第三十七話 野良
今回は少なめです。
「どうしたんじゃ?お主よ。」
「どうしたじゃねぇよ!なんでお前は入ってきているんだ!」
やっと一人でゆっくり眠れるようになったのだが、これでは本末転倒。
「だってわらわも寝ようとしたのじゃが眠れなくてのう……お主の部屋に遊びに行ったらそのまま眠くなりお主のベットに突っ込んだのじゃ。」
「そこでなんで僕の部屋に遊びに来る!」
「でも、お主はわらわを抱き枕のようにしておったぞ。」
「……え?」
完全に無意識の行動となってしまっているようだ。
聞けば聞くほど恥ずかしい。
「お主も顔が赤くなって可愛いのう。」
「これ以上、心に傷をつけないでくれ!」
「すでに心臓に傷はついておるのじゃが……」
シュナが比喩を理解できていないようだ。
「イツキ~シュナちゃん~朝ごはんよ~」
いつも通りの呼び声が聞こえてくる。
「了解じゃ!」
シュナとほぼ同時のスタートダッシュ。
肩を競り合うようにしてぶつけながら廊下を駆け抜ける。
このままだと階段のインコースを取られて負けになってしまう。
一瞬だけ踏み出して加速し、シュナと場所が入れ換わる位置に進む。
これでインコースは手に入れた。
「残念じゃったな。」
「おま!それはないだろ!」
シュナが足元から魔法陣を展開させている。
見覚えのある魔法陣。
学校で使っていた重力魔法の魔法陣のようだ。
結果はもちろんシュナの勝ち。
卑怯である。
「そういえばイツキ。音声記録装置はなにに使ったんだい?」
「それは……今は内緒でもいい?」
「ふ~ん。全く何を仕出かそうとしてるのかしらねぇ。」
心を覗くような眼差しでこちらを見てくる。
平静を装っているのがばれないかとひやひやする。
「まぁいいわ。言えるようになったらいいなさいよ。」
「ふぅー。」
一息ついて再び食事に戻る。
もうこの会話だけでだいぶ疲れた気がする。
「じゃぁいってらっしゃいなのじゃ。」
「あぁ行ってくる。」
この会話もすでに慣れてしまった。
今では何とも思わない。
学校への道をいつもどおりゆっくりと進む。
「ニャ~ゴ」
「おぉカナか。」
道端でカナと出会った。
最近いろいろありすぎてストレスがたまっていたからちょうど良かった。
「久しぶりだなぁ。二週間ぶりか?」
「ニャ~オ」
平和な顔をしていてとてもかわいい。
首の下を指先でやわらかくなでてやる。
それにカナは顔をうっとりさせて気持ちよさそうに目を閉じている。
ふさふさの毛が手を包み込むようだ。
ちょうど良かった。
オーク肉がいっぱい余っていたんだ。
「そうだカナ。食べるか?」
魔法袋からオークの肉を取り出し、細かく裂く。
「ニャ!ニャ!」
それを口先に持ってきた瞬間飛びついて食べようとしてきたので上にあげて回避する。
猫が後ろ脚だけで立って取ろうとしている。
子どもを見ているみたいで可愛い。
「よ~しよ~し。ほれ!」
「ニャオ!」
手を放して落とすと一気に飛びかかる。
小さな肉をぺロリと食べてしまった。
少しずつ落として食べさせていく。
気が付いたら手の中のオーク肉はほとんどなくなっていた。
「おっと品切れだ。また今度な。」
「ニャ~オ」
言葉を理解しているように見えるのが本当に不思議だ。
そのまま立ち上がり、学校へ向かう。
カナはそのままどこかの草むらに消えていった。
―――だが僕はまだ気が付いていなかった。
―――後ろからの謎の視線に。




