第四十八話 寝室
あの後、他の部屋を洗いざらい探したが、変な物は見つからなかった。
どちらかと言えば、乙女の趣味が具現化されたようなまっピンクの部屋とか、ダークな雰囲気に黒魔術の気配のある部屋など、いろいろな趣味嗜好が施された部屋が多かったかな。
「……この家は普通なのじゃろうか」
「普通じゃないけど……一部だけ普通だからいいんじゃない?」
あの怪しい部屋は、黄色いテープで扉を軽く封鎖した。本で読んだ事をそのままやっただけだが、警告の文字を黄色いテープに書いておいたから、間違えて入るということも……ないよね。シュナが興味本位で……入らないよね!
「食料も部屋の厨房にあるから……料理だけ作る?この洞窟の中でも太陽は沈むみたいだし、そろそろ夜になる時間帯だと思うから」
「今からでてもしょうがないじゃろうし……簡単な料理を作るべきじゃろうな。この後の行動とかも、少しばかり話し合いたいというのもあるのじゃが」
シュナが真剣な事をいっているな……何かあったのだろうか。そう思って、シュナの顔を覗き込むと……だらしなくよだれが垂れていた。
やっぱり……食事が最優先という事だろう。
覚えた部屋の構造から、厨房の場所を思い出してそこに向かって歩んでいく。
「よいしょっと。あまり長く待たせても大変そうだからね……とりあえずっと」
魔法袋の中を探り、目的の物を取り出す。一冊の本。
名前は……『勇者直伝料理レシピ』
勇者が過ごしていた世界の食べ物のレシピが書いてあり、奇抜な物もあるが、中には絶品とも言えるメニューもある。
そこから手軽に作れる物をぺらりぺらりとめくっていく。
クリームシチュー……シュナのトラウマになっているから作るのはやめた方がいいだろう。
とりあえず、適当なおかずをぱぱっと作り、先にシュナに出しておく。
その後にメインの物を作り上げる。今回は、簡単な魚類の塩焼きでいいだろう。
ちゃちゃっと料理を作り上げて、シュナと同じ食卓につく。
「で、これからどうする?」
とりあえず、本題に斬り込んでおく。
「今の目的は、崩壊草の入手じゃな。もしかしたら、この国の中に生えているかもしれんのう」
「どうしようか……だれかに聞いてみるか。できるかぎり早く戻った方がいいかもしれないけど……簡単に帰るのは難しそうだね……」
脱出方法も分からない。なら今は……ここの人達と友好を深めていくのがいいかな……
「あと気になったのは……国王の反応じゃ」
「何か変な事があったの?」
「別に技能を使ったというわけじゃないのじゃが……嫌な気配を感じたのじゃ。何かを貶める様な……何かを企てているような……嫌な気配じゃ」
シュナの感は……高確率で当たる。なら……警戒するに越した事はない。
「あとは……うまくこの国でやっていけるかどうかじゃな」
「それが、僕も一番心配なんだよね……獣人とは仲良くなってみたいんだけど……向こうはそうにはいかないと思うし……人間と獣人の壁は相当大きいと思うからね」
仲良くなるには、一気に踏み込む事なく、一歩ずつ確実に。本当に行けると思った時に……一気に突撃する。
たしか、友達の作り方という本にのっていたはずだ。別に……友達ができなかったからそういう本に手を出したというわけじゃないけど!
自分の中で謎の論争が巻き起こる中、シュナは疲れ果てたのか、小さなあくびを上げた。
「まぁ、何事も挑戦じゃ。明日になればなんとかなるじゃろう。とりあえず……そろそろ休みたいのじゃ」
「まぁ、今日はずっとダンジョン攻略だったからね……そろそろ眠くなってくる時間帯だろうし、今日はもう休もうか」
そうと決まれば話は早い。机の上の食器を一気に厨房まで持っていき、水の魔法道具でぱっぱと洗っていく。速攻で片付けを終わらせ、僕らは部屋を決める事になった。
「とりあえず、二つ普通の部屋がくっついているところがいいよね」
「なんでじゃ?」
「もしもの時があったというときに、近くにいた方が便利だと思うからだけど……どう?」
「それなら……いつものように一つの部屋で良いのではないじゃろうか」
「あー……その選択肢を忘れていたな……」
これはもういまさらだ。普通なら恥ずかしがるところかもしれないけど、僕はもうシュナといっしょに寝る事になれている。
まぁ、若い欲望が爆発する事もなかったし大丈夫だろう。
「じゃぁ、二階の部屋の一つに大きなベットがあるところがあったからそこで寝る?内装もシンプルな物だったから」
「そうじゃな。わらわもそれでいいと思うのじゃ」
シュナと共に歩み、部屋にたどり着く。いつもの用に背をむけて寝着に着替えて、ベットに飛び込む。
そのまま……僕らは深い眠りに着く事になった。




