第四十四話 決勝
「さぁさぁ最後の決勝戦!」
活気のいい声で実況者が解説する。
冒険者選定大会では最初の方の試合は学校の職員が淡々と進めていく。
だが、最後の方の盛り上がる試合で淡々とした態度はつまらないという理由から5年前から最後の5試合は実況者を招いてやる事になったらしい。
「今ならまだ命乞いを聞くぜ。」
「馬鹿じゃないのか?言うのはお前だろ?」
カケルが喧嘩を売ってきたので淡々と返す。
「お前は絶対に負けるからな。」
「勝手に言ってろ。」
カケルは絶対の自信を持っているように見える。
その余裕につけ込むのが今回の作戦。
場の準備は完璧の様だ。
職員席の方を軽く見て作戦が順調に進んでいる事を確認する。
アイカ先生の方を見ると、頷いて返してきた。
大丈夫のようだ。
「今回の参加者はなんとレベル10越えの期待の新人!称号裏の風使いのカケル!」
その言葉を聞き、観客席が沸き立つ。
裏が称号についている場合は大抵『反転魔法』が使えるからだ。
だが、僕は別の意味を持っているようにしか感じないのはなぜだろう。
「そして!謎に包まれた少年!レベルも称号も一切不明の魔法が使えない少年!イツキ!」
観客席から疑惑の声が上がる。
まぁこれが普通の反応だろう。
生徒達はすでに結果が決まっていると言わんばかりにがっかりした表情をしている。
その表情……絶対に崩してやろう。
「さらに!なんと今回の試合が決闘も兼ねています!」
その言葉に観客席全体がこれまでにないような勢いで沸き立つ。
これまでもそのような試合は何回かあったようだが、大抵番狂わせが起きるためだ。
「では、双方構え!」
その言葉でカケルと向き合って武器を抜く。
「なんだ?その武器。」
会場が嘲笑に包まれる。
僕が取り出したのは黒く染められた剣。
大抵の剣は魔法鉄や魔銀などで作られるため、黒い剣というのは特殊な木剣しかない。
それは練習にしか使わない刃をつぶした剣なので攻撃力はほとんどない。
たぶん観客は僕がそれを使っていると思ったのだろうか。
ミラネウム金属は癖が強いため武器にはほとんど使われないのでそこまで有名ではない。
観客の笑い声を意識の外に追い出しながらカケルが武器を取り出すのを見つめる。
「おぉぉ!」
今度は僕とは正反対の歓声に包まれる。
カケルは両手の腕になぜか巻いている包帯から杖を取り出した。
杖はスタッフとは違い威力より手数や小回りを重視した武器だ。
僕の戦闘スタイルに合わせた結果だろうか。
カケルの武器にはドラゴンの装飾がされていていかにも強いというイメージがある。
相当な業物だろう。
ステージの中央から結界が生成されていく。
そして生成が終わり、開始準備は調った。
「では!開始!」
一気に精神を集中させ、無駄な物を一切認識しないようにする。
「『風刃』!」
カケルが魔法を構築しながらステージの中央に向かって歩いてくる。
その間1秒ぐらいだろうか。
魔法の構築を完了した瞬間に放ち、そして新たな魔法を構築する。
一秒置きに飛んでくる魔法を頑張って避けながら時計周りに進んでいく。
カケルとの距離はだいたい20メートルぐらいだろうか。
まだ避ける事が出来る範囲だ。
接近して一気にけりをつけたいが、さすがに至近距離の魔法を防ぐことはできない。
「ちょこまかと!」
サラサラと避けていく姿に観客席から歓声が上がる。
生徒達がいるほうからも歓声が聞こえてくる。
さすがにここまでやるとは思わなかったのだろうか。
休む暇もなく飛んでくる風の刃をよけながら結界石を地面にゆっくりと設置していく。
しゃがんで避けるフリをして設置いるのでまだカケルには気が付かれていないようだ。
一つ、二つとステージの端に四角形になるように設置していく。
「くっ!」
3つ目を置こうとした時に、魔法が腕にかすってしまった。
少量の血が周りに飛び散る。
「そこだぁ!『風刃』!」
連続で詠唱していたため息が切れてきているようだが、魔力にはまだまだ余裕があるようだ。
体のバランスを崩したのと思ったのか2つの魔法を同時展開して打ってきた。
多重展開が相当難易度が高く、魔力の消費も馬鹿にならないので、ここが正念場だと思われたようだ。
だが残念ながら体力はまだ残っている。
一瞬で結界石を置き、その場から飛び去る。
「チッ!」
カケルの舌打ちを耳に聞きながら再び移動し、最後の結界石を設置し終わる。
そのままの勢いで、最初にいた位置に戻ってきた。
ここからが重要だ。
失敗は許されない。
「あれぇ?魔法を当てる事もできないのかなぁ?」
カケルを煽りに煽る。
「抜かせ!今に当ててやる!」
「といいながらもほっとんどかすってないけどなぁ?何でだろうねぇ?」
