第二十五話 圧縮
「で?何のために来たんだ?」
学校に入るなという約束は守ろうとしていたが学校に来てしまっては意味がない。
でもまずは理由を聞かないと分からない。
「ひとつが本に書いてあった魔法陣を使ってひとつ魔法道具を作ってみたのじゃ。」
シュナが片方の靴を脱いで見せる。
すると靴底には本に書いてあった重力魔法の魔法陣が刻まれていた。
「これって……でも魔力消費は大丈夫なのか?」
一瞬だけならまだしもあんなに長時間空中で浮いていたりしたら相当魔力を消費するだろう。
シュナを見るとそこまで身長が縮んだとか胸がまな板になったとは思えない。
「いや、普通につかえたぞい。魔力は普通の魔法道具より少し多いぐらいしか消費してないぞい。」
「お前無属性魔法まで使えるのか!?」
見た限り三つの属性を持っているだろう。
火、水、風。
その三つでも相当すごいのにそれに無属性が加わると大変な事だろう。
「いや、使えないじゃろう。ステータスプレートにも書いてないのじゃから。」
「じゃぁなんでだ?」
「分からんのじゃ。それもまったく。」
未知。
さらなる未知が現れたようだ。
「……そんな期待を込められた目で見られても困るのじゃ……」
おっと、夢中になりすぎたようだ。
「まぁ後でじっくり聞かせてもらうとして、一つってことはまだあるのだろう?」
「一つ面白い事を思いついたのじゃがミラネウム金属を少しもらえぬだろうか。」
「別にいっぱいあるからいいけど……なにに使うんだ?」
「目じゃ。」
「……は?」
目に使う……
狂気的な感じがする。
「お主の目を作ってみようと思ったのじゃ。あの本を読んでたら出来そうな気がしたのでな。」
「いや……出来ないだろそんなの。最初に僕は普通の魔法道具は使えないし。使おうとしたら大き目の魔石を入れなきゃいけないし。そんなの目に入れたら体が壊れるから……」
これが計画で一番難航していた場所だ。
魔石は基本的に大きい。
小さいものもあるものの魔力が入る量がとても少なくなる。
「それももう解決しておる。」
「え!?」
対策として別のところから空気中を通して魔力を送る装置を作った事があるがすべて失敗している。
魔力は空気中では簡単に分散してしまうからだ。
「あくまで理論上だけじゃがな。」
「教えてくれ!速く!」
「まぁ実際に見た方がはやいからのう。家に帰ってからじゃ。」
「じゃぁ家まで競争だ!」
全力で足を踏み出す。
体の筋力を最大限に活用して走り出す。
「お主!?速すぎるじゃろう!」
日ごろから鍛えていたから肉体的スペックには自信がある。
だが、規格外には通用しないようだ。
「お主……体が細いのにすごい速さじゃのう……」
「は?お前飛ぶのは卑怯だろ!」
魔法道具を使用しものすごいスピードで動いている。
しかも浮いているのだ。
他の人から見たらあきらかな変人だろう。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
結果はもちろんシュナの方が速かった。
「お前……ずるい……」
「いきなり走り出したお主のほうが卑怯じゃろう……」
たってるのも辛いので家の扉をあける。
「はぁ……はぁ……ただいま……」
「お帰りイツキ。シュナも遅かったねぇ。」
「おばあちゃん……なんでシュナに……」
「まぁまぁいいじゃない。」
面白いものをみるような顔でおばあちゃんが見てくる。
「よくねぇよ!言い訳大変だったんだから!」
「あらあら反抗期かねぇ。」
「ちげぇよ!」
おばあちゃんのフリーダムさにはなんども呆れさせられたが今回はひどいだろう。
「はぁ。まぁいいや。部屋で作業してくる。」
「晩御飯できたら呼ぶわねぇ。」
階段を上って部屋に向かう。
「……なんかすまないのう……」
珍しくシュナも反省しているようだ。
表情もだいぶ暗い。
「これからは絶対に留守番している事。これだけは守ってくれ。」
「分かったのじゃ……」
シュナの反省した顔は見た事がなかった。
なんか可愛い。
抱きしめたい要求が出てくるが理性で押しとどめる。
「で?どうやって解決したんだ?」
とにかく早く知りたい。
