第十六話 弁明
「あーこれはたぶんシュナの魔法だと思う」
ピリピリとした雰囲気を飛ばすように、きわめて楽観的に口に出す。
この魔法についての詳しい事は分からないが、シュナの全力を注いだと言っても過言ではないだろう。
だから、簡単には突破されない様な作りになっている……はずだ。
「責めてきた人は人間ですが……あなたはどちら側の人間ですか?」
剣呑な目をしてない獣人が、一歩離れて警戒するように聞いてくる。
まぁ……正当な疑いだろう。
客人とはいえ、やってきた唯一の人間に疑いが向くのは当然のことだろう。
「この植物の壁を見て、どっちの味方か分かってくれたら幸いだけどな……」
「う……これは確かな物的証拠なのでしょうけど……」
依然、僕に向く剣は動かない。
人間というだけで憎まれてしまうのはどうしようもないことだけど……もう少し、友好的になってほしかったな……
「殺すべきだ!」
一言、怒鳴り声が響いた。
「こいつらが、この国の事を言いふらしたんだ!だから人間が攻め込んできたんだ!」
「お、おい!いいすぎだ!」
その男は他の人を押しのけて前に出てくる。その手にはしっかりと剣が握られていた。
「お前らが……お前らのせいだっ!」
その声と共に、男はシュナに向かって剣を放り投げた。
剣は円を描きながら高速で接近する。
シュナが……危ない!
駆けだしても間に合わないと速攻で決断し、片手で釘をまっすぐと飛ばした。
釘は回転する剣の中心部に衝突し、カキンと音を立てて剣の軌道が大きく変わった。
「おいっ!やめろ!」
仲間の様な男が、暴走した男を絞めて止めようとするが、それ以上の力があるようで、止めようとした男はあっさりと弾き飛ばされた。
あの暴走している男……たしか、この国に入る前に出会った誰かの夫じゃなかったか……
たしか……俺に突っかかって来た……
「お前の……お前のせいでっ!」
武器を失ったからか、怒り狂う夫は標的を僕に変えて、突撃しようとしてきた。
だが……それを、突然男が腕を横に突き出し、強制的に叩き伏せた。
「少しだまっとけ」
そう一言言うと、突然飛び出した男は爪を夫の首筋に突き刺した。
夫は、ビクリと一瞬体を震わせ、そのあと身じろぎもしなくなった。
「あぁ……ベルスがすまないな。こいつは起こると我を忘れやすいんだ」
「は、はい」
その声は、聞き覚えがあった。
「えっと……森林であった……」
「おう、あの時に案内した俺だ。あの後は、なんか襲撃されたみたいだが、大丈夫だったか?」
「えぇ、なんとかなってます」
あの、襲撃された時の前に案内してくれた人は、体格に似合わない小ぶりなナイフを手に持って佇んでいた。
「む……」
「シュナ?」
唐突に隣から響いたうめき声に、慌てて反応する。
やっと意識を取り戻したか……
「お嬢ちゃんも無事みたいだな……」
「む……頭がくらくらするのじゃ……ってこの状況はなんじゃ?」




