第四十二話 能力
男の子が発した言葉でその場の空気が固まったように動かなくなる。
……本当になにかあったのだろうか。
ふと、男の子に目を向けると……男の子の目の色が変わっていた。
たしか、さっきまでは青い色をしていたのに今は緑に変色している。
これは……何かの技能が作動しているのだろうか。
「お兄ちゃんは、僕たちと仲良くしたいって思ってるよ!」
「そんなの……そんなの嘘だ!全ての基礎となる土の精よ!ここに刃を作り上げ、万物を切り裂く要となれ!『土刃』!」
ゆっくりと詠唱と共に作り上げられていく魔法陣を視界に入れながらも、男の子の事を考える。
この子は何でこんな事を言ったのだろう。
緑色に変色した目……シュナと同じように何かしら目の技能を持っているのだろうか。
飛んできた土の刃を避ける事なく受ける。
幸い、狙いがあいまいだったからか頬を掠るだけだった。
だが、少しばかり切れてしまったようで生温かい液体が頬を伝うのを感じる。
「なぜ……避けない……」
「僕は戦う気もない。争いたくもないというわけ。」
簡潔に答えながら、頭の中で男の能力を推測し続ける。
僕の思考を読んだような、事を言っていた。
その前に、嘘か見抜くだけであそこまでの結論を出せるとは思わないから嘘を見抜くだけの力ではないと思う。
というか、そこまでの技が子供にできるとは思わない。
だから……考えられるのは本当に……心を読む事ができる目という事だろうか。
シュナの持っている目の能力もいろいろあったが、その中の一つだけを持っているのだろうか。
確か、シュナの能力は選択制で心を読むやつは面白くないから取ってないとか言っていたのを思い出す。
「そんな事言うなら、僕はお兄ちゃんと行く!」
「ちょっと!何言ってるの!」
「それは……僕も困る……」
良くわからない事態になってきて混乱してくる。
困っているのも、子供の母親らしき人も同じの様で偶然ながら目があってしまう。
そして……ついふたりで笑ってしまった。
「こんなに息子が反抗したのは久しぶりだわね……すみませんね、迷惑をかけて。」
お母さんが何かに吹っ切れたような感じで行ってくる。
なんだか、種族の違いがこの場に無くなったように感じる。
子供は種族の壁を簡単に越えられるって本当だったんだなと感謝しながら思う。
「なんだか、人間とか獣人とかどうでもよくなってきました。」
お母さんの意見に追従するように、一人の獣人を覗いてほぼ全員が頷きという名の了承をする。
さっきから、他の人達がずっと黙っていたのは何か思うところがあったからだろうか。
憎い人間という悪印象と、同じ種族の悪いやつから守ってくれたという好印象が相殺して、まぁいいかなとかいう感じになったのだろうか。
「まぁ、この人なら少しでも信用していいかなって気にもなるな。襲ってくる様子もないし、なにせ、この子がこう言うんだからな。」
「だよな。なにせ、この子が言うんだし。」
やっぱり子供というのはすごい力を持っているようだ。
子供のおかげで一気に信頼が回復したようにも感じる。
「この子は、少し特殊な能力を持ってるんです……鷹の目という視力を劇的に向上させる能力を持っていたんですけど……それが変異していて……」
「変異?」
「私も良く分からないんです。でもそれで、人の心を読めるようになって、そのおかげで悪い事を考えている人達は近づかなくなりましたけど。」
予想はあっていたようだ。
人の心を読める。
便利そうにも感じるが、少し……というかとても大変な気がする。
「とりあえず……私達の国に来ていただけませんか?お礼もしたいですし、必要な処置とかを取らせてもらう事もあるんで。」
「必要な措置?」
「私達の国の事を知ってしまったんですよ?なら……記憶を消すか……脅しつづけるかのどちらかしまありませんよね?」
「すみません、絶対に言いません。」
一瞬、子供の母親の目に宿った鋭い視線に戸惑ってしまう。
この親ありして、この子だなとしみじみと思ってしまった。
「まぁ、冗談ですが。」
「ですよね、びっくりしました……」
「ふざけるな!人間を入れるなんて許される事じゃない!」
さっき、頷く事もなくプルプルと震えていただけの男が、ガバリと息を吹き返したように立ち上がり、大声でどなり声をあげる。
「獣人の奴隷を持ちながら、獣人と仲良くしたいだと!馬鹿も休み休み言え!」
その言葉で、一気にシュナの方に視線が集まる。
あ……シュナの狐耳は外していない。
だから……まだ獣人と思われているのだろう。
「あなたこそ馬鹿も休み休み言いなさい!」
「……あなた?」
「家の人が申し訳ない事を言ってすみません……」
「……家の人?……まさか……夫?」
「そうです、私の夫です。」
まさかの夫婦発言に、驚きが隠せない。
見た目だけは優しそうな奥さんと……いかにも強そうで凶暴そうな夫。
……改めてみると、意外とあっているかも。
「見て分からなかったの!あんなに、親しそうに話す間柄は奴隷だと言えるのか!どっからどうみてもパートナーのような物でしょう!」
「パートナー……」
夫を叱責する妻の言葉に、シュナが反応して顔を赤らめる。
少しばかり自分も嬉しくなったのは内緒だ。




