第十四話 全力
「……」
静かにシュナが目を閉じる。
「……『収束』」
静かに、そして、ゆっくりと耳慣れない『起句』をシュナが口に出した。
シュナは基本無詠唱で魔法を使っていたから……珍しい。
さきほど起動した魔境眼を通してみると、シュナが持つ木の棒の先端からは薄い光の線がのびている。
「うおぉぉぉぉぉお!」
「にげろっ!責めてきたぞ!!」
「警備隊は何をやっているんだっ!」
あちらこちらから怒号が飛び交う。
焦りと共に、城に向かって逃げだす物や、簡単な武器を持って応戦しようとするものまで様々だ。
シュナの頭から汗がぽたりと垂れ、表情も辛そうになっている。
円盤の高度を維持しながら、広範囲魔法を起動させている状況だ。シュナの疲労も相当なものになるだろう。
「……『配当』」
二個目の起句をシュナが呟く。
光の線がドクリと波打ち、何か力の様な物がわたっていった。
怒号も少しずつ大きくなっていき、逃げ回る地鳴りのような音が上空まで届いている。
人間も、段々と広がっていき、もうすぐ畑のエリアを抜けそうだ。
下りて、少しでも応戦しようかと思った瞬間……シュナが目を見開いた。
「……『解放』じゃ!」
ドクリと光の線がさらに大きく波打つ。
だが、それは一度ではなく、何度も繰り返される。
ドクリドクリと波打つたびに、光の線は消滅していき、そしてシュナの持っていた木の枝はポキリと折れた。
「しゅ、シュナ?」
「大丈夫じゃ……成功の様じゃ……」
人間があと少しで畑の縁にたどり着くかと思った時……畑の端の植物が、薄く輝いているのが確認できた。
その直後、その光が爆発の様に大きくなり、光の奔流が目に直接入る。
「うっ……」
思わず、目を閉じる。
ま、まぶしすぎる……
「シュナ?」
そう思わず呟いた瞬間……ドルルルルと大きな音が鳴り響いた。
目を何度も瞬きし、少しずつ光に慣れさせていく。
そして見えたのは……大きく成長した植物……成長しすぎた植物が、畑を覆っているところだった。
太く、大きくそして長く成長した植物は、扉までもしっかりとドーム状にカバーし、こちら側からは中からの様子を確認できないほど隙間もなく成長していた。
「さすが……だね」
シュナのあまりにも強力すぎる攻撃に、唖然とした声しか出なかった。
この規模の魔法は……世界でも有数の人しか使えないだろう。
いうならば……禁術指定されてもおかしくないものだ。
直後……近くでパタリという音がなった。
「シュナ!?」
息も絶え絶えな様子なシュナ。
やはり、あの魔法の体力の消耗は大きかったか……
イスにもたれかかるように体勢を崩しているシュナを慌てて支え、イスの上に横向きに寝かせる。
「やっぱり……体力の消耗がおおきすぎたようじゃのう……」
慌てて回復薬を魔法袋から取り出す。
「シュナ!これを飲んで!」
「いらないのじゃ……それで直るようなものでもないのじゃから……」
くたりとしたシュナの声には力がなく、だが説得力のあるものだった。
しぶしぶ回復薬を仕舞い、代わりに小さな氷を取りだす。
「これは助かるのじゃ……」
シュナのおでこに氷を当てると、表情が柔らかくなり、少しだけ楽そうになった。
「少し……眠らせてもらうのじゃ……」
ゆったりと、シュナの目が閉じていき、小さな身じろぎと共に動かなくなった。
「はぁ……」
命に別状はないという事に安堵した直後……急に体に負荷がかかった。




