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最弱異端児は夢を見る  作者: 時雨
第一章 最弱異端児は・・・
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第四十七話 最弱異端児は夢を叶える★

審判が最後に出した言葉。

その言葉に僕のクラスの人々から疑惑の声が噴出した。

これが……最後の抵抗というわけか。

ずいぶんと大きく出たもんだ。



カケルのニヤニヤ顔が復活してきたがその顔も……崩してやろう。



「その決闘の申請書は改竄されています!」



怒りなどを込めて全力で叫ぶ。

その言葉に会場が凍りつく。

書類の改竄などは立派な犯罪で学校が退学させられるレベルだ。

カケルを落とすところまで落とすと決めたんだ。

こんなところで終わってはたまらない。

ポケットから保険としてとっておいたものを取り出す。



「アイカ先生。あれ(・・)をお願いします。」

「分かりました。」



本来ならもう少し後で使う予定だった物を早めに出してもらう。

これからの期待に胸が高鳴る。

さぁ惨めにわめけ叫べ。

泣いても笑ってもこれが最後だ。



「セット完了しました。では、どうぞ。」



アイカ先生に用意してもらったのは音声拡大装置。

音声記録装置をはめるとその音が大音量で流れるというわけだ。

高揚感を胸に音声拡大装置に音声記録装置をはめる。

その後アイカ先生が魔力を注ぎ込み装置が動き出す。



『お前!まだ幼い少女に何をしているんだ!家に連れ込んだりして!』

『誰の事を言ってるんだ?前学校に来た子なら言っただろ。親戚の子だって。』

『それは、嘘だ。調べたらあのおばさんの親戚はもういない!お前に親戚がいるはずもないしな。』

『何を言ってるんだ?どんな勘違いだよそれ。』

『もうこっちには証拠がそろっているんだ。こちらの要求はただ一つ。あの少女の開放だ。』



会場にあの時の会話が大音量で流れる。

カケルの慌てた顔が本当に面白い。

人の不幸を笑うのは良くないとか言ってる人がいたけどこの場合には心の中で笑うしかないだろう。



「ま、待て!『爆風球』!」



突然魔法陣を展開させているのが見える。

どうせ、装置ごと壊して証拠を隠滅しようとしているのだろう。

だが、その魔法の選択ははずれだ。



先生が魔法で対抗しようとしているのを手で押しとどめる。

いったん装置を止めてカケルの方を向く。

こんなものは簡単だ。

魔法陣を見ると現象量も圧縮率もカケルの限界までやっているようだ。

人を簡単に殺せるであろう威力。



「行け!」



まっすぐとこちらに飛んでくる。

冷静に対処すれば……行ける!



「うりゃぁ!」



焦らずに魔法を見て刀を……まっすぐ刺す。

爆玉魔法の欠点。

それは爆破条件が何かとの接触。

つまり魔法核を攻撃しなくてもそのまま消し去る事ができるというわけだ。

刃魔法とかだったら魔境眼を今は起動させていないので対処できなかったであろう。

頭の良いカケルも冷静じゃなくなるとこんな風になるのか。



刀と魔法が接触し、風の爆弾が炸裂する。

少し距離があるが威力が強いからか爆風が体にかかる。

風で飛ばされそうになるのを足を踏ん張って耐える。



「先生!『縛魔法』を!」

「分かりました!『炎氷縛インフェルノバインド!』



アイカ先生がものすごい勢いで魔法陣を展開させる。

アイカ先生は普通の魔法の才能がほとんどない。

基本となる玉魔法も刃魔法だ。

だが、一つだけ縛魔法の才能が天下一品で全属性の縛魔法を完璧に使う事が出来る。

耐久力も継続時間も高く、生成速度もとてつもなく速い。

さらには複数属性の融合した縛魔法に、反転属性の魔法まで完璧に使えるのだ。



アイカ先生が出したのは火の強化版の炎魔法と、水の強化版の氷魔法を合せた魔法。

反発しあう属性の魔法を融合して発動させられるとはおそるべき実力だ。



「ふぐぅ!」



二つの色の縄がカケルを縛り付け、動けないようにしている。

口もふさいでいて魔法を唱えることもできないだろう。

どっちにしてもさっきの攻撃で魔力は尽きているだろうが、これ以上変な行動を取られると面倒だからだろう。

体が動かない状態では魔法道具も使えないだろう。

惨めな姿だ。

笑いを堪えるのに全精神を集中させているが、それでも軽い笑い声が喉から漏れてしまう。

まぁ自業自得だ。

カケルが完全に動けなくなった事を確認して、再び装置を作動させる。



『バカじゃないのか?』

『なにがだ!?』

『どうせ、冒険者選定大会で負けるのが怖いから先に手の内を見て対策を立てようとしてるんだろう?』

『ふ、ふざけるな!』

『ほらぁ。図星を当てられて慌ててるぅ。まるわかりだぞぉ。じゃぁこれでどうだ?冒険者選定大会で僕は決勝戦に絶対に行くつもりだ。絶対に。そこで決闘を同時開催すればいいじゃないか。』

