第五話 円盤
「あの盗賊なんだったのじゃろうか……」
盗賊がすべて退散し、地面にへたり込んだ状態でシュナが呟く。
「盗賊にしては装備が良すぎるし不自然すぎるからね……」
「この腕輪はたぶん古代遺跡の産物じゃろうか。魔法が使えないから外せんぞい。」
シュナは腕輪をガシガシ叩いているが、壊れる様子がない。
「ちょっと手を貸してくれ。」
「分かったのじゃ。」
そういってシュナの出してきた手を取り、刀を出す。
さっき、普通に刀で叩いてみたが少し傷が付いただけで取れなかった。
だが、風魔法をまとった状態なら……
「おぉ!スパッと切れたのじゃ!」
「いきなり動くと危ないって!刀を引くのが遅れたら手が切れてたぞ!」
一瞬の出来事に冷や汗が出た。
危ない危ない……
だが、無事に腕輪を外す事が出来た。
自分の腕輪も慎重に切って外す。
「でもこの腕輪はなんなったのじゃろうか。」
「たぶん古代遺跡の産物じゃないかな?」
普通の魔法ではこんな事はできない。
だが古代遺跡の産物ならどんな効果があってもおかしくない。
「まぁとりあえず面倒くさいことになったな……」
「そうじゃな……」
クルレスさんとは次の町まで別行動。
ここから町までは一本道で繋がっていたはずなので迷う事はないだろうが、馬車で1日だからだいたい3日ぐらいかかるだろう。
クルレスさんはたぶん別のルートで行ってるから遠回りになるだろう。
次の町まで他のルートで行くと……5日ぐらいかかったはず。
ちょうどよいぐらいだろう。
「まぁ時間がもったいないのじゃ。歩いていかないのじゃろうか?」
「シュナ。魔力に余裕はあるか……ってめちゃくちゃあったよな。」
「全然大丈夫じゃ。何かするのじゃろうか?」
「あぁちょっと試してみたいものがあるんだ。」
そう言って魔法袋から半径一メートルぐらいの円盤を取り出す。
出発の前に一週間全部かけて作り上げたものだ。
本来は冒険者としての活動の時に使うためのものだったがしょうがないだろう。
「なんじゃこれ?」
「移動用の乗り物さ。」
円のふちには20cmぐらいの柵に、中心には背を向け合えば四人ぐらい座れる回転するようにできた丸いイス。
裏面には大きい魔法陣が刻みこんである。
だが、表面はもっとすごい。
24個の魔法陣をきれいに刻んであるのだ。
イスを中心として8方向に3個ずつのびているのだ。
「こ、これはなんなのじゃ!?」
「移動用装置だ。ちょっと面白いだろ。真ん中に座ってくれるか?」
「分かったのじゃ。」
そのまま柵を乗り越えてシュナがイスに腰掛ける。
「じゃあその真ん中の小さな魔法陣に魔力を注いでくれるか?」
「えっと、ってなんなのじゃ!?」
魔力を注いだであろう瞬間、円盤の裏の魔法陣が輝く。
そして円盤は……宙に浮いた。
「重力魔法を裏に刻んでおいたんだ。シュナにしか使えないけどね。」
「魔力消費も少ないしすごいのう。」
「だけどこれだけじゃないぞ。いったん魔力を大量に注いで立ってくれるか?」
円盤の中央には圧縮した大きな魔石を埋めてある。
だからいったん大量の魔力を入れればしばらく浮いている事が出来るのだ。
「そのまま一番近くの魔法陣に触れて魔力を注いでくれるか?」
「了解じゃ。」
魔法陣が輝き作動する。
すると魔法陣が設置されている反対の方向から風魔法が作動し、なめらかに動く。
だいたい歩くのと同じ速さだ。
「おぉぉ!これはすごいのじゃ!」
「傑作のひとつだしね。反対側の魔法陣を動かせば止まるよ。」
円盤が動作を停止する。
「簡単な原理は地面から重力魔法で浮かして摩擦をなくし、風魔法で動きをつけることで永遠に動き続けるというわけだ。他にもいろいろ工夫があるけど簡単に言うとこれぐらいかな。」
「意外と単純なんじゃのう。」
とりあえず僕も柵を乗り越えて真ん中のイスに座る。
「一応安全のために柵に魔力を流すと強制的に止まるようになってるよ。」
「ではなぜ魔法陣が三つもあるのじゃ?」
「それは魔法陣ごとに力が変わって中心から遠い魔法陣ほど速く動けるようになってるよ。」
「すごいのう。じゃあ今日行けるとこまでみるのじゃろうか。」
「そうだな。とりあえず行くか。」
そういった瞬間シュナが一番端っこの魔法陣に手を伸ばす。
「ちょまて!?」
止めようとしたが間に合わず作動してしまう。
その瞬間、ものすごい勢いで進みだす。
「うわぁぁぁぁ!?」
「なんなのじゃぁぁぁぁ!?」
速度はだいたい馬の十倍ぐらいだろうか。
顔にものすごい風が当たって旨くしゃべれない。
「ひゃやくとめるぉぉぉ!」
「ひまびゃっておるのじゃぁぁ!」
シュナが風に逆らって柵に触り魔力を注ぐ。
その瞬間、円盤の縁から一気に風魔法が発動し、強制的に止まる。
急な停止に体が前方に飛ばされて頭から地面に突っ込む。
「い、いったぁ!」
「大丈夫じゃろうか?」
シュナは柵を掴んでいたからか吹き飛ばされることはなかったようだ。
だが大変な事になっている。
急いで反対を向いて話す。
「シュナ……ワンピースのスカートがめくれているよ……」




