第三十四話 決闘
おばあちゃんが焦りながらも作った晩御飯を食べ部屋に戻る。
この一日でものすごい疲れた。
明日から再び学校が始まる。
「そういえば、お主。冒険者選定大会はいつじゃっただろうか。」
「たしか……後三週間後の月曜日だったはず……」
計画は順調に進んでいる。
このペースだと余裕で出来るだろう。
「じゃぁお休みなのじゃ。」
「あぁお休み。」
一週間も寝続けたから変な感情はほぼ無くなっている。
そのまますんなりと眠りの世界に落ちて行った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌日。
いつも通り朝起きて、朝食を食べ、シュナに取られ、家を出る。
「いってらっしゃいなのじゃ。」
「あぁ行ってくる。」
傍からみたら夫婦の様だと思われるであろう。
だが、慣れてしまったら何も感じなくなった。
もはやただの朝の挨拶の様になっている。
いつも通り一人で学校に向かう。
校門から入り、下駄箱で靴を履き替え、教室に向かう。
教室に入り席に向かう。
だが、席の前でカケルがなぜか立っている。
ちょうど僕がイスに座れないような場所だ。
「……どうしたんだ?カケル。」
「俺はお前に……決闘を申し込む!」
突然の重大発言に一気に教室が静寂に包まれる。
”決闘”
学校での争いごとに使われるもので、双方の了承と共に開始される。
ルールは冒険者選定大会でやる模擬戦と同じだ。
だが、これには重大な意味を伴う。
それは、勝った方の事前にした要求には絶対順守という事だ。
もし、これを守らなかったら退学処分になってしまう。
さすがに、要求に制限もあるが、基本はフリーだ。
「クラスの優等生さんが異端児なんかに何のようだ?」
皮肉をこめて返す。
だが、頭の中ではそこまでの余裕はない。
予想外の事態に頭をフル稼働させる。
考えられる可能性でしっくりくるが見つからない。
まさかサクラとマサトの行動がばれたのか・・・
とりあえず、片手をポケットに突っ込んであるものを動かす。
「お前!まだ幼い少女に何をしているんだ!家に連れ込んだりして!」
クラスが再び驚愕に包まれる。
「誰の事を言ってるんだ?前学校に来た子なら言っただろ。親戚の子だって。」
「それは、嘘だ。調べたらあのおばさんの親戚はもういない!お前に親戚がいるはずもないしな。」
クラスから疑惑の目が向けられる。
カケルの勝ち誇った顔。
ものすごい殴りたい感情を理性で抑えるつける。
「何を言ってるんだ?どんな勘違いだよそれ。」
「もうこっちには証拠がそろっているんだ。こちらの要求はただ一つ。あの少女の開放だ。」
最悪の事態のようだ。
まさか、そこまで探ってくるとは思わなかった。
カケルの瞳をのぞきこむと濁っているように見える。
カキタさんの知識欲のような物でなく、汚く汚れたものだろう。
隠しているようだが口角がすこし上がっていて何かを想像しているようだ。
シュナは夫婦の仲というわけではないが、こんな奴の毒牙には掛けたくない。
これまでいろいろと助けてくれたのだ。
その恩は返さなければならないだろう。
言い訳を必死に考える。
シュナを調べられないぐらい遠くの親戚という事にするか……
でもそれも調べたらすぐにばれてしまう。
すべてを逆手にとれ!
発想を反転させ、再び速度を上げて考える。
カケルの行ってる事を逆手にとる……
これなら……行ける!
「バカじゃないのか?」
「なにがだ!?」
煽ってカケルの感情を湧きたてる。
「どうせ、冒険者選定大会で負けるのが怖いから先に手の内を見て対策を立てようとしてるんだろう?」
「ふ、ふざけるな!」
カケルが怒鳴り立てる。
「ほらぁ。図星を当てられて慌ててるぅ。まるわかりだぞぉ。」
少しふざけて煽るあおる。
カケルの顎が怒りでわなないている。
「じゃぁこれでどうだ?冒険者選定大会で僕は決勝戦に絶対に行くつもりだ。絶対に。そこで決闘を同時開催すればいいじゃないか。」
「何?」
少しだけ冷静を取り戻したカケルが一言だけ声を発する。
「簡単な話。冒険者選定大会でお前が優勝すればお前の勝ち。僕が優勝すれば僕の勝ちだ。」
「……それでいいだろう。もちろんお前が決勝にこれなかったらお前の負けだよな。」
「あぁそれでいいだろう。」
なんとか場を収めた。
「要求も明確にしておこう。お前の要求は……あの子の身柄の確保ということか?」
「違う!あの子の開放だ!」
「開放も何もただ僕の家に泊ってるだけなんだけどなぁ。」
全く誤解も困ったもんだ。
めんどくさい事になってきた。
「とにかくあの子に関する事でいいか。こちらの要求は……決闘終了後に決めるでもいいか?」
「何!そんなのずるいじゃないか!」
「何だと?負けるのが怖いのか?」
さらに煽る。
絶対的なプライドがあるからこれで何とかなるだろうが、一応少しだけ付け加えておこう。
「あくまで制限の中でやるけどな。」
「……分かったそれでいいだろう。決闘届はこちらから書いて出しておく。」
なんとか収められた様だ。
緊張で背中が汗でぬれてきてしまった。
これでもう負けが許されない状況。
ここからは一歩のミスも許されないだろう。
「ふ……家にある逆境物みたいな感じになっちゃったな。」
自虐的に呟いた一言は幸いだれの耳にも入らなかったようだ。




