第六話 混沌
「はぁ……」
あの時慌てて取りだした布とは違い、白く清潔な包帯で巻かれた手。
体は既に治療され、痛みはだいぶまぎれた。
「お主、大丈夫じゃろうか」
「うん、もう体は大丈夫だよ」
荒事はまだ避けた方がいいかもしれないけど、走り回るぐらいならもうできるだろう。
だから……
「ぺたぺた触っても、怪我が治ったかは分からないと思うよ?」
「でも……心配なのじゃ」
触り続けて早十分あまり。
ずっと、僕の体をぺたぺたとシュナは触っていた。
「よいしょっと」
体を横にしていてなまってしまった体を、ゆっくりと動かして地面に足を付ける。
借りている家とはいえ、自宅の様な扱いになっている家の木材の冷たさが足の裏に伝わり、それと同時に頭の向きを変えた事の影響の軽い酔いの様な物が回る。
「おっとっと」
体のバランスが崩れ、足が絡まる。体が少しずつ横に傾き、シュナに接近していく。
このままだと……危ない!
とっさの判断で、先に片腕を突き出しシュナの後ろのベットに思いっきり手を突く。
「危ない、危ない……」
あのまま、倒れていたら……ラッキースケベという物が起こっていたかもしれない。
……シュナの教育にはこれはよくない。
「で、一応杖は用意してもらっているのじゃが……使うのじゃろうか」
「まぁ、容易してもらったのだし、使わせてもらおっかな」
木でできた質素な杖をシュナから受け取り、体を支えながら立ち上がる。
見た目は質素の安物みたいだが、しっかりとした重みと限界まで磨き上げられた木の感触が手に心地いい。
「今日は、どうするのじゃ?」
「うーん……情報収集代わりに、適当に町をぶらぶらするのは?」
「と言いながら、買い物でもするのじゃろう?」
「まぁ、それもあるけどね」
お金はいっぱいあるけれど、なぜか客人価格とかいって安くしてくれる店がいくつかあった。
さすがに、タダであげるとかいうのは断っているけれど、少しばかり安くなった時はお礼をいいながらも、ご厚意にあずかっている。
「とりあえず、ここから出ようか」
「うん、そうじゃな」
杖を慎重に使いながら、階段を下りて靴を履く。
襲撃直後なので、一応の警戒をとり、いつでも武器が取り出せるところに出しておく。
あと、ポケットに投擲武器代わりの釘を入れておく。
「よし、行こうか」
シュナと共に、外に出る。
少しの熱が体を襲い、少しの倦怠感が体を包む。
ちょっと、今日は元気が出ないな……
「それにしても、今日は様子が珍しいようじゃのう」
「え?何か変なところがあるかな?」
シュナが回りをきょろきょろして見渡している。
どこにも変な人とかはいないみたいだけどね……
「なんか……みんな騒がしい気がするのじゃ。しかも、ほとんどの人が同じ方向に走っているようなのじゃ……」
「言われてみれば……」
歩く事に集中していたからか、周りの様子に全く気を配ることができなかったようだ。
「とりあえず、行ってみるのはどうじゃ?」
「そうだね、何かがあるのかもしれないし」
少しばかり早歩きで、道を進む。
その先にあったのは……
「何……これ……」
「あ……」
目の前の惨劇に声が紡ぎだせない。
生の気配を失った目が下を見下ろしている。
青白く……絶望の顔に染まった顔が……
顔だけが僕らを見下ろしていた。
うそ……だろ……
見覚えのある顔。昨日の襲撃犯の……顔。
怖い。怖い。
何より……自然と流せている周りに空気が怖かった。




