第十二話 階段
意識が闇の中から浮き上がり、うっすらと視界が戻ってくる。
「おはようなのじゃ。」
「お、おはよう……」
視界がゆっくりとクリアになってきて今の状況が頭の中に入ってくる。
「で、なんで馬乗りになってるの?」
「じゃからクルレスさんがこうすればって」
まだ律儀に言われた事を守っていたようだ。
どうでもいい事なのに。
「シュナ……まずはそこから退いてくれないか。意外とお腹に体重がかかって重いんだけど……」
その言葉にシュナは素直に従って体から下りた。
腹の重みから開放されて、やっとのことで体を持ち上げる。
「シュナ。クルレスさんが言ったその事は嘘だ。やっても好感度も上がらないし、ただ僕のお腹が痛くなるだけだ。」
「そうだったのじゃか!」
シュナの顔が驚愕に染められる。
そういえば、前にやられた時はクルレスさんを襲う事に意識が向かっていてシュナに訂正するのを忘れていた。
今のうちに直しておくべきだろう。
「とにかく寝ている人に乗ったりしたら危ないからだめだからね。」
「分かったのじゃ。」
シュナを納得させる事は思ったより簡単だった。
ちょろいという事だろうか。
「そういえば階段が出来たんだったな。どうする?行く?」
「そうじゃな……食べる事だけ済ませていくのはどうじゃろうか。」
「でもまだそこまでお腹は(ギュルルルル~)……食べるか……」
魔法袋からまだ取ってあった保存食を全てを取り出して3分の1ぐらいを残してあとの分はシュナに渡す。
「いただきます。」
「いただきますなのじゃ。」
もそもそと保存食を口にほおりこむ。
う~ん。
不味いというわけではないが、味気なく口の中がぱさぱさしてしまう。
魔法袋から空の容器を取り出す。
「シュナ。水魔法をお願いしていいか?」
「了解じゃ。」
シュナが魔法陣を生成して、水を発生させる。
「でも便利だねぇ。シュナが魔法残留の技能を持っていたとはね。」
まだ冒険者選定大会の前の頃に教えてもらった事。
小耳にはさんだ事があるというだけだったが、シュナのを見て確信したんだった。
魔法は基本、一定時間経つと元に戻る。
土魔法で穴をあけても、火をつけても、燃えたものは戻らないが一定時間が経つと火はしっかりと消える。
もちろん水魔法で水を生成しても一定時間経つと消えてしまう。
だから飲んでも、お腹にから消えるだけで無意味というわけだ。
だが、技能『魔法残留』を持っているだけでそれが一変する。
土魔法で穴をあけても、火をつけてもすべてしっかりと残す事が出来る。
もちろん水魔法もだ。
お風呂は基本的に魔法を使わずに水道という物が使われている。
僕の家にあったのは、技能を付与した魔法道具で水はしっかりと残るようになっている。
おばあちゃんが、水道から水を出すのはめんどくさいとか思ったらしく高いお金を出して買ったらしい。
技能の付与は、とてつもなく難度が高く魔力消費も馬鹿にならない。
そのため高級品となっている。
だから、魔法残留を持つ者はなかなか仕事が多くもらえるらしい。
技能一つで役に立てるとはうらやましいものだ。
出してもらった水をゴクリと一気に飲み干す。
乾いていた喉に水がいきわたる。
「ごちそうさまなのじゃ。」
「ごちそうさまでした。」
量が二倍なのに食べ終わるのが同じというのはどういうわけなんだろう……
「じゃぁそろそろ行くか。」
「その前に昼寝したいのじゃ……」
シュナがいきなり寝むそうな顔をして横になろうとする。
「ちょ!起きたばっかりでしょ!」
「でも実際の時間は昼ぐらいじゃろう。」
確かにそれぐらいだろうか。
だが、このままここで待機していても飢え死にするのが落ちだ。
「夜ごはんがこのままだと無いけどどうする?」
「それは困るのじゃ!」
シュナはガバッと跳ね起きて、行く準備を慌てて始める。
とりあえず敷物などを片付けて、戦闘の準備を調える。
「よし!食料確保に行くのじゃ!」
「いや、脱出が一番の目標だからね!」
とりあえず、罠などがないか確認しながらゆっくりと階段を下っていく。
遠くが暗くなっていて何があるか見えない。
「『火玉』」
シュナが火の玉を放り投げる。
その玉が周りを照らし出す。
特に変な物はないのだが……
「どれだけ下らなければいけないんだ……」
「終わりが見えないのう……」
火の玉がゴマ粒ぐらいにしか見えないぐらいまで遠くに行ってしまっている。
だんだん小さくなってもう、見えなくなってしまった。
「おとなしく下るしかないのか……」
「しょうがないのう……」
おとなしく一段飛ばしで下っていく。
定期的に火の玉を投げるも底が見えない。
「あぁ~!もう、いらいらする!」
「本当に遠いのう……」
なかなか終わりが見えずにいらいらする。
「もう、こうなったら……」
ランキングから落ちました……
でも179位……やったぜ!
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