第四十三話 前夜
「例のものは準備できたか?」
放課後の教室。
僕は今、ある人々と会っている。
約束のものを受け取る為だ。
「あぁ俺は大丈夫だ。」
「僕も大丈夫です。」
「僕たちも準備出来ています。」
集まっているのは8人。
同級生から後輩、男子から女子までいろいろいる。
「これで、あいつを倒してくれるんだろうな。」
「あぁ。これで完璧だ。」
作戦は全て完了した。
あとは本番だけだ。
「本当に……本当に頼むぞ!」
「おう、任せとけ。」
これからの事に緊張している事を隠しながら言う。
絶対に失敗するわけにはいかない。
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冒険者選定大会の前日。
テストの日だ。
「不正などは絶対にやらないように。不正行為が発覚した場合は失格となる。」
教壇で先生が注意を呼び掛ける。
テストは全部で100問。
一問一問難しいのから簡単な物までいろいろ揃っている。
今回の冒険者選定大会の参加者は約90人。
いつもより多いため、今回のテストで50人まで絞られる。
「では……始め!」
一気に解き進める。
―――問1 魔法の属性五つを全て答えろ。
簡単な問題。
答えは水、土、火、雷、風だ。
自分の席はカケルの左前。
カンニングしてもおかしくない位置にいるというわけだ。
カケルの苦手な範囲は知り尽くしている。
そこでカンニングをしてくる可能性はとても高いだろう。
―――問2 火玉の基本魔法陣の段数を答えろ。(特殊効果の設定はないものとする)
これはすこし難しい問題だが、魔法陣と日々向き合っている僕にとっては造作もない。
基本魔法陣のため、大きさなどの設定を含まない。
なので答えは三段だ。
―――問3 冒険者の中で最初に最高ランクSを獲得したものは誰か。
きた!
カケルの苦手な問題だ。
人の名前などが聞かれる問題はカケルの苦手分野。
もうすぐカケルもこの問題にくるだろう。
正解はサムエル。
四属性使いとして有名になったものだ。
だが、あえて答えをハルスと書く。
間違えた答えを書かせるためだ。
書いた解答用紙を右後ろから見えやすいように置く。
これで何とかなるだろう。
そのまま問題を解き進めていく。
最後まで解き終わったが解けなかった問題が一問もなかった。
勉強した甲斐があったようだ。
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「やめ!ペンを置いて後ろから解答用紙をまわすように。」
見直しも完璧に終わらせ、高確率で100点がとれるであろう。
「この結果は明日の冒険者選定大会の開会式で発表される。明日も正々堂々頑張るように!では、解散!」
席を立ち、そのまま帰路に着く。
「おかえりなのじゃ。」
「あぁただいま。」
いつも通りシュナが出迎える。
「イツキ。テストはどうだったのかい?」
「大丈夫。しっかりできたよ。」
おばあちゃんもあの事件からだいぶ立ち直れている。
最初のころはショックを受けているようだったが今はもう元通りだ。
「しっかりやりなさいよ。カナの為にも。」
「あぁ。」
「今日はしっかりと食べて明日に備えなさい。」
居間に入るとすでに料理が用意されていた。
いつもよりも豪勢な食事だ。
「で、なんでお前らまでいるんだ?」
食卓にはすでにマサトとサクラが座っていた。
「遅かったわね。ほら座って座って。」
「いや質問に答えてよ!」
「前夜祭だよ。明日の為にパーとね。」
「そうよ。明日しっかりとやりなさいよ。あの子猫の為にも。」
サクラにはマサトが説明してくれたようだ。
「では、カンパーイ!」
宴は夜遅くまで続き、気が付いたらもう眠ってしまったようだ。
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次の日の朝、目が覚めたらベットの上にいた。
下の布団を見るとそこにはマサトが寝ていた。
「……なんでお前が寝ているんだ?」
疑問を抱きながら軽く揺さぶって起こす。
「……イツキか……おはよう……」
マサトが目をこすりながらゆっくりと起き上がる。
起きたところで今一度聞く。
「……なんでお前が寝ているんだ?」
「えっと……なんだっけなぁ。」
「覚えてないのかい!」
ついノリで突っ込んでしまった。
「そうだ思い出した!なんかおばあちゃんが夜は暗いから泊っていきなさいと言われたからお言葉に甘えたんだ。」
「親は大丈夫だったのか?」
「僕の家はそこまで厳しくないからね。」
「イツキーというか全員下りてらっしゃーい。朝ごはんできているわよ~」
「は~い。」
そのまま扉を開け、ゆっくりと下りていく。
途中でサクラとも遭遇した。
「お前も泊ったのか?」
「そうよ。わたしはシュナちゃんの部屋だけどね。すごいわねあの部屋。めちゃめちゃきれいだったし。」
シュナはあの日以来ずっとあの部屋を使っている。
あの部屋が気に入ったようだ。
たまに、自分の部屋に夜に来る事はあるが。
おばあちゃんが現在使っている部屋も見たが、あいかわらずの美しさだった。
「で、朝から肉とはなかなか豪勢な。」
「いっぱい食べて頑張りなさい!」
オーク肉のステーキが食卓に並んでいる。
朝から肉は乗り気がしないが、体力がないと今日の作戦は成功しない。
太りたくはないが、あきらめてかぶりつく。
「これは……美味しいですねぇ。」
サクラは初めて食べたのだろうか。
満面の笑みで絶賛している。
「おかわりもまだあるからジャンジャン食べなさ~い」
「は~い!」
意外とサクラもノリがいい。
