第五十九話 客人は襲われる
「くっそ……」
愚痴を突きながら、地下の道を走り続ける。
あっちからの連絡係と思ってた二人組が……まったくの無関係だとは。おかげで、面倒な事になった。
俺の仕事も増えるし……まったく面倒な事だ。
「あぁ……やってらんねぇな……奴隷でも使って後で気晴らしするかな」
後の事を考えて気晴らしをしておく。ついでにストレス解消に壁を思いっきり蹴る。
ゴンという音が遠くまで反響していき、跳ね返って来た音がもう一度鼓膜をたたく。
時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり行ったっていいだろう。
地面を軽く蹴りながら地下通路を進んで行く。
「はぁ……早ぇよ……気が付いたらついているし」
目の前にある鉄の階段。それを上って上の蓋を押し上げる。
ギィと不気味な音と共に、薄暗い気味の悪い部屋に出る。謎の実験道具とかが並んでいて、いかにも危ないものだ。
「えっと……標的はどの部屋にいるかな……」
扉をゆっくりと押しあけて外にでる。不必要に広い居間を通り、手当たりしだいに扉を開けていく。
くっそ……面倒だ……早く出てこいよ……
「一階は全滅……あとは二階か」
階段を上って、縁から順繰りに開けていく。
そして……中からかすかな寝息が聞こえる部屋を見つけた。
「はぁ……ちゃっちゃと仕事を終わらせて夜のお楽しみといこうか……」
扉を中にいる人が起きないようにゆっくりと開ける。そこには、一人の少女が寝息を立てていた。
「こいつが標的か……いくら命令とはいえ、お持ち帰りして奴隷にしてやりてぇなぁ」
愚痴をこぼしながら、懐から小さな針を取り出す。
だが……そこで隣から物音が聞こえてきた。
「チッ、もう一人の標的を忘れてたか……」
息をひそめて音を立てないようにする。だが……足音はこちらに近づいてきた。
「やべっ!」
小さな声で悪態をつき、そのまま隠れ場所を探す。近くに隠れられるようなロッカーとかはない……
一瞬で判断を下して、ベットの下にもぐりこむ。
直後、扉が開く音が響き、中に標的が入ってきた。
……あっぶねっ!
「むぅ……眠い……お休み、シュナ」
そう、入って来た標的は呟いたあと、ベットに倒れ込むボフンという音が響く。
そして、少しごそごそとした後物音は止んだ。
だが、警戒を最大限にして待ち続ける。ここで……動かないとは限らねぇからな。
辛抱強く待ち続けた結果、上から寝息が聞こえてきた。
もう……大丈夫だろう。
「はぁ……」
ベットの下から這い出して、ベットの上を確認する。
大丈夫だ。寝ている。
懐から二本目の針を出して、即座に行動を移す。
痛みを感じない程度に慎重に差し込んで、準備を完了させる。
面倒だから同時にやったろうか……
「『消去」
無属性魔法を起動させる。二人に刺した二本の針が薄く青い輝きを放ち始める。
「任務完了っと。あとは、他の奴に任せるとすっか」
針をピッと抜いて、即座に立ちあがる。
起こさないように部屋から出て、即座に地下通路に逃げ込む。
「任務……完了ってとこか」
これで、前篇完結です。
即座に中編に入りますので次の更新をお待ち下さい。