『何?』



「むぅ!むぅぅぅ!!」



カケルの呻き声が響くも観客はそれどころではないだろう。

驚愕に目を見開く人、ここからどう展開するのか期待感を持っているような表情の人。

もう、カケルがどれだけ呻いても無駄だろう。



『簡単な話。冒険者選定大会でお前が優勝すればお前の勝ち。僕が優勝すれば僕の勝ちだ。』

『……それでいいだろう。もちろんお前が決勝にこれなかったらお前の負けだよな。』

『あぁそれでいいだろう。』

『要求も明確にしておこう。お前の要求は……あの子の身柄の確保ということか?』

『違う!あの子の開放だ!』

『開放も何もただ僕の家に泊ってるだけなんだけどなぁ。とにかくあの子に関する事でいいか。こちらの要求は……決闘終了後に決めるでもいいか?』

『何!そんなのずるいじゃないか!』

『何だと?負けるのが怖いのか?』

『あくまで制限の中でやるけどな。』

『……分かったそれでいいだろう。決闘届はこちらから書いて出しておく。』



装置が停止し、音が止む。

会場が騒然とし、カケルを非難する声などが当たりから湧いてくる。



「これが、改竄の証拠です!」



しっかりとした声を会場に響き渡るようにしゃべる。

カケルの表情も完全に絶望に染まっている。

だが、まだ終わりではない。

もっともっと絶望させてやる!



「先生もそれを他の生徒からも確認しています。」



カケルの退路を完全にふさぐ一言。

もう、笑いを抑えきれる自信がない。



「えっと……決闘の本当の内容は無制限ということでよろしいのでしょうか。」



ここまで完全に空気になっていた審判が動き出す。



「もちろんです。」



簡潔に答えを返す。

カケルもしゃべろうとして口を動かしているも、ふさがれているため声になっていない。



「では、決闘の要求をお願いします。」



ここで家の財産全部と言ってもいいのだが、ここはカケルのプライドをズタズタにした方が面白いだろう。

なんか、自分が世紀末の悪者みたいに思える。

怒りで穏やかな心がくすんでしまったのだろうか。

でも改める気はない。

罪のない動物を無残に殺した奴にかける慈悲などは存在しない。



最後の切り札をポケットから取り出して高く掲げる。

全部で8つの音声記録装置。



「要求を一つ言う前に皆さんに聞いてほしいものがあります!」



喉が潰れるぐらい声を出す。

軽い痛みが喉から出るも、高揚感でかき消される。

静まり返った会場に声は響き渡る。



「先生。これを。」



音声拡大装置の本来の使用予定。

それはこの8つの証拠を全体に流すためだ。



「分かりました。では流します。」



先生が音声拡大装置に音声記録装置をはめ込み、起動させる。



『……ぃろん約束通り持ってきたんだよな。』

『は……はい……』



会場に再び響き渡るカケルの声。

この音を聞いてカケルが再び喚き始める。

本人だからか一瞬で理解できたようだ。



『あれぇ?これだけしかないのか。どうせまだあるんだろう?出せよ全部。』

『も、もうありませんって!』



これは、昨日後輩や同級生から受け取ったいじめの記録。

今流れているのが、後輩からもらった恐喝のシーンだ。



カケルの顔から希望というものが抜け落ちて、絶望に染まっていくのが見える。

もうこれでカケルの理想の道は埋め尽くされたであろう。

学校退学待ったなしだ。



この後、8人すべての証拠を流しつづけた。

カケルはもう完全に絶望して死んだようにクタリとしていた。



「以上の事実を踏まえ要求はただ一つです。」



会場の視線が一気に集まるのを感じる。

最後の締めと行こうじゃないか。



「これまでいじめてきた人々、全員への謝罪だ。」



一番の願い。

何人もの願いがこもった一つの抵抗。



「先生。魔法を解除してください。」



カケルの体から魔法が消え、自由になる。

体が地面に投げ出され、倒れ込む。



カケルに残された道は二つ。

謝罪して軽い罪で済むようにするという道。

意地でも抵抗して退学だろうと何だろうと気にしない道。

どちらを選ぶかどうか。



「油断したな!死ね!『風刃ウィンドカッター』!」



やはり冷静さが欠けているようだ。

魔法で拘束されている間に魔力が多少ながら回復したようだ。

魔法の威力はそこまで強くない。

当たっても死ぬほどではないだろう。

だが、わざわざ当たってやる筋合もない。



魔法の通り道を読み、その路線上から外れる。

そのまま魔法が真横を通り過ぎる感覚。



避けられる事を想定していなかったのかカケルが慌てて魔法陣を生成する。

だが……



「そこまでです!『全縛オールバインド』!」



アイカ先生が魔法を再び生成する。

もはや、気を使う価値も無くなったと判断されたのだろうか。

手加減なしの一撃。

全属性の合成魔法だ。

五色の縄が出現してカケルを縛り付ける。



「カケルには後でしっかりと謝ってもらいます。イツキ君は控室に戻っていてください。これいじょう危ない目には合わせられません。」



先生の言葉に甘えてステージから出ていく。

しんと静まり返っていた観客席も少しずつざわめきが戻ってくる。



すべての……決着がついた。

挿絵(By みてみん)

友人のイラスト第三弾。

カケルの杖です。


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