第四十五話 全力★
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人を切った時には絶対に起きないであろう感覚。
手に痺れが走る。
何が……起こったんだ……
「残念だったな。『爆風球』」
冷徹なカケルの声が耳に響く。
「何!」
急いで背後を振り向くと、こちらに向けて魔法陣が展開されている。
驚いていて反応が遅れる。
くそ!間に合わない!
「行けっ!」
まだ……まだ全力で踏み出せば間に合う!!
だが、ぎりぎり間に合わず風の爆弾の爆風を受けて吹き飛ばされる。
「グハッ!!!」
ステージの壁に叩きつけられ、肺から空気が一気に抜ける。
すでに結界石の効果は切れていて黒煙も消えてきてしまっている。
「はっはっは!!!雑魚が手を出すからそんな事になるんだ!」
カケルが高笑いしているのが黒煙の隙間から薄く見える。
体が悲鳴を上げるも、それを無視して立ち上がる。
もう体も限界が近いだろう。
せいぜいあと一回攻撃を受けたりしたら限界だな。
そして、黒煙が晴れカケルの姿が露わになる。
傷一つなく、さっきの攻撃に対して何のダメージを受けていないようだ。
な……なんでなんだ……。
頭の中で必死に考える。
カケルは余裕の表情で出方を待っているようだ。
どうせ、こちらから手を出さなくても勝てるとでも思っているのであろう。
切った時の感触は絶対に切れない金属にきりかかったような感覚。
なにか魔法を使ったと考えるのが妥当だろう。
だが、知っている魔法でこんな現象を起こすのは無属性魔法にしかない。
カケルが無属性魔法を使っているところも見た事がない。
これまでの試合でも風魔法だけで圧倒していた。
他に考えられるのは魔法道具に頼ったというところだろうか。
魔法道具は種類が多いため全ては覚えていない。
知っている限りでこの様な現象を起こすものを考えるも思いつかない。
カケルの様子を確認するも、魔法道具を隠せる場所といったら服の中か手の包帯……
威嚇の意味も込めてにらみながらカケルを観察する。
両手に巻いている包帯。
ただの飾りではなく、なにかを隠すためのものではないのだろうか。
そこで、あるものを見つける。
カケルの片手の包帯。
その中から体から見える光よりわずかながら明るい光が見えている。
魔境眼を通してみたので、たぶんなんらかの魔法道具が仕組まれているのだろうか。
どこかで見覚えのある光の形。
なぜ両手に包帯を巻いているのに片方しか反応がないのか。
さらに思考回路を加速させ、考える。
片方しかない……
考えられるのはもともと片方しか持っていなかったのかそれとも……使用済みという事だろうか。
それに気が付いた瞬間、過去の事が頭によぎった。
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「この謎の腕輪はなんだ?」
「これはごく少ない遺跡から出てきた魔法道具さ。いいものに目を付けたねぇ。」
「効果は?」
「物理的攻撃を防げるというのさ。付けてると少量だけど魔力が吸い取られるがな。」
「ほほう。」
「だが、一回きりだ。一回使うと自然に外れて壊れるんだ。」
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行商人の会話。
謎の腕輪の効果がさきほどの現象を証明する事が出来る。
たしか三つほどすでに購入した人がいたと言っていた記憶。
それがカケルだったとしたら、商店街でカケルとであった理由にもなる。
頭の中でその仮定を鍵として解決策を探し出す。
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「二つ同時に付けると干渉してしまうんだ。一度は普通に使う事が出来る。だが、片方が発動したらもう片方の道具がエラーを起こしてしまうんだ。」
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さらに行商人が言った事を思い出す。
買った人には説明していないだろうから、カケルが買っていた場合はこの弱点を知らずに複数を同時に使っているかもしれない。
カケルの片手でいまだに薄く輝く光がこの腕輪だったら……まだ勝つ可能性が考えられる。
今使えるのは、予備として持っていた一つだけの結界石と試作品の刀のピース。
この二つがあれば勝つことはまだ出来る。
だが、これまでの仮説が全て正しかった場合だ。
もし、カケルがこの腕輪を持っていなかったら、別の魔法道具を使っていたら、一つしか使っていなかったら、その瞬間全てが失敗する。
「ククク、クックックッ……」
「なんで笑っているんだ?」
いぶかしげな目でカケルが見てくる。
出来るところまで準備を整えたのに最後の最後は運勝負。
笑いしか出てこないだろう。
「『解除』!」
刀から風魔法のピースを取り出し、いそいで試作品のピーツをはめ込む。
「『風刀』!」
さすがにこちらの行動を不審に思ったのか魔法陣を展開させてくる。
その魔法を難なく避けて、刀を下に構え……全身の筋肉を使い思いっきり空高く上に放り投げる。
「何!」
カケルが空高く宙を舞う刀に気を取られ、こちらへの注意が弱まる。
落ちてくるまで10秒ぐらいだろうか。
今が……チャンスだ!
「うおりゃぁぁぁぁ!」
しっかりとカケルを狙い、結界石を投げつける。
石は放物線を描きながら飛んでいき、カケルに接触して砕け散る。
その瞬間……腕輪がエラーを起こし……爆発する。
二つの腕輪を装備している状態で片方が作動するともう片方が故障する。
故障した腕輪は軽い攻撃でも作動し、エラーを起こすと言っていた。
その後……爆発する。
それがもろい石がぶつかっただけだとしても。
「うわっ!」
爆発でカケルがよろめいてバランスを崩す。
そこに……つけ込む!
投げると同時に足を踏み込み、全力で走り出す。
カケルまで一直線に駆けより片足を本気で蹴り倒す。
バランスを崩した状態での片足の攻撃。
結果はもちろん転倒だ。
「グハッ!」
背中を強打し、肺から空気が漏れるカケル。
起句が唱えられないように口を片手で無理やり封じ、馬乗りになって体を押さえつけてほとんど動けないようにする。
手足をバタバタさせて抵抗しているが、ほとんど無意味だ。
「ムームー!」
詠唱をしようとしているようだが口をふさいでいるため旨くいかない。
「『誘引』!」
魔法道具の起動呪文を最後に大声で叫ぶ。
それにこたえるように刀が魔法陣を展開し、こちらに向かってスピードをつけて飛んでくる。
刀に今仕込んであるピースには重力魔法が刻んである。
所有者に向かって飛んでくるように設定済みだ。
ただし、無属性魔法の魔力消費はバカにならない。
あの圧縮した魔石でも一度で魔力が枯渇したので一度きりの必殺技というやつだろうか。
飛んできた刀の柄を片手でとらえ、カケルに刃先を向ける。
最後の憂さ晴らしだ。
「これは今までのいじめの分!」
大声で叫びながらカケルの片手を切る。
「グワァァァ!」
「これはシュナの分!」
痛みで呻いているのを無視してさらにもう片方の手を切る。
「ウグァ!ウギャァァァ!」
「痛みが軽減されているのに大げさなんだよ!!」
怒鳴りつけ、最後の攻撃へうつる。
「これは!」
一番大きな恨み、怒り、悲しみを刀に込めて最後の攻撃を繰り出す。
「カナの分!!!」
大きく振りかぶってカケルの首に刀を振るう。
そのまま首を貫通して地面に突き刺さる。
そして、結界が自動で解除されて壊れた結界石もカケルの傷もすべて元通りになり最初の位置にもどる。
「決勝戦結果!イツキの勝利とする!」
戦いが……終わりを告げた。




