第三話 帰宅
少し焦ったような顔で屋上の扉からやってきた見覚えのある顔。
桜色のかかった髪に幼さの残る顔。
昔から見てきた幼馴染”サクラ”の顔だった。
だが、今は女神のように見えてしまった。
だって、こんなピンチのときだもん。しょうがない。
「これは……あなたたち何をやっていたのかな?」
少しイラついた様な声でサクラは声を絞り出す。
やばい、完全に怒っている。
「何って?ただそこの雑魚を特訓していただけじゃないか。」
「こんなのが特訓!?ただのリンチじゃないの!」
「それがどうかしたのか?」
「問題大ありよ!!」
カケルとサクラは言い争っているようだ。
だが、サクラの方が分が悪いように見える。
どうか、怒りが収まりますように。
後で面倒な事になるかも知れないからだ。
「先生に告げ口しようってのか?」
「告げ口?いやありのままのことを話す報告をするだけよ。」
「まぁ無意味だと思けどな。」
「なんですって?」
「何って学年首位と異端児とつるんでるような奴でどっちが信用されやすいかわかっていないのかなぁ?」
悔しそうにサクラがするもわかりきったことだ。
「とにかくイツキ!行くわよ!」
腕を引っ張られながら無理やり連れて行かれる。
さすがにカケル達もそれまで止めようとはしないようだ。
自分の心の中にはただ安堵感しかなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「さて、何があったのか教えてもらいましょうか。」
「何がって言われても……」
「つべこべ言わずに洗いざらい白状しなさい!」
「だから、見たまんまだって。」
サクラがいろいろ聞いてくるも屋上で見た通りの事なのでなにも言う事が出来ない。
まったく、面倒な奴が助けに来てくれたものだ……
「サクラ~急に走って行ってどうしたんだ?ていうかイツキどうしたんだ?」
そこに現れた救世主、そしてもう一人の幼馴染”マサト”。
緑の髪にサクラと同じ幼さの残る顔。
僕たち三人は小さいころからよく山に籠ったりして遊びまわった仲だ。
「マサト……あんた意外と足遅いわね……」
「しょうがないじゃないか!運動は苦手なんだから」
「まぁまぁ足が遅いのはしょうがないんだから……」
急いでフォローするがマサトはだいぶ深い傷を心に負ったようだ。
マサト……体育座りで地面に文字を書くのはいいが土じゃなく板だからなにも残らないぞ……
「バカやってないでなんとか対策考えるよ!」
「え?いきなりどうしたの?対策?」
そうだった。
まだマサトにはさっきの事を教えてなかったんだ。
一応簡単に全て教えた。
「そうか……ってそれ大変なことじゃん!」
「そうよ。だから今一生懸命考えているんじゃん……」
「というかイツキは大変だったね……こういう事されたのは今日が初めてなの?」
ここでしらばっくれてもいいが嘘をつくと後でこのふたりにどんな目にあわされるかわからない。
今は正直にこたえるのがいいだろう。
「ふんふん。なんかイツキが惨めな子犬みたいに見えてきた……捨てられてキャンキャン鳴いているあの……」
なんでだろう……すごい心が痛い、悪意の無い人に後ろからいきなり刺されたような感覚……
「えっとイツキ、大丈夫……?ついさっきの僕のようになってるよ……板に文字は書けないよ……」
「あんた達本当にいろいろと似ているね……」
「「そうか?」」
「言葉までかぶった……イツキは魔法が使えない代わりに武力が強くてマサトは魔法が強いけど武力が弱い……どっちも両極端ね。」
図星を突かれると何も言えないって本当だったんだ……
「まぁ一回状況を整理しようか。」
いじめっ子側は、主席のカケル含む大勢。
こちら側は、異端児のカケルに何の変哲もない二人。
「「「これはどうしようもないな。」」」
先生に言いに行っても高確率であっち側の言う事を信じてくるだろう。
こちらには打つ手がない。
「このままいじめが終わるのを待つか、どこかで一気に復讐するべきか……」
「どちらも考えたくはないわね。できれば平和に行きたいけど……」
「「ほぼ、無理だね。」」
「まぁ、あいつらだからねぇ。今やるべき事は”冒険者選定大会”まであいつらのいたずらを止めることだね。」