「焦ってもなにも出んぞい。魔石を借してもらえるじゃろうか。」
なぜか分からないがとりあえず魔法袋から中ぐらいの魔石を出す。
「失敗して無くなる可能性もあるのじゃがよいじゃろうか。」
心配そうな目で見られるが別にかまわない。
壊れようがまだ在庫はいっぱいある。
「別に少しぐらい壊してもいいぞ。」
「分かったのじゃ。」
シュナが立ち上がり設置した圧縮装置に近づいていく。
そして上の圧縮する物を入れるところに魔石を入れた。
「やるぞ。よく見ておれ。」
機械の魔法陣部分に手をかざす。
魔法陣が光り輝き、魔法が発動する。
光り方が尋常じゃない。
これは確かに魔力を大幅に消費する。
「もうすぐじゃ。」
カタンと音を立てて魔法道具が停止する。
そして下の取り出し口に小さな塊が落ちてきた。
サイズはビー玉よりも小さいだろう。
「一応これで完成なのじゃが一つ試して良いじゃろうか。」
「あぁ全然構わない。」
シュナが深呼吸をして集中している。
「じゃぁ試しに魔力を流してみるのじゃ。」
手から魔力を流しだした。
最初は何の変化も見られなかったが、途中からこれまでに見られなかった現象が起き始めた。
魔石が少しずつだが光り輝き始めたのだ。
「・・・は?」
そして最後には七色に輝く魔石が出来上がっていた。
「限界まで魔力を入れてみたのじゃ。だいたい10000ぐらいじゃろうか。」
10000。
ビー玉サイズの魔石に入る平均は5。
元の中ぐらいのものに入る限界が1000である。
「お前……それどうやったんだ!?」
「単純じゃ。魔石を圧縮して小さくしてそこに限界まで魔力を詰め込む。ただそれだけじゃ。ただし圧縮にだいぶ魔力を消費するのじゃがな。」
「……すげぇ……」
予想外だった。
単純だから盲点というのか、魔石自体を変化させるのは思いつかなかった。
「ふっふっふ。もっと褒めてくれてもよいんじゃよぉ。」
「おぉえらいえらい。」
頭をゆっくりとなでてやる。
なでられてうっとりとしているシュナもだいぶ可愛い。
「お主……見とれるのもいいのじゃが続きの説明をしてもよいじゃろうか。」
「あぁすまん。あとは、魔法陣はどうするんだ?」
「それもすでに解決済みじゃ。」
そういい自慢げに近くにある紙を差し出してきた。
それを開いて見つけたのは見た事のない魔法陣だった。
「これは……なんの魔法陣だ?」
「これは視覚を作り出す魔法陣じゃ。しかも特殊な視覚じゃ。」
そんな魔法は聞いた事がない。
「えっ!?どうやって?」
「単純じゃ。空間生成装置の事を聞いてもしやと思って調べてみたのじゃ。そこに搭載されている認証装置じゃ。」
「てことはまさか・・・」
「そのまさかじゃ。あの認証装置は魔力を感知し、場所を現す魔法陣が刻まれておった。それを少しいじったのがそれというわけじゃ。」
本当に予想外の事だ。
思いもつかなかった事をポンポンと出してくる。
シュナに協力を要請したのは間違いではなかったようだ。
「特殊な視覚というのは?」
「ここまでくれば分かるじゃろう。魔力を感知するということは、魔法の核が見えるということじゃ。」
「てことは!」
「あのノートに書いてあった戦略も使えるというわけじゃ。まぁお主の身体能力がないと出来んのじゃが大丈夫じゃろう。」
「お前・・・すげぇ・・・」
これで全ての行動が繋がった。
シュナはこれを伝えるために学校まできたのだろう。
「で、あとは媒体にミラネウム金属を使いたいというわけじゃ。」
ここまで来たら渡さないはずはない。
「ほい、いくらでも使っていいぞ。」
塊をいくつかまとめて渡す。
「こんなに必要ないのじゃが……」
「まぁまぁ保険だ。念のため念のため。」
これで完璧だ。
シュナの頭脳にはほれぼれする。
「最後にひとつ良いじゃろうか。」
「ん?なんだ?」
答えた瞬間、身を乗り出してこちらを凝視してきた。
目の前まで顔が接近して目を凝視してきた。
髪の毛の匂いが鼻孔をさす。
いいにおいだ。
「OKじゃ。」
心臓がドキドキしたのはしょうがないだろう。
というより男子でドキドキしない奴はいないだろう。
「今のは目のサイズを測っただけじゃ。」
だれかこの心臓の高鳴りを止めてくれ。




