第二十三話 浮遊
クラスメイトからの視線が体に突き刺さる。
男子からは嫉妬のような視線が。
女子からは汚物を見るような視線が。
この様な視線を快楽に換えるエコ機能は残念ながら所持していない。
というかいらない。
「どうしたのじゃ?イツキ?なんかあったのか?」
というより全てお前のせいだ。
必死にこの場を切り抜ける言葉を考える。
もっとも損害が少なくて後から矛盾などが発生しない言葉。
頭がパンクしそうになる。
「お主?大丈夫か?頭から煙が出てるぞ。これ何度目じゃろうか。」
……あ!
一つだけ切り抜ける方法を見つけた。
シュナは見た目が幼い。
それを逆手に利用する!
「すみません。親戚の子が家からちょっと抜け出てしまったようで。」
「でもさっき生涯の「この子にはちょっと妄想癖がありまして……」そうか……」
先生を封じる事に成功。
クラスメイトからの痛い視線は半分ぐらい減っただろうか。
残った半分はほとんど男子からのこのうらやましい奴めという嫉妬の視線だからなんとか無視出来る。
「なにをいっておるのじゃ!わらわは立派な大ふがぁ……」
「すみません。ちょっとこの子を学校の外まで送っていいですか?」
余計な事を言う前に口をふさぐ。
「……あっあぁ。全然いいぞ、お前も苦労してるようだな……」
「失礼します。」
シュナを背負って学校から走り抜ける。
「お前!家で留守番してろっていっただろ!」
「だって……ちょっと許可を取りたい事があったのじゃ……だからおばあちゃんに聞いたらこの証明書を貸すから言ってきていいよって言われたのじゃ……」
「おばあちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
身内からの裏切りは予想外だった。
シュナが手にしているのは保護者用のカード。
職員に見せれば余裕で通してくれるだろう。
けど、この見た目じゃ……
「イツキに伝える事があるといったのじゃがそのままフリーで通してくれたぞい。なぜか職員の顔が赤かったのが謎じゃったがな。」
「職員!?!?」
職員まで惑わしたのか!?
シュナが着ているのは僕と会った時と同じ黒いドレス。
見た目はゴスロリである。
「まさか……職員さん……ロリコン!?」
「その響き嫌な感じしかしないのじゃ……」
まぁクラスメイトの中で変な噂を流される事はないだろう。
男子からの嫉妬の視線は止まらないだろうが。
「で?何の用だ?」
「あの中のいくつかに目途が立ったのじゃ。」
「まじで!?ほんとに!?」
まさか自分が何カ月も迷っていた問題を一日で解決するとは……
魔法が使える人が仲間にいると楽だと再認識。
「魔法の核の視覚認識と目の欠損のカバーじゃ。」
「えっ!?一番悩んでた事を!?」
あっさり過ぎる。
「だが、成功確率は半分ぐらいじゃろう。」
十分すぎるほど高い。
自分でも5%に持ってこれたらいい方だろう。
「で、そこで頼みたい事があるのじゃが。」
「なんだ?」
「空間生成装置を一時的に見せてもらえないだろうか。」
「なんでだ?あれをどうするんだ?」
「あの中の一部の機能が使えそうなのじゃ。」
「分かった。壊さないならなにしてもいいぞ。屋根裏部屋に設置してあるから端っこにある梯子から登ればいけるから。」
「分かったのじゃ!」
「あと学校には入らない事!これ絶対!」
「分かったのじゃ……」
声が明らかにしょんぼりしている。
だがこればっかりは譲れない。
クラスメイトに呪い殺されそうで怖い。
「じゃあ授業もどらないといけないから。」
「分かったのじゃ。また家で。」
「じゃぁ。」
教室に戻る。
入った瞬間に生温かい目で見られる。
いや、普通の温度の目(女子)と燃える呪いの目(男子)が混ざり合っただけのようだ。
「イツキ……お前も大変そうだな……分かるぞ。俺にもやんちゃな娘がいてな……」
始まった先生の娘自慢。
適当に相槌を打ちながら席に戻る。
「おっと脱線しちゃったか。じゃあ授業に戻ろうか。」
再びつまらない授業に戻る。
何分たっただろうか。
授業も終盤に近付いてきた時だった。
後頭部に当たる謎の感覚。
反射神経で頭でバウンドしたものを後ろ手でキャッチする。
丸めた紙。
ありきたりないたずらだ。
中を見ると予想通りの文面。
”屋上に放課後来い”
最悪のお誘いだった。
まぁあんな物を見たらいらつく(男子限定)のは当たり前だろう。
「行くしかないか……」
独り言のように呟く。
そして放課後。
「あれ異端児さんよぉこんなところでどうしたんだ?」
「お前が呼び出したんだろ。」
「知らないなぁ『風玉』」
いつも通りの魔法を使ってくる。
だが心なしか圧縮率が上がっている。
少々カケルもいらいらしているようだ。
カケルに続き取り巻きも魔法を放ってくる。
それを難なく避ける。
「お前いい女連れてるじゃねぇか。俺の好みだぜ。」
「お前ロリコンか……」
「そんなのどうでもいい。あの女は俺がもらうぜ。お前なんかじゃもったいないしなぁ。」
「「「ぎゃはははは~!」」」
「たぶん無理だろうがな……」
「あぁ?なんか言ったかゴらぁ!」
火に油を注いでしまったようだ。
だが、これで好都合。
「『反土壁』」
来た!
あいつらは前回切り札を見せてしまった。
だからもう躊躇はしないだろう。
そして、相手を挑発しその魔法を使わせる。
反転属性の魔法の難点が、あらゆる結界を抜ける事が出来るが連射が出来ない事だ。
一度使わせれば当分使えないだろう。
「これでお前らの切り札は防いだぜ。」
「かまわねぇスタミナが切れるまでやっちまえ!」
魔法は途切れる事がないがただひたすらに避け続ける。
屈み、横に跳び、時には突進する。
こっちのスタミナとカケル側の魔力どっちが尽きるかの勝負だ。
だいぶたってきただろうか。
少し息切れをしてきたようだ。
カケルはまだまだ魔力が残っているようで少々ピンチかもしれない。
体の限界が近づいてきた時。
空から二つの魔法が降ってきた。
氷の玉と炎の玉。
二つが衝突しものすごい音を立てて爆発する。
二つの魔法をぶつけて爆発させる。
一人でやるには風などで射線が動いてしまうのでそうとうの空間把握力がないとできない芸当だ。
飛んできた方向、上を見ると・・・
「……ウソだろ……」
一人の少女が浮いていた。
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