「あぁ、そういえばカケルも出るんだよな。大丈夫か?」
「あぁ、確率は低いが勝つ確率は0では無いよ。」
「がんばれよ、これに優勝すればそのまま冒険者になれるんだから。」
「そうだよ、頑張ってね。」
”冒険者選定大会”
毎年行われる学校の一大イベントであり、毎年の目玉ともなっている。
学力テストと実践テストがあり優勝したものにはそのまま冒険者になる事が出来る。
一応学校の生徒ならばだれでも参加可能だが、低学年の人々は参加する人がとても少なくなっている。
実践テストは対人戦で、参加者の他の生徒と戦うという状況に耐えられる人が多いため先生に止められる人が多いからだ。
対人戦といっても実際は教師陣が作り出した中ではダメージを受けても試合が終了した瞬間にすべて開始前に状態に戻るという特殊な結界の中で戦うためけが人が出ることはない。
だが、痛みは抑えられている物の多少はあるのでトラウマになる人も極稀にいるようだ。
「たぶんあいつらも参加してきて何かやってくるだろう。」
「こっちも出来る限り協力するから頑張ってね。」
「ありがとう。そろそろ時間だな。」
「また明日。」
「さよなら。」
学校から出て一人帰り道を歩いて行く。
自分の住んでいる家に向かう道を通る人はほぼいないため、基本は一人で帰っている。
特に寂しさなどはないが、一緒に登校する人が欲しいと思ったこともある。
けど無い物ねだりしても意味はないとあきらめている。
とぼとぼ歩き続けていると、道端から見覚えのある猫が出てくる。
「おぉカナか!」
「ニャーゴ。」
この子猫はカナ。
薄茶色の毛並みを持っている猫だ。
初めてあった時に、なぜか僕になついていつもよく甘えてくる。
ただ、いろいろあって気分が沈んでいた時に猫に向かって愚痴りながらなんとなく持っていた肉をあげただけだったのだが。
カナという名前に意味はないが呼びやすいから付けたというどうでもいい理由がある。
「ごめんねぇ。今は何にもあげられるものがないの。」
「ニャーオ……」
残念そうにしているのが目に見える。
言葉が理解できているのかどうかわからないが頭をなでて慰める。
「今日はちょっと家に帰らないといけないからあんまり構ってあげられないの……」
「ニャーオ。」
やはり言葉がわかっているのだろうか。
そのまま尻尾を振りながら道端の草むらに入っていく。
前に何度か尾行した事もあるが、全て途中で煙のように消えてしまった。
どこに住んでいるかもわからない、神出鬼没の猫というところだろう。
そのまま家への道を再び歩み始めて、五分後には家に着いた。
「ただいまー」
「お帰りー」
いつものように居候させてもらっているおばあちゃんがキッチンで料理をしていた。
「学校どうだった?」
「……大丈夫、何もなかったよ。」
「そう。あれ?腕に擦り傷があるけど大丈夫かい?」
気がつかなかった。
たぶん魔法が使われて横に倒れた時に擦ってしまったんだろう。
「えっと、帰り道の途中で転んじゃったんだよ」
「大丈夫?消毒しておく?」
「いや、いいよ」
とっさに嘘をついたが危なかった。
おばあちゃんに心配をかけるわけにはいかないから。
「ご飯どうする?いつぐらいから食べる?」
「えっと……宿題が多いから少し遅めに作ってちょうだい」
「あんまり無理しないようにね。」
話を切り上げて部屋に向かう。
二階にあるため階段を登らなければいけない。
荷物があると時間がかかるが、今日はない。
おばあちゃんが怪しむ前にそそくさと退散する。
さぁ今日の本番のはじまりだ!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「まったく気が付いてないとでも思ったんかねぇ」
包丁を止めて一人で呟く。
「どっからどう見ても転んだだけじゃあんなに深く擦らないのにねぇ。」
これまでにも何回かおんなじことがあったからもうなんとなく察してしまった。
「なんどか助けようと思ったけどねぇ。やっぱりそっとしてあげるのが一番だよねぇ。まぁイツキの事だから何か考えてるでしょうけどね。」
そしてまた包丁は動き出す。
おばあちゃん……
※誤字訂正 会談→階段