「「「「ごちそうさまでした!」」」」
全員が食べ終わり、おばあちゃんが片付けを始める。
僕らは学校へ行く準備をする。
だが、今日は冒険者選定大会のために持ち物は水筒ぐらいだろうか。
それも水魔法が使えればどうでもいい。
……何の味もない水だが。
「「「行ってきます!」」」
「いってらっしゃい。後で見に行くからね。」
「わらわも行くのじゃ!」
冒険者選定大会は学校の宣伝も兼ねている。
しっかりとしたステージで行われ、王都からわざわざ見に来る人も少なくはない。
全校生徒が見るが、その5倍ぐらいの観客が毎回押し寄せてくる。
この大会でスカウトされた先輩も何人かいたはずだ。
いつもより速い速度で学校に向かう。
時間には余裕があるが、早めに着いた方がいいだろう。
「おい、兄ちゃん。少しツラかせや。」
やっぱり絡まれた。
たぶんカケルの差し金だろうか。
「残念ながら僕にはいかなければ行けないところがあるので。」
「あぁ?どうでもいいからつべこべ言わずついてこいや!」
突然の魔法陣の展開。
実力行使をしてくるとは思ったがここまで早いとは。
展開しているのは『土刃』。
「イツキ。先に行け。」
マサトが魔法陣を展開させながら言う。
展開しているのは防御魔法。
即座に属性を把握して展開しているようだ。
防御魔法は3つの設定ができる。
大きさ、厚さ、そして属性だ。
もちろん大きければ大きいほど防げる範囲は広がるし、厚ければ厚いほど多くの魔法に耐えられる。
大きくしたり厚くしたりするほど消費魔力は大きくなる。
さらに、展開した後も一定の魔力を消費するため相手の出方を読まなければいけないという難点もある。
「分かった。後から来いよ。」
「おう!」
マサトに背を向けて学校にサクラと共に走り出す。
「ごらぁ!待てぇ!」
後ろからどなり声が聞こえてきたものの無視して進む。
「後でなぁ!」
「おう!」
そのまま学校まで走り続けた。
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「ただいまより冒険者選定大会の開会式を始める!」
学校にあるスタジアム。
中には90人の生徒が立っていた。
観客席には他の生徒たちが全員座っている。
マサトは僕たちが付いてから10分ぐらいしてからやってきた。
特に怪我もなく、無事でよかった。
スタジアムの職員席から校長先生が話している。
長くつまらない話を聞き流しながら、計画を頭の中で復習する。
大丈夫だ。問題ない。
「では試験の結果を発表する。」
肝心の結果発表。
ここで一位がとれていなければその時点で計画が破綻してしまう。
「では一位から発表する。」
頭の中で願い続ける。
頼む……頼む!
「一位はイツキ!満点だ。」
よっしゃぁぁぁ!
自信があったがいざ本番となると緊張する。
安堵の息を吐き、校長先生の方に向かう。
そこで解答用紙を受け取り元の立っていた位置に戻る。
「二位はカケル。おしいが一問間違いだ。」
カケルが悔しそうな顔で受け取りに行く。
この後も一人ずつ名前を呼ばれ、解答用紙を受け取っていく。
そして50人全員が呼ばれ残った40人が悲しみの声を上げる。
中には泣きだす人までいた。
「以上!第一回戦は9時から始まる!しっかりと準備しておくように。解散!」
参加者達がちりぢりになって行く。
観客席に戻ってマサトやサクラと合流する。
二試合前には控え室に行かなければならないが、それまでは自由だ。
「やったな。イツキ。これであいつの不戦勝はなくなったな。」
「すごいわね。一位なんて。」
「ここまでは完璧なんだ。あとはこれからさ。」
他の観客席を見るもののまだ客はパラパラとしかいない。
決勝戦になると観客席がほぼ満席になるのでまだまだ少ないだろう。
「では第一回戦を始めます!」
その言葉に一気に観客席が沸き立つ。
「対戦者!称号風の玉使いのヒビキ!植物ハンターのナツキ!」
称号とは、ひとりひとりのステータスプレートに現れるその人の事をまとめた言葉である。
行動などによって変わるようだが、変化条件は全く知らない。
「正々堂々と戦うように!では……始め!」
その瞬間地面に埋められた装置が作動し、結界が生成される。
原理は知らないが、周りからの干渉はほぼ不可能、結界の終了時に結界を生成した時の状態に戻るという特殊な物だ。
「『風玉』!」
「『火刃』!」
双方が魔法を打ちあい戦い始める。
戦況はほぼ互角。
少しずつ体力を消費していき、ついに片方が倒れる。
そこにもう一人が魔法で首のところに魔法を打ちとどめをさす。
その瞬間に結界が消え、すべて元通りになる。
「そこまで!勝者ナツキ!」
観客席が再び沸き立ち、歓声が飛び交う。
その後何試合も試合が続いていき、観客もどんどん増えて行った。
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「イツキ……がんばるんじゃぞ。」
「おう、任せとけ。」
今、控室でシュナと会話をしている最中だ。
「本当にわらわは手出しをしなくてよいのじゃろうか。」
「あぁそれじゃあ意味がないんだ。大人しく見ておいてくれないか?」
シュナに手出しを頼むと大変な事になる。
こちらが大幅に不利になってしまうというわけだ。
「あのクズ野郎をぶっ潰してくるさ。」
「がんばるのじゃぞ!」
シュナに見送られ、舞台に向かう。
観客席を覗き見ると、ほぼ満席という状態。
探したらおばあちゃんの姿もあった。
ここからが正念場。
さぁ。最初で最後の戦いを始めよう!
ここからクライマックスへ向かっていきます。




