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最弱異端児は夢を見る  作者: 時雨
第一章 最弱異端児は・・・
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第十八話 行商

 弱い風がさわやかに流れる。

 やわらかい日差しと合わさって気分が良くなる。

 最高の朝だ。

 

 

「お主、今からどこへ向かうのじゃ?」

「今日はたしか行商人が帰ってくる日だったな。」

 

 

 行商人。

 いろいろなところを巡り回り、珍しいものなどを売りさばく人々。

 研究の助けになりそうなものや興味をそそられるものなどをたくさん売ってくれる。

 一人僕が懇意にしている行商人がいるがたしかもうこの町に着ているころだろう。

 

 

 どんなものが入荷されているか楽しみだ。

 

 

「行商人か……楽しそうじゃのう。」

「あぁ僕も一時期目指したが行商人はフットワークの軽さがないからな……」

 

 

 行商人は世界中を回る事が出来るが、自由というわけではない。

 むしろ、定められたルートしか通らない行商人が多数だ。

 その他の少数でも馬車とともに行動するため完全に自由というわけではない。

 

 

「他にもよるところはあるのじゃろうか?」

「えっと後は武器屋で新しい刀を作ってもらおうと思ってるんだ。」

 

 

 数は少ないもの魔法以外の戦闘手段として武器はいまだに売られている。

 しかし、魔法陣を安定させるための杖の方が何十倍も需要が高いためほとんど無くなっている。

 その中で生き残っている武器屋が町にあるというわけだ。

 店主が……少し偏屈だけど……

 

 

「そういえばシュナはどこか寄り道したいところあるか?」

「えっと、果物屋と料理屋に行きたいのじゃ!」

 

 

 たしか武器屋とかの方に美味しい料理屋があったきがする。

 

 

「じゃあ昼食は料理屋でいいか?」

「もちろんじゃ!」

 

 

 軽い足取りで商店街の方へ向かう。

 行商人は大抵商店街のどこかで一時的に露天を開く。

 たいていのものの値段が高いが、珍しいものが目白押しである。

 

 

 暇つぶしにいろいろ話しながら、道を通っている時。

 野良ネコのカナと遭遇した。

 

 

 「ニャーゴ。」

 「おぉカナか。最近よく会うな。」

 

  

 やってきた猫をあやすようになでる。

 モフモフな感触が癖になる。

 

 

 「この猫。お主の使い魔じゃろうか。」

 「いや全然。ただの懐かれている野良ネコだよ。」

 

 

 とりあえず魔法袋からオークの肉を出して与える。

 するとパクリと口に少しずつ入れていく。



 「シュナも触ってみる?」

 「いいのじゃろうか……」

 「大丈夫大丈夫。温和な性格だし怪我とかさせない限り逃げることも少ないから。」

 

 

 シュナが恐る恐る手を伸ばして背中をなでる。

 カナは一瞬ピクリとしたものの、されるがままなでられている。


 「可愛いのう。」

 「いわゆる癒しってやつだな。」



 しばらくモフモフを堪能して、再び商店街に向かった。

 


 長い間歩いて、商店街についた。

 休日だからかだいぶ賑わっている。

 

 

「いらっしゃ~い!安いよ安いよ~!」

 

 

 活気のいい声が響き渡っている。

 

 

「すごいのう。この活気にのまれそうじゃ。」

「ここは王都から少しばかり離れているけど施設がいいから地味に人が多いんだ。」

 

 

 人ごみをかき分けるように進んでいく。

 

 

「お得お得!この杖が今だけ80%引きだよ!」

「ガンリ安いよ!一個なんと80カルだよ!」

「在庫処分祭実施中だよ!安いよ!」

 

 

 威勢のいい声はどこからも聞こえてくる。

 シュナが耳をピクッとさせ、声の聞こえた方向へ向く。

 ガンリを売っているところだ。

 

 

「はぁ~まあ一個ぐらいいいか。ガンリ食うか?」

「もちろんじゃ!」

 

 

 満面の笑みで答えられた。

 

 

「おじさんガンリ二つ!」

「まいど!」

 

 

 硬貨を渡しガンリを受け取る。

 そのまま一つをシュナに渡す。

 

 

 そのまま一口かぶりつく。

 ふとシュナの方を見ると、

 

 

「おまっ!食べるの速!」

 

 

 シュナの手の中がすっからかんになっていた。

 芯まで食べるってどんな食欲だ……

 

 

「……食べるか?」

「いいのか?じゃあ。」

 

 

 食べかけのガンリを渡す。

 それをそのままかじりついてあっという間に食べ終わる。

 

 

「ふふふ……これで間接キスじゃ。」

「いや違うからな!」

 

 

 実際はなにも違わないのだが。

 

 

 とりあえず商店街を巡る。

 途中で何度か誘惑に負けそうになったがなんとかこらえられた。

 

 

 だが、もうすぐ一周まわるかというところだった。

 

