第四十二話 激怒★
「イツキ!大丈夫か!?」
少しずつ意識が明瞭になっていく。
瞼を押しあけ、視界を確保する。
心配そうに見つめるマサトとシュナ。
体をゆっくりと持ちあげると、自分が寝ていた場所が二階の自分の部屋だと分かる。
「あれは……夢だったのか……」
そう呟いた瞬間、二人の顔が歪んでいくのが見えた。
「……あれは……現実だ……」
辛そうな顔でマサトが声を発する。
それを聞いて、頭に再びいろいろな感情が入り乱れる。
「嘘だ!元気だったカナがあんな風にいなくなるなんて!」
「それでも……現実なのじゃ……」
シュナの表情も今にも泣き崩れそうな顔になっている。
「イツキ?今日の学校はお休みという事にしておくわね……」
扉の向こうからおばあちゃんの心配そうな声が聞こえてくる。
「マサト君はどうする……?」
「お休みという連絡をお願いしていいですか……」
マサトもだいぶショックを受けてしまっているようだ。
「イツキ……お墓……作ってあげよう……」
マサトがゆっくりと提案する。
マサト曰く、カナは今は庭においてあるらしい。
「……分かった……」
ゆっくりと答える事しかできなかった。
のろのろとベットから下り、足元がおぼつかない状態で階段を下る。
シュナも後ろからゆっくりとついてくる。
庭に出ると、布の上でカナが横たわっていた。
再び感情が入り混じる。
ただ心を無にしようとしながら、庭に穴を掘っていく。
出来上がった水筒ぐらいの穴にカナを入れようとしたが入りきらず、体を折るようにして入れた。
「カナ……」
穴を土で埋めつつ呟く。
「仇は絶対に……とるからな……」
押し殺していた感情が抑えきれなくなり、眼のふちに涙がたまり始める。
「イツキ……」
ぽつり、ぽつりと頬が濡れる感触。
足元の土が湿っていく。
「ごめん……ちょっと一人にしてくれるか……」
そのまま二人を置いて部屋に戻る。
そしてベットに顔を押さえつけむせび泣く。
「なんで……なんでだよ!」
押し殺していた感情が少しずつ再び漏れていく。
そのままその日は部屋に籠っていた。
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その日の夜。
泣き疲れてそのまま泥の様に眠ったが再び悪夢を見て跳ね起きる。
ただ、なにもする気が起きないままボォーと時間が過ぎるのを待つ。
「イツキ……シュナちゃん……ご飯よ……」
おばあちゃんの元気がいつもより無い声がかかる。
このまま心配ばかりかけていてはいけない。
無理に笑顔を作って部屋から居間に向かう。
「いただきます。」
黙々と朝ごはんを食べる。
「イツキ……今日は学校休む……?」
「いや、いいよ。心配ばかりかけられないし。」
「そう……分かったわ。」
そのまま再び食べ始める。
「ごちそうさまでした。」
そのまま学校の準備を済ませて学校に向かう。
いつもよりも重い足取りだ。
下駄箱を通り廊下を通る。
すると、教室の前にはカケルが立っていた。
「遅かったじゃないか。」
「……何の用だ。」
今は嫌みを言う気力もない。
「ちょっとしたプレゼントがあってな。」
そういい、カケルは僕の胸ポケットに小さな小包を差し込んで教室に戻って行った。
謎に思いながらも警戒しながら小包を開けていく。
中身は……
「な……なん……だと……」
出てきたのは黄金色の塊。
いや、尻尾と言った方がいいだろうか。
カナのキツネ色に輝いていた尻尾のよう。
いや、そのものだった。
「まさか……あいつが……!」
心の中が怒りで一気に燃え上がる。
ただの嫌がらせの可能性もある。
怒ったらあいつの思うつぼかもしれない。
でもこの感情は抑えきれる様子がない。
「イツキ!止まれ!」
「マサト、止めるんじゃねぇ。」
教室に殴りこみに行こうとしたところをマサトが腕を掴んで止める。
自分が手に持っている物を見て全てを察したようだ。
「あいつだけは絶対に許さない……」
「今ここで怒ったらあいつの思うつぼだ!」
マサトが怒鳴る。
「もし怒って問題でも起こしたら冒険者選定大会に出られなくなってあいつの不戦勝だぞ!」
シュナの事を思いだし、心のいかりがわずかだが収まる。
「冒険者選定大会であいつをつぶすんだろ!こんなところで失敗してどうするんだ!」
その一言にハッとさせられる。
少しだけ冷静になって思考回路が再び動き出す。
「あいつが……あいつには絶対仕返ししてやる!」
「あぁ、その意気だ。」
マサトも僕が落ちついた事を理解して手を放してくれた。
怒りは依然収まってはいないが、衝動だけは耐えられている。
絶対に……つぶす!




