第三話 草原
「広々とした草原だね……」
「そうじゃな、体が隠れそうな高さの草もところどころに生えているようじゃし、かくれんぼとかできそうじゃ」
「そうだね……って、かくれんぼなんて言葉どこから学んだの?あれも勇者町でしか通用しない遊びって聞いていたけど」
「部屋に置いてあった本にあったのじゃ!たしか、体をどこかに隠した状態で初めて、最後の一人になるまで殺し合う暗殺ゲームだったはずなのじゃが」
……完全にシュナが間違った知識を得てしまっている……これは早急に治さないと……
「えっと、かくれんぼはそんな血生臭いゲームじゃないからね……」
「そうなのじゃろうか?」
「かくれんぼは、体をどこかに隠して、鬼に見つからない様にするゲームだからね」
「分かったのじゃ!それで鬼に見つかったら死んでしまうとかいうゲームってことじゃろうか」
笑顔で猟奇的な発言をするシュナ。
「それも違う!」
だめだ……これは重傷だ。
そう判断しても……いいかな。
「見つかったらその時点で終わり!殺し合いなんて起きないから!猟奇的だから!」
これは、見事に小説に毒されたと思っていいだろう。
シュナには恋愛系の本だけでなく、バトル物の本の制限も付けるべきだろうか。恋愛系を制限したのは……変な知識を付けてほしくないからだけど、バトル物の制限は……どうすればいいんだ……
「とりあえず、百聞は一見にしかず。小説の事を鵜呑みしたらだめだからね」
「分かったのじゃ!」
これで大丈夫だろう。シュナは素直だから簡単に分かってくれるだろう。
「崩壊草……生えていないようじゃな……」
「うん、見当たらないね」
近くにある草を見つめていると……近くからガサという音がひびいてきた。
慌てて、そっちに振り向くと……大きい草から小さな動物が現れた。
「うさぎ……じゃろうか」
「うさぎ……だね」
ぴょんぴょんと跳ねながらこちらに近づいてくる。
……この国は勇者村の影響を相当受けているようだ。
ウサギも、たしか勇者が生み出した生物だったはずだ。そのせいで、人懐っこく生息範囲も限られている。
近づいてきたウサギがシュナにすり寄り、首をコクンとかしげる。
シュナが思わずといった感じに、手をゆっくりと近づけてウサギを触った。
ウサギは逃げる事なく、目を細めただけで嫌がる様子もない。
「……かわいい」
「……本当じゃな」
小さい生き物がもつ可愛さに勝る可愛さはないというのは本当だったのか……
小さい物は可愛く見える……と誰かが言っていた気がする。たしか、伝説のロリコンだったはずだ。
……シュナも小さいよね……
シュナは小さい。小さいは可愛い。
この二つの式により、シュナは……
「どうしたのじゃ?」
「い、いや!なんでもないよ!」
シュナが僕の顔を覗き込んで突然言ってきた。
その様子に一瞬だけ胸がドキッとする。
「……何か隠しているのじゃろうか」
「だ、だからなんでもないって!」
ダメだ、この話題を考え続けると……僕が……ロ……
「あ、あそこにもウサギがいるよ!」
「本当じゃな。しかも、群れみたいじゃ」
数匹の群れが少し離れたところにいた。
そっちに視線を向けると、ウサギも気が付いたようでこっちに向かっていっせいにぴょこぴょこと跳ねてくる。
「……楽園だ……」
小動物は正義。もふもふも正義。
「あれ、あそこにもいるのじゃ」
「本当だ……でも、なんか近づいてこないね……」
一匹のうさぎはこっちを凝視している。でも、一歩を踏み出してこない。
「うーん……仲間はずれ……みたいなものかな」
「それか、人が苦手というのもあり得るのじゃ」
ためしに一足踏み出してみる。すると……左側から違和感が襲ってきた。
ただ……本能にしたがってシュナを庇うようにして腕を広げる。
直後……風を切るような音と共に手のひらに痛みが走った。




