま切りつける。
その後は一方的な攻撃だ。
攻撃をさせる間を与えず、とにかく切り続ける。
5回ぐらい攻撃しただろうか。
急激にスライムの体がしぼみながら崩れ始めてそのまま倒れた。
スライムは物理的な攻撃が聞きにくいので一撃で倒すのは難しい。
縮んで残ったのは青いグミのようだ。
名前はスライムグミ。
そのまんまである。
基本は料理などで使われる事が多いが、おやつとしてもいける。
いちおう燃料としても使えるがそこまで燃費は良くない。
スライムグミは意外とレアものだ。
スライムには核というものがあるらしい。
目には見ることができないがそこに大量の魔力がたまっていてそこを攻撃すると一瞬で倒せるらしい。
そしたら核以外の部分が収縮してスライムグミになるらしい。
魔法を使って倒した場合、核が壊れる前に他の部位がぼろぼろになってろくな素材が残らないようだ。
なのでめったにこの素材を落とすことはない。
魔法が使えないという事が吉となる数少ない例である。
そのまま少しづつ進んでいった。
途中で何度かスライムと遭遇したが、4、5回で倒すことができた。
一体を除いてすべてからスライムグミがドロップした。
その後、しっかりとした足取りで進んでいるとなぞの違和感を感じて立ち止まる。
すると、草むらがガサガサとしたのでスライムかと思い急いで身構える。
だが、そこから出てきたのは人型をした緑色の生物。
”オーク”だ。
スライムより凶暴で倒しにくいといわれている生物だ。
スライムよりも魔法に対する防御力が高く、見た目が少しだけ人に似てるため倒すのをためらう人が多発するらしい。
また、木の枝をとがらせたような武器ももっていて攻撃を回避したり突撃してきたりなど行動も人間のようなのが原因のようだ。
だが、そんな事は僕には関係ない。
最初に出会ったときはびっくりしてしまったが今ではなにも思わない。
人間に似ているだけで全く血のつながりもない。
モンスターとして割り切っている。
それでも嫌悪感だけはぬぐえないのだが。
しかも、このモンスターは僕にとってはスライムよりも倒しやすい。
なぜなら……
「グギャァァァァァ!?」
一瞬で剣を抜いて突撃し、首を刈り取る。
オークは一瞬の動きに対応しきれず、武器で防ごうとしたが間に合わなかったようだ。
断末魔を上げながら首を落とし、そのまま倒れ込む。
僕が使っている剣は特殊な形状の物だ。
刃が片方にしか存在していなく、先端に近づくほど反ったようになっている。
この形状から抜いた勢いのまま敵を切りつける事が出来るのだ。
この武器を売っていた通りすがりの商人はこと剣を『刀』と呼んでいた。
勇者が作り出した剣で珍しい業物のようだ。
慣れない頃は扱いに苦労したが、今ではこれが一番の愛剣となっている。
刀の自慢はさておきこのモンスターの倒しやすい点はただ一つだ。
弱点が目に見える事だ。
”首”
ここを一瞬で力を込めて切り落とせばほとんどの人型魔物は一瞬で倒せる。
最初のころは胴に刺さったり切りきれずに途中で止まってしまったこともあったが今では動体視力と合わせてきれいに行けるようになった。
少しついてしまった緑色の血を刀を軽く振るう事で落とす。
気持ち悪い。
モンスターはオークの肉を落とした。
これも、基本は料理などで使われる。
そこまでレアではないが上手に焼かないととてもかたいが絶妙な火加減で焼くととてもやわらかくておいしい。
これまで何度か挑んだ事があるが、一度しか成功した事はなかった。
その時は暴れるぐらい喜んで少しずつ味わった。
付け合わせもほとんどなく、塩と胡椒だけの味付けだったが自分で一生懸命作ったからかとてつもなく美味しかった。
ドロップアイテムを魔法袋に突っ込んでそのまま進む。
またスライムが出る事が何回かあったが、そのまま切り捨てた。
スライムグミはどんどん増えてった。
そろそろ森の半ばまで来ただろうか。
少しずつ空が赤く染まってきたのでもうそろそろ移動は終わらせて野宿の準備をしなければいけない。
あと少しぐらいのところにいつも利用している少し大き目の野原があったはずだ。
野原についた。
そこには壮絶な光景がまっていた。
オークが何十体かあつまって戦っているようだ。
真ん中には三体ぐらいの魔物が見えた。
あの毛が生えた四本脚は”ウルフ”だろうか。
このあたりではあまり見ないレアなモンスターだろうか。
ようやくゆっくり出来るところを見つけたのにモンスターが大量にいたという状況。
イラッとしたのはしょうがないだろう。
だが、ここで決定的な出来事が起こった。
三体のウルフが戦っているところの真ん中に人の影が見えたのだ。
急いでそちらを凝視すると、一人の女の子が気絶しているのが見えた。
それだけでも自分を動かすには十分な理由だったようだ。
ウルフはなかなか強いものも集団で襲われたらどうしようもない。
女の子を守るようにウルフは戦っているものの近くには何体かのウルフの死体が落ちている。
まだなんとか戦っているものの倒れるのは時間の問題だろう。
早急にオークを倒さなければ女の子の命はないだろう。
やるしか……ない!
決心して足を踏み込む。
一つの小さな戦い。
だが、このあと国家を動かす大きな出来事
始まった瞬間だった。