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最弱異端児は夢を見る  作者: 時雨
第三章前編 客人は……
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第四十一話 現実

「お、お主……」



シュナが突然慌てた様子を見せる。

何かあったのだろうか。

男たちを見下ろしていた目を上げ、シュナの方向へ向ける。

すると、シュナの後ろにいた獣人たちが怯えている表情になっているのが見える。

……本当に何があったのだろうか……



「お主、頭が……」



言われるがままに手を頭の上に持ってくる。

……あれ?

本来するべき感覚がまったくない。

何往復もさせるものの、いつまでたってもその感覚がない。

猫耳が……ない。

恐る恐る人として耳があるべき場所を触ってみる。

……ある……

慌てて、周りを見渡すとポロリと落下した猫耳が見つかる。

これって……大変な状況かも。



というか、いつこれがはずれたんだろう。

少しだけ記憶をさかのぼって、頭の中を確認する。

外れた時として考えられるのは……戦闘中。

最後の方では一応猫耳は使えていたし……



ぱっと、脳内にスパークが走り、何かを思い出す。

確か……火の玉が頭を掠った時があったな……

その時に、火の玉が猫耳を巻き込んでしまったということだろうか。

あの時に世界の時間が元に戻ったように感じたのは、冷静になったからではなく、猫耳の効果がなくなったからだったのだろう。



「お、お前は……人間だったのかよ!」



一人の獣人の声が頭を叩き、思考が現実の戻る。

とりあえず、今は何をするべきか……

敵意がない事を証明する……

これはたぶん無理だろう。

今は、種族の違いというだけで大きな壁があるという状況だ。

どうあがいても……難しいだろう。



なんとか友好的に接して、後腐れのないようにする……

これも、こんなに警戒されている状況では無理だろう。



脅して連れて行ってもらう……

一瞬浮かんでしまった最悪の一手を、強制的に脳内から排除する。

考えてはいけない一手が頭に浮かんだのを反省しつつ、他の方法を考える。



うん……

この状況は限りなく……詰みだ。

友好度は最悪、状況を打破できる物もなし。

怯えの視線、警戒の視線。

助けてもらったからか、怒りの視線というのは見当たらないがこれだけでも変えるのは難しいだろう。

今、できるのは……後腐れのないように去ることだけだ。



「獣人たちの仲良くさせていただきたかったんですが……もう、無理そうですね。」

「ふざけんな!どうせ俺たちを騙して奴隷にでもしようとしていたんだろう!」



一人の獣人が突然怒りだす。

これが正常な反応だろう。

これが悲しくも……現実というものだろう。



「これ以上迷惑をかけても大変ですし、失礼します。」

「え……?」



この反応を想定していなかったのか、怒っていた獣人はぽかんとした顔になる。

まぁ、他の獣人も同じような顔になっているが。

どうせ、無理やりでも突っ切るつもりだと思っていたんだろう。

さすがに、そこまでやってまで獣人の国には行きたくない。

主な目的は、獣人の人々と仲良くなっていろいろと学びたいのだ。

獣人から嫌われてしまっては元も子もない。

まぁ、人間というだけで、もう嫌われてしまっているが。



「じゃぁ、また会う機会があったら。」

「ちょっと待って下さい!」



こんどは、獣人の女の人が声を投げかけてくるんだろう。



「人間に言うべき言葉ではないんですが……助けて下さりありがとうございました。」

「……どういたしまして。」



落ちていた猫耳と男たちをひっつかんで、ここまで来た道を引き返そうとする。

その直後、背中にあたる小さな感覚。

そこまで痛くはないが、のめり込むような感覚がある。

人間だから許せないとかで攻撃を放ってきたのかと思い、後ろを振り向いて確認すると……小さな獣耳があった。

攻撃ではないけど……何だ?



「アトチェ!離れなさい!」



この子のお母さんらしき人の叫び声が響いてくる。



「お兄ちゃんさっきのかっこよかった!もっと見せて見せて!」

「えっと……」



予想外の事態に混乱してくる。

男の子が僕に興味を示していて、それを止めようとする母親……

なんだか、修羅場の様な感じがする。



「この人は人間なのよ!売り飛ばされちゃうわよ!」

「うん……やっぱり酷い誤解だな……」



過去はいつまでも引きずられてしまうものなのだろうか。

仲良くしたいけどね……



「やだー!お兄ちゃんと遊びたいー!」

「酷い事されるわよ!いいからこっちに来なさい!」

「そんな事はしないのにね……」



なんだか、心が冷たい氷に覆われるように、感情が抜けていく感じがする。

一刻も早くこの場所から離れたい。

これ以上……獣人と人との大きな壁なんて見たくない。



「このお兄ちゃんは!そんな事なんてしないよ!嘘もついていないし!」




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