第五十五話 深夜
「今日は一日遊んだのう……」
「本来の目的は達成できなかったけどね……」
涼しげな感じの部屋の中。僕のシュナはソファーにごろりと転がっていた。
子供と遊び過ぎて疲れたかな……
「やはり、住宅街では見つかるわけないかな……」
「聞いた人はみんな見たことがないと言っておったのじゃ。ならば……農場の方に行くしかないのじゃろうか」
シュナの顔がきらきらとしている。やっぱり、楽しみなのだろうか。
まぁ、あんなに眺めが良かったから楽しみになるのも仕方がないだろう。新鮮な物も食べられるかもしれないし、いろいろといいことずくしかもね……
「夜ご飯も、町の人がくれた新鮮な食材で作ったから美味しかったのじゃ。また食べたいのう……」
「野菜もシャキシャキしていて美味しかったね……」
僕が過ごしていた町でもある程度新鮮な物があったが、取れない物は少し離れた町から輸入するため、魚介類とかは基本干物や煮物が多かった。
生が美味しいかは分からないけど、焼き魚は新鮮な方が味がいいという事も分かった。味付けは僕のよりもおばあちゃんの方が断然に旨いが。
おばあちゃんが、新鮮な魚で全力で作ったらどうなるのか少しばかり楽しみだな。
「あと、怪しい人はみた?公園の遊具のところにいた男とかっは少しばかり怪しかった気がするけど」
「あれは、わらわも気になったのじゃ。遊具の陰に隠れたきり出てこなかったところからも嫌な予感がするのじゃ」
「この家の謎の施設も調べる必要があるし、やる事が盛りだくさんだな……」
大変なのは分かるけど、なんでワクワクするのだろう。大変な事もあるけれど、それ以上にここには楽しみという物がある。
いつまでも客人として滞在するのは無理かもしれないけれど、前までいた学校とは違って、気楽に要られる空気がある。
何と言うのだろう。ほんわかとした空気というか、敵意もあるけど目立った害意もあるわけでもないし、獣人の人と仲良くするのもなかなか楽しい。
いつか、仲良くなった人の獣耳とかを触ってみたいという心もある。
「とりあえず、明日は農場の方に行くとしよっか」
「分かったのじゃ。一応念の為に動きやすい服装の方が良いじゃろうか」
「畑とかがあるし、道もレンガとかで整備されているか分からないから動きやすい方でイイと思うよ。あ、でも肌を出し過ぎると草とかで切っちゃうかもしれないから気を付けて」
「やっぱり、お主はおせっかいじゃのう」
くすくすとシュナが笑いながら言う。ちょっと、心配しすぎたかな……まぁ、綺麗な肌に傷が付いたら大変だからね。
「ふぁぁぁぁぁぁ!そろそろ寝ようか」
わざとらしく大きなあくびを繰り出す。少しばかり眠いけど……とりあえず、シュナだけは寝かしておいた方がいいだろう。
「そうじゃな、わらわもそろそろ眠くなってきたから寝るのじゃ」
二人で階段を上り、そのまま寝室に飛び込む。速攻で着替えを終わらせて……僕の着替えを部屋の外に放りだす。
「じゃぁ、おやすみなのじゃ」
「おやすみ……」
ベットにもぐりこみ、シュナに背を向ける。疲れていたのかシュナの寝息が即座に聞えてきた。
……そろそろ頃合いか。
シュナを起こさないようにそろりとベットから出て、足音を忍ばせて扉に近づく。シュナは……寝ているな。
「少しだけ言ってくるね」
一言だけぼそりの残して部屋の扉を押しあける。外に置いてあった着替えを再び着て、いつでも出発できるようにする。
軽く近くに置いておいた水筒から水を飲み、喉をうるおす。
「よし、いこう」
一言だけ呟き、シュナの寝ている部屋から二つほど開けた一つの部屋に入る。ここがベストポイントという事はすでに調べておいた。
窓を開けて、そこから体を乗り出す。せーので壁を思いっきり蹴り、反対側の家の屋根へ跳ぶ。ちょうどいいところに跳ぶ事が出来て、縁を手で掴む事に成功した。
よいしょっと!体を動かして屋根の上に上り、そのまま目的地に向かって走り出す。
夜の町の疾走はなかなか楽しいもんだな。月に照らされた屋根の上を足で思いっきり踏みしめていく。
人の気配も特になし。全力疾走しても問題はないだろうとスピードを上げる。
「……気持ちいいな」
思いっきり叫びたいところを深夜だからと押さえて小さく呟く。全力で走りながらも足音は比較的軽めにしている。
「目的地まで……あと少しかな」
頭の中にインプットしておいた地図に照らし合わせながら、建物の間を思いっきり跳び、そのまま再び駆けだす。ここを……右に曲がって……ここの道を飛び越えて。
「とりゃっ!」
二階建ての建物から体を下ろし、開けた空間に降り立つ。ここは……公園。
そして目当ては……男が消えた遊具。何か……怪しい。




