第三十一話 結界
「ひさしぶりだな。何日ぶりだ?」
「30秒ぶりですけど……」
Uターンして店の中に入るとお決まりの言葉。
「で?なんのようだ?」
「結界石の使い方を教えてもらってないというわけで。」
「そうだったな。4つの結界石を設置してただこう叫ぶだけだ。『展開』」
やはり魔法機械と同じような仕組みなのだろうか。
自分の魔力を使わない道具って事は、僕でも使えるというわけだ。
「ちょっと結界石を出してくれるか?」
言われるがまま、魔法袋から直径二センチぐらいの結界石を一つだけ取り出す。
「ふむ……まだ大丈夫だな。」
「なにが?」
「壊れていないかどうか。」
「これ壊れるのか!?」
たしかに割れやすそうな見た目をしているがそれはないだろう。
(パキ)
「へ?」
手の中から謎の音が響き、つい変な声を出してしまった。
「あ~ぁ、やっちゃったか。」
「え!?何を!?」
「結界石を壊したというだけさ。」
恐る恐る手のひらを開いていくと、そこにはばらばらになった透明の破片。
つい手に力を込めてしまっていたようだ。
「ってこれどうすれば直るんだ!」
「直らないよ。しょうがないから予備のやつ二つやるよ。」
そう言って後ろの棚から小さな箱を持ってきた。
「次からは気をつけろよ。」
「……もろすぎないですか……」
握っただけで壊れるとは……
「それはお前の握力が強すぎるのも理由の一つだと思うがな。」
「それでも、もろすぎる!」
「意外と頑丈だぞ、これ。落としてもぎりぎり割れないからな。」
「ぎりぎりってなんだ!?」
言ってる事に不信感が漂っている。
「これはヒビが入ると使えなくなるからな……丁寧に扱えよ。」
「スルーしないでください!」
「はぁ。だいたいこれは落としたらぎりぎり大丈夫だけど、つぶしたり投げたり箱に入れてゆすって中で暴れさせたりしたら一発でだめになるからな。」
「なんか実体験あふれる例があったのは気のせいか……」
妙に丁寧な説明に違和感を感じる。
「最初は8個あったんだけどね……運ぶ途中で2個ほどだめにしてしまってねぇ。」
「……どんまい……」
悲壮な顔で言われても困る。
「思ったんだけど……どこからこういう謎の道具を仕入れてくるの?」
「知りたいか?知りたいか?」
ものすごいドヤ顔で近づいてくる。
「顔近い顔近い!」
「だれにも言わないならおしえるぞぉ。」
「言わない言わないから!」
「ふっふっふ。これはヘルス帝国の遺跡から取ってきてるんだ。」
「……って古代遺跡の産物!」
「そう。自分が取ってきてるわけじゃなくて冒険者とかに言ってもらってそれを買い取ってるだけだけどな。この結界石も前見せた腕輪もな。もっといいものもあったけど売れてしまって残ってるのは欠陥品ばかりだけどな。」
「あの禁術は?」
「冒険者がとってきた物の中にまぎれていたのさ。気がつかずにもらった俺がバカだった……」
こればかりは同情する。
粗悪品を掴まされるよりはましかもしれないが……
「とりあえずそろそろ出るね。」
「おう、また来いよ。」
家にまっすぐに向かう。
思ったより時間がかかってしまった。
「クルレスさんってなかなか面白い人じゃったのう。」
「困ったとこもあるけどな。」
少し小走りで話をしながら家に向かう。
「あれ?向こうが少し騒がしいようじゃのう。」
「本当だ。どれどれ?」
少し気になって視線を向ける。
「うへぇ……」
つい口から変な声が出てしまった。
脂ぎった顔に少々出張った腹。
シャルムだ。
「なんじゃ?あいつ。」
「……かかわりあいにならない方がいいやつだ。」
視線をそらして少し速足で通り抜けようとする。
「お主……なにか近づいてきておるぞ。」
「……最悪だ……」
目をつけられてしまったようだ。
護衛と共にのっしのっしと近づいてくる。
「これはこれは麗しきお嬢さん。よろしければ私と一夜を……」
やはりか・・・
シャリムはよく女を口説く。
しかも良くないセリフでだ。
見た目がいいならまだしもマイナスな見た目なので逆効果。
正直気持ち悪い。
無視すればいいのだが、こいつの場合は実力行使を使ってくるから無意味だ。
権力を使って連れ込まれた女は二桁を超えるという。
大抵は悲しい思いをして、中には精神的に追いつめられる人までいる。
さらには、妻にすると言って家に幽閉される人もいる。
奴隷だけでは飽き足らず、こんな事までする最悪な奴だ。
シャリムの相手にする年齢はだいたい20代の人だが、たまに学生なども連れ込む。
学校の生徒で一人、被害者がいるがその人は王都に逃げたという事になっている。
だが、実際は自殺したのをシャリムがかき消したというのがもっぱらの噂である。
「残念じゃが。断らせてもらうのじゃ。」
嫌悪の目を向けるも、初見の相手にいきなり無礼な真似まではしなかったようだ。
「いやいや遠慮せずに……」
その嫌悪の目にも気が付かずに追い込みをかけてくる。
反応があったけど遠慮していると思い込んでいるようだ。
顔がいやらしく歪んでいる。
気持ち悪い。
「お美しいですしねぇ。」
にやにやとしながらシュナの髪に手を伸ばしてくる。
シュナの顔が一気にひきつる。
シュナも我慢の限界が近いようだ。
そしてシュナの髪に手が触れかけた瞬間……
シュナがキレたようだ。