飛んでくる魔法をふざけた感じに避けつつ挑発する。
「ふ、ふ、ふざけんなぁ!」
よし、成功だ。
足を踏み込もうと力を入れる。
そして、一秒ぐらいたっただろうか。
片足の土がごっそりと無くなった。
カケルの顔が勝ち誇ったようになる。
だが、残念。
この行動をはすでに予想出来ていた。
カケルが土の反転魔法の一部が使えるソウタにあるものを渡しているのを見たのだ。
『延長紙』だ。
効果は単純で魔法攻撃の射程を一度だけ100倍まで伸ばすという物。
もちろん高級品で普通では手に入らないが、親からもらったのだろう。
さらに、魔法攻撃が通らないこの結界も一つだけ例外がある。
反転魔法は威力が削減されるものの、通ってしまうわけだ。
だが、予想していた攻撃は大した効果を生まない。
足元をチラリと見て魔法陣を確認した時、眼帯を一瞬で外しておいたのだ。
「『起動』!」
バランスを崩している最中に起句を唱え魔境眼を作動させる。
視界の中に光が現れ、魔力の流れが視認できるようになる。
カケルが魔法陣を展開させているのを見て、速度などをだいたい推測する。
普通よりは速め……威力も一撃で決着がつくくらい……
だが、対応しきれない速度ではない。
落ちついて刀を構え、備える。
「行け!」
カケルは勝ち誇ったままこちらの行動には気が付かなかったようだ。
バランスを崩しているものの、威力が軽減されているため穴の深さは10cmぐらい。
体が傾いた状態でしっかりと魔法の核を認識する。
狙いは首筋の様だ。
核にむけて刃のない方に手を添えて構える。
そして、魔法が接触して……
「何!」
消え去る。
観客席からも驚きの声が上がっているのが聞こえる。
とつぜん魔法が消えたのだ。
しかも魔法を一切使わずにだ。
「残念だったな。まだまだだ。」
職員席の方を確認するも、問題ないようだ。
「な、なんなんだ!その目は!」
カケルが予想外という感じの声を上げる。
たしかに魔法陣が光っている目は不気味だろう。
冷静に相手の言葉を受け流し、最後の確認を済ませる。
よし、大丈夫だ。
「これで終わりだ!」
ポケットに忍ばせていた魔法実行紙を取り出す。
これはシュナに作ってもらったものだ。
「うりゃぁ!」
思い切り引きちぎり魔法実行紙が作動する。
破った所を中心に魔法陣がとてつもない速度で生成されていく。
禁術『サラマンダー』
全部で90段を超えるこの魔法は相当な威力を発する。
もちろん魔法陣もとてつもなく巨大になるため、ステージに収まりきっていない。
たぶん学校の中は埋め尽くされているだろう。
このまま普通に魔法を作動させる手もあるが、その場合勝てても僕が禁術使用で捕まってしまう。
だが、魔法陣で判別できる人はほとんどいない。
だから壊す。
シュナに頼んだのは、魔法陣が生成されるが、実行すると破綻するように魔法陣をいじる事。
見ている所無事に生成されているようだ。
「なんだこれは!?」
カケルが驚きの声を上げる。
観客席を見ると、あぜんとしている人ばかりだ。
ここまで大きな魔法陣を見た事ある人はここにはほぼいないだろう。
数秒たち、生成が完了する、
そして作動し……破綻する。
その瞬間魔法陣の中心から黒煙が立ち上る。
前に部屋でやったものとは桁違いの量だ。
だが、このままだと数秒ぐらいで消えるであろう。
ステージの結界が防ぐのはあくまで攻撃だけであり、魔法の残滓である黒煙は防がないからだ。
だからここで……
「『展開』!」
結界石の結界を作動させる。
結界石の結界が黒煙を閉じ込める事は確認ずみである。
結界が無くなるのが3秒なのでタイムリミットは5秒ぐらいだろうか。
ここからは失敗が許されない。
目を見開き、カケルの心臓の光を視認する。
魔力量が多いからかシュナほどではないにしても他の人より明るく光っている。
さらに周りには魔法陣を展開しているのが見える。
方向はばらばらでやみくもに打っているのだろうか。
自分がターゲットされていない攻撃を避けるのはたやすい。
「『加速』」
刀に仕込んだ魔法の起句を唱える。
その瞬間に刀が魔力を伴うのを感じる。
刀に現在仕込んであるのは以前作った風魔法を使った剣の改良版だ。
前回の切れ味と振る速度の上昇を倍にしてある。
これまでは魔力消費が心配だったが魔石を圧縮することによって余裕が出来たからだ。
刀を両手で持って一気に足を踏み込む。
そのまま刀の速度上昇を活用して加速し一気にカケルに接近する。
「これで……終わりだ!!」
最後の一声と共に光る点に向かって刀を振る準備をする。
この攻撃ですべてが決まるだろう。
「うおりゃぁぁぁ!」
気合の一声と共に刀を振り、胴体を切り裂く……
(カキィン)
手に……つよい衝撃が走った。




