第二十八話 視覚
計画の第一段階を開始してから5日たった。
この間はほとんど何もなかった。
マサトもサクラも計画を少しずつ進める事が出来ているようだ。
カケルからのちょっかいも一時的だろうけど無くなっている。
授業中に憎いものを見るような目でにらんでくるだけだ。
「そういえばお主、今日は鍛冶屋との約束の日ではなかろうか。」
「そういえばそうだったな。」
朝起きたばかりで着替えたシュナが思い出したように言う。
シュナは最初はなかなか起きるのが遅かったが最近はだいぶ慣れたらしく、ここ二日は僕よりも早く起きて着替えを済ませている。
「じゃぁ昼ぐらいに取りに行くか。それまでは研究に没頭できるな。数少ない休日だしな。有意義に過ごさないと。」
「そうじゃな。」
「イツキ~シュナちゃん~朝ごはんよ~」
急いで席を立つ。
これまでは一度を除いてほとんどシュナに速さで負けてきたが最近は少しずつ差を縮めている。
「いただきます。」
さっそく朝食にかぶりつく。
いつもどおりの朝だ。
シュナに取られるところも含めて。
「ごちそうさまでした。」
一言そう言って席を立ち階段へ向かう。
それについてくるシュナ。
「で?シュナ。視覚のやつはどうなったんだ?」
「そうじゃ!忘れておった。」
シュナが近くにある箱を漁りだす。
シュナに荷物入れように渡した箱。
だいぶ中身も増えているようだ。
「試作品なのじゃがこれつけてもらえぬじゃろうか。」
取り出したのは液体に満たされた瓶。
その中には黒い球体が浮いている。
「これが……眼球の代わりになるのか?」
「あぁそうじゃ!さぁつけるのじゃ!」
言われるままに瓶から球体を取り出す。
「えっとどっち向きに入れればいいんだ?」
「向きは自動で調節されるように設定したのじゃ。」
眼帯を外し、片手で瞼を押し上げる。
目があるべき場所は空洞になっている。
さわっても痛くはないがむずがゆさがあるので触りたくはない。
押し上げた状態で片手で球体を入れ込む。
「これでいいのか?」
「あぁそうじゃ!」
完全に装着が完了し目の中に違和感が生まれる。
目の中で位置を確定させるため動いているようだ。
「これは装着者の脳の動きを察知し、それに合わせて動き、その信号を脳に返すというしくみになっているのじゃ。」
「すげぇなこれ。」
仕組みはなんとなくわかったがそれでもここまでのものを作り上げるとは。
「起動方法は『起動』と口にするだけじゃ。最初は片目は閉じてやった方がよいじゃろう。」
言われたとおりに片目を閉じる。
完全に視界が闇に染まる。
「いくぞ。『起動』」
頭に軽い電流が走った感覚。
それと同時に視界が一瞬白く染まり、ふたたび闇に染まる。
「お主、こっちを向いてもらえるじゃろうか。」
言葉がした方向を片目でむく。
そこには……
「うわぁ。」
人の形をした光があった。
薄く輝く光だ。
その真ん中ではひときわ輝く光。
「たぶんお主の視界にはわらわの形の光が見えるはずじゃ。」
意識するとたしかにシュナの形だ。
「お主に今見えておるのは人の中の魔力の流れじゃ。じゃあ両目を開けてもらえるかのう。」
言われた通りに両目を開ける。
視界に色が戻り、いつもの部屋が見える。
違いはところどころに光り輝く点があることだろうか。
「これで普通の視界と魔法の視界が同期されたはずじゃ。」
シュナは顔もしっかり見えるも少し光っているように見える。
そして心臓あたりにひときわ輝く点が見えている。
そこに魔心臓があるということだろうか。
「どうじゃ?無事に動いておるかのう。」
「あぁ!完璧だ!」
これは十分実践で使えるだろう。
「じゃぁこれは見えるかのう。」
シュナが魔法陣を展開させる。
『水玉』だ。
ただし移動の魔法陣は省かれている。
魔法陣は心なしか少し光り輝いている気がする。
魔法陣が形成された直後、シュナの手の中に水の玉が生成される。
「あれ?この青く光り輝く点は?」
水玉の中にある青い点。
「それは魔法の核じゃ。」
「まじで!?」
おそるおそる手を伸ばして水の玉に突き入れる。
まだ水の玉は壊れない。
だが、手で青く輝く点を突いた瞬間。
水の玉は崩れ落ちた。
「すげぇぇぇ。」
「興奮するのはいいが一回その魔法機械を止めようかのう。『停止』と言うのじゃ。」
「『停止』」
視界から光り輝く点が消える。
「ふぅ。無事完成のようじゃのう。」
「お前すごいな。」
「だがそれも完璧ではない。一時間が連続稼働の限界じゃ。」
一時間もあれば十分である。
「で、思ったんだけど僕がこれつけてる間は他の人からどう見えてるの?」
「実際に見た方がわかりやすいかもしれんのう。」
そう言ってシュナは箱から手鏡を出してくる。
「『起動』」
起動式を唱えて起動させる。
一回やったらもう慣れた。
「じゃぁこの鏡を見ればわかるじゃろう。」
そういってシュナは鏡を渡してくる。
受け取って自分の目を見てみる。
「かっけぇぇぇぇ!」
黒い球体に光り輝く銀色の魔法陣。
目からビームが出せそうな形になっている。
さらに暗闇では光りそうな見た目だ。
細かく刻まれている魔法陣は読み取れないぐらい小さいのがまたいい。
「どうじゃ?かっこいいいじゃろう。」
「うっ、右目が疼く……」
「どうしたのじゃ!?大丈夫か?」
「……演技なんだけど……」
つい衝動が抑えきれなかった。
恐ろしい道具だ。
「まぁ最高だ。ありがとうシュナ。」
「どういたしましてなのじゃ。」
とりあえず外して瓶にしまう。
「一応魔力は液体の中で少しずつ回復するようになっておるのじゃ。」
「おぉこれは便利だな。」
魔力自動回復機能付き。
超便利だ。
「だが一つ問題があってのう……」
「なんだ?」
欠陥の一つはあるだろう。
そこまで大きくないのを期待したい。
「実はのう」
「実は……?」
唾をごクリと飲み干す。
そして、シュナが一呼吸おいて話し出す。
「銘が決まっておらんのじゃ。」
どうにでもなる欠陥だった。




