第五十三話 跳躍
「……シュナ?どうしたの?」
不自然なシュナの動作に純粋な疑問を持つ。何かあったのだろうか。
シュナは、自分の胸の辺りを見て……そのあとに助けた少女の胸のあたりを見た。
あ……驚異ならぬ、胸囲の格差社会がここには存在していた。言うならば、オランジとスイカの様な差別。儚き体格差別。
「……お主は胸が大きい方が好みなのじゃろうか」
「いや、そういうわけじゃないって!別に胸が大きいから助けたとかそういう事じゃないから!」
「でも……それじゃと、胸が大きい方が好きという事は否定してないじゃろう……」
「別に僕はどっちでも大丈夫だって!というか、恥ずかしいわ!貧乳もステータスとか言うけど胸の事なんて僕はどうでもいいよ!」
巨乳だろうと、貧乳だろうとどうでもいいことを聞かれて、なんか、涙目になってしまう。というか、めっちゃ恥ずかしい。
頬が赤くなってしまっているのを感じる。
「ま、まだ大丈夫だって。時間はあるんだし、いつかは大きくなるって!」
「……心配なのじゃ……」
そういえば、シュナの体の時間は魔力量によって変わるはずだったから、もっと魔力が多かったころにはもっとシュナも成長していたのだろうか。
まぁ、普通の魔力回復薬じゃ大した回復も望めないし、時間回復を待って将来を楽しみにした方がいいだろう。
「……仲がいいんですね!お二人って小さな夫婦って物ですか?」
「いや、そこまでは……」
「……」
「シュナ。頬を赤くして黙りこまないで、僕が恥ずかしくなるから」
シュナがもじもじとしだす。なんだか、ラブコメの主人公みたいでこっちが恥ずかしいわ!という何かの本に書いてあったセリフをほとばしりたくなった。
なんとか、衝動を抑え込み、改めて現状を把握する。辺りからは好奇の視線と……お幸せにというかうらやましいというか、爆発しろと言いたげな視線が降り注いできている。
……恋愛事情は人間も獣人も変わらないんだな。獣人でも……リア充へのねたみは欠かさないんだな。
僕も、シュナがいない頃は道端を歩くリア充がうらやましいというかねたましいという視線を送る時代がありました。えぇ、本当に小さなころです。魔法が使えなくて完全に絶望にのまれるより前で、いつかは魔法が使えるようになるという儚い希望をもった少年時代です。
頭を軽く叩いて、よみがえりだした幼少期の記憶を頭の外に追い出す。
それにしても、今はほぼリア充なんだよな……結婚とかそっちはロリコンの壁とかがあるからきついけれど、別にシュナに好意を寄せていないわけでもない。
……何を考えているんだ僕は。相当動揺したのだろうか。
「……とりあえず、怪我はないなら、大丈夫かな」
「私は、大丈夫です!助けて下さりありがとうございました!」
「どういたしまして」
屈んでいた状態から立ち上がる。シュナをひょいと背中に担ぎあげる。
周りを囲んでいる人だかりを越えていくのは面倒だから、ここは上空を突破するのがいいだろう。
「あ、名前をうかがってもいいですか!」
「えっと、僕の名前はイツキ。また会うかは分からないけどよろしく」
「わらわはシュナなのじゃ……わらわもいつかお主の様になるのじゃからな!」
「何、喧嘩みたいな物うってるの……しかも、喧嘩じゃないし。自分との戦いだな」
「私の名前はカグヤです。またの、機会に」
肩乗り魔物ならぬ、肩乗りシュナ。カグヤの笑顔を横目で見ながら、シュナの体を片手でしっかりと支え、足をたわめる。
一気に勢いを付けて、体を上空に打ち上げ、近くの建物の階の柵を掴んで、体を持ち上げる。そのまま、足がある程度上がったところで、柵と地面の間にある小さな隙間に足を付き込み、そのまま思いっきり力を入れて上に舞いあがる。
下から上がる歓声を一身に受け止めながら、宙を舞い反対側の建物の壁の出っ張りを掴む。手に一気に力を入れて、足で壁を蹴って横向きの力を加える。だが、その横の運動も腕で壁の出っ張りを掴んでいるため振り子の要領で上向きの運動に代わり、体の向きが上がったところで掴んでいた手を話す。
体に浮遊感が掛かり、そのまま反対側の屋根を掴む。ここまでの一連の動作を全て片手でやったからか、少しだけ手が痛むが大した問題ではないかな。
「とりゃっ!」
おなじように振り子の要領で体を上に打ち上げて屋根に着地する。
「お主もやっぱり強いのう」
「まぁ、体だけはね。じゃぁ行くよ!」




