第四十四話 城内
立ち上がり女の人に着いていこうとする。
……何か忘れているような気がするけど……
「お主、こいつらの処分は良いのじゃろうか。」
「……完全に忘れていたね……」
他の獣人たちにも声をかけて、一旦足を止めてもらう。
「装備とかは貰っていいものなのかな……」
「わらわは別に良いと思うのじゃが……わらわ達から全てを奪ったのじゃ。それ相応の代償は払ってもらうべきじゃろう。」
シュナの言葉も正論なんだが……さすがに全てを奪うのとは割が合わないというか、そこまでひどい事は出来ない気が……
「じゃぁ、少しだけ貰って後は処分するのはどうじゃ?」
「処分って……殺すって事じゃないよね。」
「そこまではしないのじゃ。ただ、町で襲おうとしてきたあやつらと同じ事をしてやるだけじゃ。」
「えっと……あ、あれか。了解!」
まず、少しだけ装備を頂こうかな……
そこまでめぼしい物はなさそうだ。
杖はシュナが持っている今の物が一番だし、剣も大して強くないのばかり。
とりあえず、欲しい物は無属性魔法の本と……あの妙に硬かった肩当てかな……
無属性魔法の男の手から本を抜きとり、別の男から肩の辺りの服を切って肩当てを取り出す。
こいつらは、気が付かなかったとはいえ僕ら人から物とかを奪おうとしたから……盗賊みたいな扱いになるのかな……
盗賊から物を奪っても犯罪ではなかったはずだし……
心にそのいいわけを刻み、頂いた物を魔法袋にしまう。
あとは……
「シュナ、お前がやる?」
「どちらでも良いのじゃが……」
「じゃぁ、僕がやるよ。」
他の獣人たちが見守る中、足を構える。
男たちは少しずつ目を覚まし、口々に汚い言葉を発している。
「てめぇら、俺ら人間にこんな事をしてすむと思っているのか!」
「そこの人間も、けがらわしい獣人と協力していいのか!犯罪者として国につきだずぞ!」
聞こえてくる声を全て無視して、足に力を込める。
せーの!
「うぎゃぁ!」
「お、おい……大丈夫か……」
「男の尊重を……容赦なく……」
騒ぎ立てていた声も一瞬でやむ。
後ろでは男の獣人が股間を抑えてうずくまっている。
それを無視して、少し位置を調整して次の男に狙いを定める。
「ちょ、待って、待って!」
耳を叩く言葉も無視して、足を振りかぶり股間を蹴りつける!
「ぐはっ!」
クタリと新しい漢女が完成し、次の男へ向かう。
その後、全員分の漢女の産声が響き、人間の男は僕だけになった。
「まぁ、こいつらはこのままここで放置でいいか。」
「そうじゃな。」
「……容赦が……ありませんね……」
「こんな人に容赦はいりますか?」
「……いりませんね。」
後ろでは獣人の男たちが股間を抑えてうずくまっている。
目の横に小さな涙が流れているのは気のせいではないだろう。
「と、とりあえず、いきましょうか。」
慌てている女の人におとなしくついていく。
男たちは股間を抑えながらゆらゆらと近づいてくる。
確かに、あれは実際に受けるといたそうだな……
まぁ、物理攻撃をほとんど使わない世の中だ。
めったにない痛みだろう。
少しばかり広い場所を通り抜け、たどり着いた場所は大きな扉。
黒くにぶく輝く金属でできた荘厳な感じの扉だ。
100人でも同時に通り抜けられそうなサイズで、この辺りだけ天井も異様に高い。
「ここが、入り口ですか?」
「えぇ、本来ならここの鍵を開けていくんですが、人間を連れてきたといきなり知られると暴動が起きる可能性があるので裏道を使います。」
そう言って、扉の右側の壁に子供の母親は移動する。
そこになにかあるのだろうか。
そう思った直後、壁を母親が思いっきり殴る。
ぼこりという音がして少しだけ壁がおち、スイッチが現れる。
「こんな所に……」
他の獣人たちが絶句している中、母親は淡々とスイッチを押し、地鳴りの様な音が響き渡る。
そして、スイッチの前の地面が動き、階段が現れた。
「これです。ここから、城の中に直接行けるんです。」
そう言って、階段に向かって入っていく。
それに一列になって全員で入っていく。
中は薄暗く、先頭を歩く母親が魔法を使って明りをつけている。
これは、魔法道具かな……
まぶしくない明るさだけど、遠くまで見えている。




