第四十六話 国王
「おぉぉぉぉぉぉぉ!」
「これは、すごいのじゃ!」
窓から見えた光景。
大量の稲が風になびき、さわやかな光景を生み出している。
そして、故郷にあった森のように、ゆったりと揺れる木の葉たち。
真ん中に位置する大きな湖からは、常に水が真上にわき出し、その水に反射して虹ができている。
自然と人工物が綺麗に調和した、とてつもない光景が窓の外に広がっていた。
でも……あれ?
「なんで、地下の洞窟にこんな大きな町があるんですか?」
「これは、昔に王が作り出した空間にみんなで町を作り上げたんです。たしか、帝国道具を使ったと聞きましたが。」
「帝国道具?」
「えっと、昔の帝国の遺跡で作られた魔法の枠を超えた道具の事ですが……」
「あぁ、クルレスさんが商売道具にしているあれですか……」
それなら、僕も大量に持っているのだが……高級品なのだろうか。
一気に、魔法袋が重く感じられるようになったけど……
窓の光景から目を離そうとした瞬間……新たな疑問が次々に湧き上がってくる。
「なんで、ここは地下なのに日の光があるんですか?」
「魔法道具を使って、日の光を再現しているんです。こうでもしないと農業もなにもできませんから。もちろん、あの湖から出ている水も全て魔法道具によるものです。」
この国の事がもっと知りたくなってきた。
探せば探すほど面白いものがザクザク出て来そうな気がする。
「もうちょっと、この光景を楽しみたいと思っているかもしれませんが、ちょっと急ぎませんと……」
「おっと、すみません。」
母親の人が少し慌てたような顔をしている。
何かあるのだろうか。
「このあたりだと……もうすぐ、人間をものすごく嫌っている獣人が来るのですが……それも、出会いざまに殺すぐらいで。」
「よし、早く行きましょう。」
外の光景をもう少し眺めていたいという感情もあるが、命を犠牲にしてまで見ていたいとは思わない。
即座にこの場から離脱!
「じゃぁ、こっちです。」
階段を少し上り、二階あたりの通路に出る。
一階一階あたりの天井の高さがとてつもなく高いので、階段も意外と長い。
だいたい、人が四人肩車してもぎりぎり天井に触れないぐらいだ。
そのまま、長い長い通路を通り抜けて大きな扉の前に着く。
きれいな動物の装飾が金と赤で掘りこまれた荘厳な扉だ。
その扉を、母親は容赦なく押しあける。
「……ノックとかしなくていいんですか?」
「大丈夫ですよ。いつもの事ですから。」
「そんなに甘いんですか……」
押しあけた先には……荘厳な作りの部屋が待っていた。
天井がとてつもなく高く、あちらこちらに置かれている綺麗な照明によって余すところなく照らされている。
たぶん、いくつもの階をぶち抜いて作った吹き抜けだろう。
その広々とした部屋の中に、きれいな服をまとった三人の男たちが佇んでいた。
「すみません、トライネンはいますか?」
「王を呼び捨てとは……変わりませんね。ここにいますよ。」
三人のうちの一人が反応する。
この人が王という事だろう。
「それで、今日は何の要件でしょうか。」
「新たな入国申請です。」
僕も、シュナも、ほかの獣人たちもぽかんとしている間に話がトントン拍子に進んでいく。
たぶん、ほかの獣人たちは、王にこんな簡単に話しかけているという事態に戸惑っているのだろう。
「あのお二人さんでしょうか。私達に害意がないなら全然かまいませんよ。」
「それが……獣人ではなく、人間なんですが……」
「え……」
王も、他の二人もこちらを驚いたようにみてくる。
やっぱり、こういう反応が来るよな……
「なんで人間がここに……」
「ちょっと、他の人間に襲われた時に助けていただきまして。この人たちは獣人への害もないですし、客人として特例で入れてもらえないかという事で。」
「……ちょっと待っていてください。」
男たち三人が、固まって何かを話し始める。
……これはだめなパターンかもな……
そう思いながら、その様子を見守っていると案外早く話し合いが終わり、こちらに向いて話しかけてきた。
「わかりました。了承します。」
「え!?」
思っていたより、簡単に決められて困った。
なんか、いろいろ尋問されるとか思っていたから……まぁ、良かったのかもしれないな。
「宿泊は、住宅街の一つに空き家があるのでそこを使ってください。食料などは、支給しますが働かざる者食うべからずというのを忘れずに。あとは……おいおい説明します。」
「あ、はい。」
「最後に一つだけ警告を。」
「なんでしょうか。」
「ここでは、人間を恨んでいる人もいます。一応、襲ったりしないように釘はさしますが、警戒だけはしておいてください。」
少し書き貯めがなくなったため、次の更新が遅くなるかもしれませんがご了承ください。




