第五十二話 少女
荒っぽいとは言え、救出には成功しただろう。
この女の人に大した怪我もないだろうし、僕も少しだけ腰が痛む程度の怪我で住んでいる。
魔法が無くても、身体性能があればなんとかなるものだな……少なくとも、魔法では今の状況を打破する事は……いや、意外と簡単だったな。
「大丈夫?怪我はない?」
「ふぇっ!?えっと?えっと!?」
自分の上に乗っている女の人……いや、少女と言った方がいいだろう。というか、ほぼ自分と同い年だろうか。
頭にはウサ耳が乗っていて、年齢不相応と言っていいような胸が主張している。というか、服がはちきれそう。
そんな少女が、僕に馬乗りの様な状態になっていた。それにしても……あの柔らかさは……発育が良すぎる気が……
「えっと、あなたが助けてくださったんです……か……」
少女がこちらを振り返り……そして、語尾がかすれて消えていく。
あ……今、僕の頭にはなにも乗っていないんだった。僕は嫌われている人間だ。たぶん……殴られるか盛大に拒絶されるかだな……
そう思って……歯を食いしばる。でも目の前に広がったのは……
「すごい!すごい!あなたって本当に人間さんですか!?耳がない人って初めて見ました!」
「えっと……耳はありますけど……」
予想外の状況に、点で外れたところの訂正しかできない。
あれ……人間って嫌われているんじゃなかったっけ。
「あ、すみません!今どきます!」
そう言って、少女は僕の体から下りる。ようやく、冷静になる事ができた。
辺りには人だかりができていて、ざわざわとしている。あからさまに嫌悪の表情をしている人もいるけど……大抵の人は、疑問の表情や好奇の表情だ。
あらかじめ連絡されるだけで、ここまで変わるものなのかな……いや、それとも人間に対しての敵対心が消えているのかな。
「えっと、あなたが掲示板に書いてあった客人としてきた人間さんですか?」
「う、うん。そうだけど……」
どう、証明すればいいか迷ったところで……ポケットにある冷たい感触を思い出す。
これをだせばいいのかな……とりあえず、物は試しと出してみる。
「これが……証明になるかな」
「客人証明書……本物です!すごーい!本物の人間さんは初めて見ました!」
「本物の人間だって!掲示板に書いてあったあの!」
「まじか!俺も見たいぞ!」
あっというまに、周りに人だかりができる。
……人間ってここでは本当に嫌われているのか?
「凶暴っていうけどそこまで怖そうじゃないわねぇ……どっちかと言えば、優しそうな雰囲気があるねぇ……」
「まぁ、俺らを助けたとか書いてあったし、悪い奴じゃねぇのは確かじゃないか?」
勝手に論争みたいな事が起きている。うん……どうなっているんだこれは。
だが、そんな中、僕が助けた少女はこちらを向いて……
「そういえば、言い忘れていました。助けて下さりありがとうございます」
「いえいえ、お怪我はありませんか?」
「大丈夫です。大した怪我もなくぴんぴんしています!」
二コリといい笑顔を少女は送ってくる。うん……助けてよかった。
この笑顔だけでも助けた価値は十分にあったといえるだろう。
ってシュナ!
笑顔を見て、一瞬で思い出した。完全にこれまで忘れていた。
「シュナ!」
名前を読んだ瞬間、上に緑の光が発生したのを視界の端でとらえる。
上を見上げると……緑色の魔法陣。普通に現象だけを発生させる魔法陣だ。
直後、上からシュナらしき人物が降ってきて、僕の腹に突き刺さる。いや、シュナ本人だ。
現象発生で軽減されていたとはいえ、少しばかり痛かった。
「お主、大丈夫じゃったか?」
「うん、大丈夫だったけど……アクロバティックな登場の仕方だね……」
シュナは僕の腹から手際よく下りて、辺りを見渡す。その視界の先には……助けたばかりの少女がいた。
シュナは、僕がだれを助けたか一瞬で理解したらしく……そして、なぜか少女の頬は軽く赤く染まっていた。
「……」
シュナは無言で、自分の胸に手を置き……少し怒ったような表情をした。