 

「シュナ!フードをかぶれ!」

「なんかわからんけど了解じゃ。」

 

 

 いそいで顔を隠される。

 見つかると面倒だからだ。

 

 

「僕の近くにいて一応他人のふりをしろ。」

「分かったのじゃ。」

 

 

 横にずっと立っていたが僕の斜め後ろにすっと移動する。

 

 

 この様な行動をさせたのは会いたくない人を見つけたから。

 カケルだ。

 

 

「おう、イツキか。」

「チッ」

 

 

 ばれてしまったか。

 

 

「お前なにしに来たんだ?冒険者選定大会の準備か?」

 

 

 分かり切った事を聞いてくる。

 人目の多いところでは目立つ行動はしないが嫌みなどは言ってくる。

 

 

「どうせ無駄だけどな、魔法使えないお前はな。」

 

 

 とにかく無視を貫き通す。

 どうせすぐ飽きるだろう。

 

 

 シュナがだいぶ我慢しているようだ。

 手が強く握られて震えているのが見えている。

 だが、まだ感情を制御できているようだ。

 

 

「ふ、雑魚は雑魚らしくしてろよ。」

 

 

 ついには飽きたらしく離れて行った。

 シュナが去っていくカケルの足を何気なく踏んだのはファインプレーだろう。

 

 

「なんじゃあいつは!礼儀もなんもないのじゃ!」

「ほっておけ。あいつに対しては今はどうしようもないから。学校ではいい顔して地味に評価が高いからな。」

 

 

 本当にむかつくやつだ。

 気を晴らすように商店街を進む。

 

 

 だいぶまわっただろうか。

 ようやく目的の露天を見つけた。

 

 

「らっしゃぁ~い 珍しいものいいものなんでも売ってるよ~」

 

 

 気の抜けたような声。

 

 

「おじさん。久しぶり。」

「おぅイツキじゃねぇか。元気にしてたか?」

「おかげさまでね。」

 

 

 行商人の一人、クルレス。

 懇意にしている行商人だ。

 

 

「お主、この人はだれじゃ?」

「あぁ、行商人兼命の恩人のクルレスさんだ。」

「これはまぁべっぴんさんじゃないか。お前も隅に置けないねぇ。」

「まぁいろいろあって面倒見てるんだ。」

 

 

 クルレスには一度森で助けてもらった恩がある。

 大量のゴブリンやスライムに囲まれて命の危機にさらされた時があった。

 その時にちょうど通った行商人のクルレスに助けてもらったというわけだ。

 思い出すとシュナの時とあまり変わってない気がする。

 

 

「で、面白いものある?」

「おう!いっぱいあるぞ!」

 

 

 テントの中に案内される。

 そこにはいろいろなものが展示されていた。

 剣から斧。

 珍しい金属に食べ物までいろいろなものがそろっていた。

 

 

「おぉまた増えたのか……」

「最近身入りが良くてねぇ。なかなかいい商品がいっぱい入って来たんだよ。」

 

 

 さすがエリート行商人。

 冒険者との兼業の為稼ぎもいいようだ。

 

 

「この謎の腕輪はなんだ?」

「これはごく少ない遺跡から出てきた魔法道具さ。いいものに目を付けたねぇ。」

「効果は?」

「物理的攻撃を防げるというのさ。付けてると少量だけど魔力が吸い取られるがな。」

「ほほう。」

「だが、一回きりだ。一回使うと自然に外れて壊れるんだ。」

「おお、これは便利だな。で、本当の弱点は?」

 

 

 クルレスの性格は少々曲がっている。

 売り物の大事なところを言わない事だ。

 嘘は決してつかない。

 だが、大事なこともしゃべらない。

 間違った事は言ってない。

 聞かれてないから答えていない。

 というわけだ。

 

 

「二つ同時に付けると干渉してしまうんだ。一度は普通に使う事が出来る。だが、片方が発動したらもう片方の道具がエラーを起こしてしまうんだ。」

「そのエラーとは?」

「簡単な物理攻撃で発動してしまうんだ、例えば石が当たっただけでも発動してしまう。」

「どうせまだあるんだろう。」

 

 

 表情を見てすぐにさとる。

 まだ黙っている事があるときは眉毛が小刻みに揺れるのだ。

 

 

「やっぱり誤魔化せないか。エラーを起こした道具が発動すると……ボンッ!」

「って事は爆発するのか?」

「燃えたりするほどではないが、心臓に悪いし軽いやけどを負うかもしれないな。」

「そしてあと一個しかないという事はだれかが買っていったということか?」

 

 

 クルレスは大抵同じ商品を複数用意する。

 なので残り一個という事はだれかが買って行ったんだろう。

 

 

「あぁ三つほど買った人がいたな。」

「南無阿弥陀仏……」

「まだ死んでない!というか小爆発で死ぬか!」

 

 

 ジョークが通じなかったようだ。

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