第十七話 温度
「……どういう状況じゃ?これは」
周りを理解したのか、シュナが静かな声で同じ事をもう一度言う。
その表情は、氷のように冷たく、威圧感を感じさせるものだ。
「まぁ……簡単にいうなら僕たちが容疑者ってこと」
周りは怯えた表情をしている人から、困惑した表情をしている人までいるが、説明できそうな人が一人もいなかった為、代わりに僕が答える。
「とりあえず……この草について教えてやってくれない?」
「わかったのじゃ」
納得したのか、シュナの表情にはとげがなくなり、諦めのようなものが浮かんでいた。
「この草は、『植物操作』で操ったものじゃ。生命力を瞬間的に最大限に上げ、その時に起きる繁殖力や、こちら側に存在しているくきの防御力など、不必要だと思った力をすべて内側の防御力に注いだのじゃ。この植物の生命力は想像以上に強かったから……一日は持ちそうじゃな」
「ってことは……今は安全ってことですか!?」
「そういうことじゃ」
辺りにホッとした空気が流れる。張りつめた空気は変わらないが、絶望の感情は圧倒的に薄れた気がする。
「なら……行動は早めに取った方がいい!あの大きな扉以外の道はある?そこから一旦地上に出れば僕らが獣人の国まで案内するからっ!」
大声で僕は声を上げる。
だが、返答は……嫌な予感しかしないものだった。
「ここ以外の出口は、城にしかねぇよっ!」
「じゃぁ、今すぐ城に向かうよっ!」
もう一度大声を出して、全員の心を脱出へと向かわせる。
段々と集まっていた人がパラパラと城へ向かって走り始める。
中には、城へ向かわずに、他の人にも脱出の知らせをするのか別の方向に走る人もいた。
とりあえず、この場所は何とかなったという事でいいだろう。
あとは……
「シュナ、歩ける?」
「少し辛いのじゃ……」
「そっか……じゃぁ、あれを使うか……」
魔法袋から、小さな円盤を出そうとして……思いとどまる。
シュナの魔力は豊富とは言え、体への負荷をこれ以上かけるのはあまり良くないだろう。
量は多くても、それを通す道が小さいということでいいのかな……
「シュナ、ちょっと揺れるかもよっと」
シュナを背中に背負い、おんぶの状態にする。
背中に小さな柔らかさとぬくもりを感じながら、シュナにあまり負担が掛からないようにゆっくりと足を進める。
「やっぱり、シュナってすごいよな」
「それほどでもないのじゃ……体は弱いし……お主に頼りきりなのじゃ」
シュナがしょんぼりしたような声を出す。
「いや、それはないかな……僕一人だけだと、何もできないし……シュナがいなくなったらどうしようもならないからな……」
「それでも……お主がいるだけで嬉しいのじゃ」
「シュナがいるだけで僕もいまは十分だよ……自分一人でも少しは戦えるようにならないと、シュナを完全に守ることはできないけどね……」
シュナが僕の肩まわりを少し強く掴む。
「お主は……今のまま頑張ってくれればいいのじゃ……お主がいるだけでも……いいのじゃ……」
シュナの穏やかな声が……殺伐とした雰囲気に相対して、心を温かくしてくれた。




