第三十八話 捜索
そして、時間がたって週末になった。
日曜日の昼ごろ。
「いらっしゃい、マサト君。」
「こちらこそ。お世話になります。」
マサトがついに家にやってきた。
礼儀正しい態度でマサトが挨拶を交わしている。
好青年という見た目のマサトにはとてもしっくりときている。
「おぉ。この人がイツキの友達じゃろうか。」
「あぁそうだ。ほれ、挨拶しなさい。」
シュナには親戚とふるまうように一週間教えつづけた。
いろいろと大変だったが、ばれないくらいにはなっただろう。
「いらっしゃいなのじゃ。」
「おぉ。こんにちは。この子がイツキの親戚なのか?」
「おう、そうだ。」
第一印象は大丈夫なようだ。
「いつもいつもすいませんねぇ。これはつまらないものですが一応お土産です。」
そういってマサトは何かが入った袋を取り出す。
「ありがとねぇ。」
受け取った袋の中を覗くと、見えたのは高級感があふれる白い箱。
「これはクラシス社の特製果実ゼリーです。」
「ホントに!」
クラシス社はお菓子やデザートの名店で王都に本店を構えている。
味もとてもよく、人気の高級品だ。
だが、それに対して値段がとても高い。
めったに食べる事が出来ない贅沢品。
「よろしければ家でゆっくり食べてください。」
「本当にありがとうねぇ。」
おばあちゃんもだいぶ嬉しそうだ。
「じゃあ部屋に来るか?」
「もちろん!」
二人で二階に向かい自分の部屋へ入る。
シュナも入ってきそうになったが、慌てて止めてシュナの部屋に向かわせる。
変にシュナと一緒にいてボロが出たら大変だ。
「マサトはベットがいい?それともいつも通り布団がいい?」
「もちろん今まで通り布団で!」
マサトはいつも必ず布団を選ぶ。
理由は本人は絶対に言わないが、たぶん寝相が悪いからだろう。
彼が寝ると、大抵起きたころには変な所にいる。
一番すごかったのは一階の階段まで転がり落ちていた時だろうか。
その状態でも起きなかった彼は大物だろう。
「よし!始めるか!」
「またか……」
マサトが来ると大抵最初にある事をする。
非常にめんどうくさい事だ。
「Hな本探しだ!」
「おい……」
毎回恒例の出来事である。
いろいろなところを漁りに漁り、目的のものを探し出す悪行。
我が家にはそういうものはほとんどない。
だが一つどうしても見つかりたくないものがある。
「まずは恒例のベットの下!」
ベットの下に頭を突っ込んで漁り始める。
見つかりたくない物は空間生成装置の中には入れていない。
シュナに見つかっても恥ずかしいからだ。
木を隠すなら森の中とも言うが、それだとマサトにあっけなくばれてしまう。
「やっぱ一筋縄ではいかないか……ならば!本棚の裏!」
マサトは部屋の中を探しつくす。
それも隅々までだ。
だから隠したら絶対にばれないという場所はない。
「どこだぁ?出てこぉい!」
マサトはだいたいこれを一時間ぐらい毎回続けている。
今回は枕の中に入れてある。
クッションの中に包んであるのでばれる可能性は低いだろう。
「探しても出ないからそろそろ終わらないか?」
「だめだ!絶対あるはずだ!」
相変わらずの対応。
本当に面倒くさい。
「イツキ。遊びにきたぞい。」
「おぉシュナか。暇だから来たのか?」
打ち合わせに無かった行動で内心慌てる。
冷静を装って無難な返答をしておく。
「あれ親戚の子かぁ。」
「どうも、家族がお世話になっております。」
「家族ではないけどな。」
一応突っ込んでおく。
「ちょっと探し物をしていてね。シュナちゃんは部屋に戻っていたほうがいいよ。」
子供に危ない本は見せられない事を考慮しているのだろうか。
「わかったのじゃ。では失礼するのじゃ。」
そう言ってシュナは扉から出て行った。
「親戚の子っていい子だね。」
「聞きわけが良くて助かっているよ。」
「それは置いといて探すぞ!」
「まだやるのかよ!」
今度はベットの下や本棚の裏などの王道のところからカーペットの下などの無いだろうというところばかりを探し始めた。
そんな所に隠してたら足の裏の感触で分かるだろう……
「失礼するのじゃ。」
再び入ってきたシュナ。
何があったのだろうか。
「ちょっと忘れ物をしてしまったのじゃ。」
そう言ってベットに近づいていく。
近づくにつれて、心臓の鼓動の速度が速くなっていくのを感じる。
そして、遂にはベットに到達してそれを乗り越える。
なんとか難所は乗り切ったようだ。
シュナにも隠してある事は黙っているので気付かれたら面倒だろう。
というよりマサトよりシュナに見られる方が面倒な事になりそうだ。
「あったのじゃ。」
ベットの横から取り出したのはシュナの箱。
荷物の移動を忘れていたようだ。
「おっとっと。」
持ちあげた瞬間体がよろけてベットに倒れる。
頭が枕に当たったおかげか怪我などはないようだ。
「あれ?枕がいつもより硬い気がするのじゃが……」
「まずっ!」
妙なところで勘の鋭いシュナだ。
いっしゅんでマサトが移動し、枕を奪取する。
そのまま横のチャックを引き開け、中身を取り出す。
子供の前では見せないというのはどうしたのだろか。
だが、それ以上に気になるのはこの後の末路。
「どれどれ?あっあった!」
ついにマサトが見つけてしまった。
マサトは一気に枕から手を引き抜き、中に隠された本を取り出す。
「えっと……どれどれ?題名は……『勇者の息子と魔王の娘』?なんじゃこりゃ。」
部屋の空気が一気に凍りついた。




