第四十三話 夫婦
まぁ、このままシュナが獣人だと偽り続けてもいいが、ばれたときにまたまた面倒な事になりそうなので種明かしをするべきだろう。
「えっと、シュナも実は……」
「わらわも獣人ではないのじゃ。」
バサリと音がたちそうな感じで、狐耳を外すシュナ。
綺麗に銀色の髪が翻って、神々しい感じを出している……ように僕からは感じる。
「あなたも……人間だったんですか……」
「まぁ、そんなもんじゃ。少しばかり違うがのう。」
「ちょ……!」
シュナが爆弾発言を落とそうとしているのに絶句する。
さすがに、魔王の娘とか言ったら大変な事だ。
信じてもらえないだろうし……
シュナを止めようと手を伸ばすと、シュナがこちらを振り返り、いたずらげな顔をする。
この顔をするときは……何かの策があるのだろう。
まぁ、様子を見させてもらおう。
「わらわも少しだけ獣人の血を引いておってのう。証拠に、ほれ。」
そう言ってシュナは目を自分の手で一瞬覆い隠し、そのまますぐに開ける。
そこに出たのは赤く染まった目。
そう言うことか!
獣人の能力の様な物を見せれば、少しは溝がふさがるかもしれない……
良く考えた物だと思う。
「その目は……本当の様ですね。」
「まぁ、こっちのイツキは完全無欠な人間じゃがな。悪く思わないでほしいのじゃ。」
「助けてもらった人ですし。さきほどの猫耳も似合っていましたし。」
「面と向かって言われると恥ずかしいです……」
これまでは気にしないようにしていたけど、いざ言われるとこんなに恥ずかしいとは……
これからは、信頼できる人の前でも使い時を考える様にしようと誓う。
「とりあえず、私達の国へ行きますか。」
「待って下さい!本当に行くんですか!?」
「もちろんよ。私も一応招待券を持っているし。」
その言葉に他の獣人たちが目をむく。
この事は誰も知らなかったようだ。
「まぁ、内緒だから誰にも言ってなかったけど、もういいわね。とりあえず、耳をつけといてくれる?」
「了解です。」
いつものように、僕は猫耳、シュナは狐耳を頭に乗せて獣人に化ける。
「さすがだな、その道具。完璧に獣人じゃないか。」
「ちょっと、いろいろあって偶然手に入って、それから使ってるんです。」
やろうと思えば、耳を動かすことだってできる。
まぁ、相当な神経を使うからめったにやらないが。
「で、どうします?」
「えっと……何がですか?」
「一応、獣人の国に少しばかり入る事になるんだけど、獣人として貫き通すか、人間として貫き通すか。好きな方を選んで?」
この選択肢はどっちを選んだほうがいいだろう。
獣人として入った場合は、簡単に他の獣人たちとかかわれるだろう。
目的は達成されるが、もしもの時のリスクが大きすぎる。
猫耳も他の人の手で取れることがあるから、完璧ではない。
人間として入った場合は、獣人たちとは簡単にはかかわれないだろう。
種族の壁もあるし、嫌われる事が多いだろう。
だが、リスクは少ない。
もともと人だとばれているから、そこまでひどい目には合わないだろう。
短時間で少しずつ好感度を上げていけば……最後の方には普通に接することができる様になるかもしれない。
ここは……
「人間として行かせてもらえますか?」
「え!?人間だと知られたら……恨みを持つ人からボコボコにされて、最悪の場合殺されてしまいますよ!」
「それでも……普通に行きたいんです。」
ためらっていく母親に、ごり押しで頼み続ける。
「……しょうがないですね。王までの地下通路を使いましょう。」
「え!?」
再び驚きの声が回りの人からこぼれる。
「そんな物が存在しているのか!?」
「まぁ、私も偶然見つけたんですけど。というか、アトチェが見つけたんですけれどね。偶然の産物ってやつです。この道を通れば、城の庭まで行くことができます。そこまで言って王に直接聞きましょう。そこで、だめといわれたら残念ながら出て行ってもらいますが。」
「いやいや、そこまでしてくれるとは。」
「この世から。」
「嘘ですよね!」
最後に付け加えられた一言に背筋が凍る。
冗談……だよな……
「まぁ、そうなりそうになったらここまで殺したフリをしてここまで運びますけど。」
「……よかった……のかな?」
「子供の恩人にそんな酷い事はしませんから。」
ふんわりとした笑みが奥さんの顔に浮かぶのが見える。
父親に怒っていた時の表情が嘘みたいだ。
「じゃぁ悩んでいる暇もありません。行きますか。」
そう言って全員で立ち上がる。
他の獣人たちも納得したような顔をしている。
まぁ、父親らしき人は不満そうだが母親の言う事には逆らえないようで憎しみの視線をこちらに向けてくる。
完全に尻に敷かれているな……




