第二十四話 落下
「あいつは……あの時の!」
カケルが驚くのもしょうがないだろう。
飛んでいるのは授業中にやってきた少女、シュナ。
なんかものすごいオーラを出している。
「ってなんでお前が来てるんだよ!」
「ちょっと伝えたい事があったのじゃが学校に入ってはいけないといったじゃろうが。」
「入ってるじゃねぇか!」
「いや作った魔法道具を試して待っとったらちょっと見えてしまったのじゃ。」
そういうことか。
確かにこの状況だとシュナは怒りそうだ。
あのオーラは怒りのオーラだろうか。
後ろに般若顔の悪魔が見える。
ちょっと怖い・・・
「お前……あの時のクズじゃろうか。」
カケルはあっけに取られて動けないようだ。
少し腰が引けていて屋上の腰の高さにあるフェンスで体を支えている。
「ちょっと怒りがたまっておってのぉ。」
シュナの近くに二つの魔法陣が形成されていく。
赤と青。
火属性と水属性だろうか。
カケルを超える速度で完成させている。
詠唱がないという事と速すぎる事が重なって片方しか読み取ることができなかった。
『氷玉』
水玉の強化版で氷の玉を作るものだ。
魔法陣から火の玉と氷の玉が形成される
見た目はそこまで大きくないが魔法陣を読み取ってしまい戦慄を感じる。
ものすごい現象の発生量と圧縮率。
殺傷性ランクA……いやSに値する力だろう。
氷の玉がそうなっているのなら火の玉ももちろん……
「おま!やりすぎだ!」
「大丈夫じゃ。ちょっと痛めつけるだけ・・・じゃ!」
……あまり信用できない。
シュナがしゃべり終わると同時に魔法が発射される。
二つの魔法がカケルに迫り・・・そしてぶつかりあった。
これほど小さな魔法をぶつけるとは処理能力がすごすぎるだろう。
ましてやここは屋上。
風の影響もあるのだ。
ぎりぎりまで圧縮されたであろう二つの魔法。
違う属性の魔法が二つぶつかりあう。
火と氷。
ぶつかりあい……爆発を起こした。
すさまじい爆風。
吹き飛ばされそうになったが足を踏ん張る。
「うぉあ!?」
だが目の前で炸裂したカケルは無理だったようだ。
しかもいた場所は屋上の端っこ。
あるのは低い柵だけ。
「うぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
柵を乗り越えて落ちていく。
断末魔が聞こえ、小さな音が響いた。
人が・・・死んだ。
憎いやつとはいえ人が死ぬのは見たくはない。
喉のそこからせり上がる嫌な物。
なんとか押しとどめようとしても出てきそうになる。
「ぎゃぁぁぁ!人殺しぃ!?」
「うわぁぁぁぁ!?」
取り巻き達が急いで逃げていく。
「あの……あのクズ死んでないのじゃが……」
「え?」
予想外の言葉に喉まできた物がストンと胃に落ちる。
いやあんな音を出してたら普通に死ぬだろ。
慌てて柵にかけより下をのぞく。
「あれ?」
普通は見えるはずの赤い液体がまったく見えない。
目をこすってもう一度見る。
やっぱり見えない。
「……な……なんで!?」
下に見えているのは気絶してしまっているカケル。
怪我をしているようには見えない。
「簡単な事じゃ。落下するであろう場所に魔法陣を仕掛けただけじゃ。風魔法を一気に発動すれば落下速度も落ちるじゃろう。」
確かにそうすれば落下死はしないだろう。
音が少し小さく感じたのも少しだけ納得できる。
「ってお前魔法の射程距離どんだけだよ!」
規格外が再び発動したようだ。
「何事ですか!?」
「カケルが屋上から落ちて……とにかく来てください!」
逃げた取り巻き達は先生を呼んできたようだ。
「どこですか!?」
先生が扉から駆けこんできた。
「あそこから落ちて行きました!」
慌てたように取り巻きが答える。
ここは誤解を招かないように適当な事を言っといたほうがいいいだろう。
「カケルですか?彼なら下で昼寝をしていますよ。」
「でたらめ言うな!さっき落ちて行ったぞ!」
取り巻きの一人が激昂したように言う。
先生が柵から身を乗り出して下を見る。
「はぁ……先生をだましてなにか楽しいのですか?」
「そんなはずは……」
取り巻きたちも下をのぞいて絶句しているようだ。
下にいるのは仰向けで気絶しているカケル。
本来あるべき赤い液体がないのも不思議だ。
「先生をおちょくるのもたいがいにしてくださいね。」
「いや!そんなはずは!さっき見たんです!」
どこか府に落ちないようだ。
いい気味だ。
「お主……少々顔がにやけておるぞ……」
顔を叩いて無理やり直す。
先生と取り巻きは屋上から去って行った。
たぶん生徒指導室に連れて行かれたのだろう。
「じゃぁ帰るか。」
「そうじゃな。下りるかのぉ。」
一言そういい屋上から飛び降りるシュナ。
「……はっ?」
手を掴まれている僕も落ちるのは当たり前。
「待てやぁぁぁぁぁぁ。」
地面が近づき怪我……冒険者選定大会までに治ればいいなと思ったが……
「大丈夫じゃ。」
シュナが魔法道具を発動させる。
今だから見れたが靴が魔法道具になっているようだ。
魔法陣は見覚えがある。
たしか昨日買った本に書いてあった重力魔法の魔法陣。
それが靴から発動するのが見えた。
落下の速度が急激に遅くなる。
ゆっくりと地面は近づき、足から着地する。
「よし帰るとするかのう。」
確かに速い。
簡単に帰る事が出来るだろう。
だが、それではだめだ。
大事なものが一つ足りない。
本当に足りない。
「シュナ……一ついいか?」
「なんじゃ?」
こればっかりは言いたい。
「下駄箱で靴を履き換えてきていいか?」
上履きは砂だらけになっていた。




