第四十九話 朝食
「うわ!痛い!ちょっと、暴れすぎないで!」
体がもみくちゃにされて、あちらこちらに小さな痛みがはじける。体を切られるような鋭い感じではなく、ぶつかったりする鈍い感じだ。
「ほらほら!高い高ーい!」
「きゃっきゃっきゃ!」
獣耳が嬉しそうにくるくると動いている獣人の子供を持ち上げて、高い高いする。
……なんで、こんな事になっているのだろう。
そんな事を思い浮かべながら、過去を振り返り始めた。
「おはよう……」
「おはようなのじゃ」
目を覚ますと、すでに着替えてベットの近くで本を読んでいるシュナがいた。いつもの用に黒いワンピースを着てベットに腰掛けた状態だ。
一度目覚めたら、即座にベットから出る。これは、僕の鉄則。二度寝したら面倒だ。
這うようにしてベットから出る。そのまま、魔法袋からいつもの謎の黒衣を取り出して、ベットを盾にして着替える。わざわざ後ろを振り返って僕の体をみる様な事をシュナはしない……よね。
あんまり、シュナを待たせ過ぎてはいけないので、手際良くぱぱっと着替えて、いつでも出発できるようにする。
「さて、今日は……何をするのじゃ?」
「どうするって言われても……獣人たちと友好を深める……とか?」
「わらわ達の事はすでに国から伝えたと言っておったからのう……」
「まって、その連絡はいつの間に」
つい突っ込んでしまう。いつの間に伝達が来たのだろう。僕が寝ている間だろうか。
「掲示板に、客人が来た事を掲示しておいたらしいのじゃ。主婦のネットワークはすごいから簡単に伝わるっていっておったのじゃ。今日の朝ぐらいに伝達係という人が来たので、わらわが応対しておいたのじゃ」
「ふぅーん。大丈夫……かな」
「大丈夫じゃろう。このあたりの住民は、基本的に温和な人が多いらしいから、襲われたりする事はないと言っておったのじゃ。まぁ、少しばかり距離を置かれるのはありそうじゃが」
「そう……だな。まぁ、これが改善されるのがいつかは分からないからね」
考えていても仕方ないと立ち上がり、そこでようやく自分の空腹に気が付いた。
「行く前に……なにか作るか」
「分かったのじゃ!今日からはわらわもてつだうぞい!」
「シュナって料理できたっけ?」
「初めてなのじゃ!」
心配な事しかないが……まぁ、なんとかなるだろう。
「じゃぁ……魔物の卵の目玉焼きでもつくろうか。えっと……シュナは卵をわれる?」
「もちろんじゃ!」
ボウルを出して、中に卵を入れてシュナに渡す。フライパンを火魔法道具の上に置いて、シュナが魔力を注げばいつでも使えるようにする。
あとは……シュナが卵を割るのを待つだけだな。さすがに卵を割るぐらいなら……
「とりゃ!なんじゃ!」
「……シュナ?」
シュナは卵を高く持ち上げ……そのままボウルの中に叩き落した。もちろんの事、卵は殻ごとばらばらになって辺りに飛び散る。ボウルの中に入っているのも……殻のまじった生卵だ。
「……さすがに不器用すぎでしょ……卵を……粉砕するなんて……」
「こんこんと叩きつけたのじゃが……まったくわれなかったのじゃ。だから少しだけ力を入れればわれるかと思ったのじゃが……」
「完全なるオーバーキルだよ……とりあえず、片付けてっと」
ボウルの中の物をゴミ箱にすてて、新しい卵を取り出す。見せるようにしながら、卵をボウルの縁で軽く叩き、少し大き目のヒビを入れる。
そこから、指を入れてパカリと押し開いて、中の白身と黄身をボウルの中に落下させる。黄身が割れないように慎重におとしたから、綺麗に丸の形だ。
殻の残骸も入っていなくて、我ながらうまくできたとおもう。まぁ、いつもの事だけど。
「決めた。これから、シュナに少しずつ料理を教えて、僕が楽できるようにする!」
「それは無理じゃろうな。わらわが料理ができるようになるまで何百年かかることやら」
「それは、本人が言うセリフじゃないでしょ!どっちといえば僕が言うべきセリフ!しかも何百年って桁がおかしいし!普通に寿命でそのころには死ぬから!」
そんなこんなで料理は進み、あっという間に食卓には朝食がそろう。
「いただきます」
「いただきますなのじゃ」
パクパクと食卓から食事は消えていった。
……冷蔵庫の中身とシュナの腹はどっちが勝つんだろうな……




