第四話 襲撃
「う……」
手に鋭い痛みと共に何かが貫通する。
開いた怪我から血が流れ出し、地面を濡らし、ウサギを赤く染める。
「お主!」
慌てて駆け寄るシュナを、突き飛ばすように怪我をしていない手で近くの深い草むらに押す。
近くに落ちた赤く染まった矢。どう考えても人為的に放たれた矢だろう。
たぶん、だれかが狙って撃った物だ。この射線だと、勢いが僕の手で殺されずに進んだらシュナの頭に突き刺さっていただろう。
手を貫通するほどの威力。シュナに当たったら……ただでは済まなかっただろう。
「ちっ!」
とりあえず、シュナの安全は確保してある。
魔法袋から釘を取り出して、怪我をしていない右手で構える。
射線をたどって、発射位置を即座に判断。
重力は度外視してもいいだろう。方向さえ分かればなんとでもなる。
方向は、森林があり、町がある方向。どこから飛んできたかはわからないが、弓を使うような方法だから、そこまで遠い場所じゃないだろう。
敵は一人?襲撃はこれで終了?
「……くそ!」
一瞬頭によぎった最悪の状況。敵が弓で遠距離攻撃した後、失敗した場合の作戦も考えているだろう。
それは、第二射ではないだろう。どこから飛んでくるか分かっている矢は、多少ながら軌道を読みやすい。
なら、他に取ってくる手段は……
「最悪だっ!」
自分の行動が逆に仇となった可能性を頭に浮かべる。
慌てて、突き飛ばしたシュナに駆け寄り、急いで引っ張り出す。
直後、シュナがいた場所から突然ナイフを持った手が飛び出してきた。
「お主!その手は大丈夫じゃろうか!」
「大丈夫!とりあえず、警戒して!」
左手は今もいたんでいる。早めに治療した方がいいレベルだろう。
だが、今はそんな悠長な事をしている時間はない。
魔法袋から手頃な布切れを取り出して手に巻きつける。
「シュナ!下がれ!」
小さなナイフが飛んできてシュナの首元をかすめる。
やっぱり……近くに敵がいる!
しかも……複数。
「僕が相手にするから、シュナはあぶり出して!」
「分かったのじゃ!」
威嚇代わりにナイフが飛んできた方向に釘を投げる。
肉に釘が刺さる音と共にうめき声が返ってくる。一人発見……
シュナは手元に青い魔法陣を展開している。その数五つ。
「『氷塊』!」
即座に展開は完了して、魔法陣の中心から氷の塊が生み出される。
五つの塊は、いくつかの背の高い草むらに向かって一直線に飛んでいき、欠片を飛び散らせながら衝突した。
それと同時に、草むらに潜んでいたであろう獣人がころがるように出てきた。
「強力な魔法使いだ!遠距離攻撃は諦めろ!」
その言葉でぞろぞろと草むらから武装した男たちが出てくる。
全員が獣人。女性が一人いるぐらいだ。
手に持っているのは、弓や小刀。剣や大剣にハンマーなど、多種多様。
「シュナ……怪我を負わせるのはいいけど……殺さないように」
「了解じゃ」
じりじりと縮んでいく包囲網の中、シュナに耳うちをする。
そして……一人の男が小刀を持った状態で突撃してきた。
「とりゃっ!」
即時の判断で、体を下に屈めて腰から刀を抜く。
そのまま、柄の部分を男の脇腹に叩きつけて黙らせる。
「シュナ!」
「一気に決めるのじゃ!」
シュナが青色の魔法陣を足元に起動し始める。
さすがに、大きい魔法なのか少しばかり時間がかかりそうだ。
「魔法が発動する前に決めるぞ!」
「おうっ!」
複数人が一気にシュナに向かって攻撃を使用としてくる。
弓を構えている人もいるぐらいだ。
刀を刃の部分を自分の方に向けて殺傷能力が低くなるようにして、一番近くまで来た人に向かって刀を振って力に任せて吹き飛ばす。
攻撃を避け、飛んできた矢を刀で止める。
魔法陣はもう完成しそうなところまで広がっている。
「シュナ!」
「できたのじゃっ!『氷世界』!」
シュナの言葉と共に魔法陣が起動し……世界が凍りついた。




