第三十七話 人間
「こいつ……人間様に逆らうとは……」
「何を……馬鹿な事をほざいているんだ……」
後ろに匿っている獣人達は多少怪我を負っているものの、死者などは出ていない。
ただし、女の人達は、執拗にぎりぎりの所を狙われたからか服がところどころ破けてしまっている。
子供も……無事だ。
対して、敵の男たちは壊された武器を捨て新しい武器を取り出している。
たぶん……杖の力が使える両用の短剣だ。
まぁ、今出回っている剣のほとんどは、魔法が使えるものだから当たり前なのだろう。
純粋な物理的攻撃としての剣はほとんど出回っていないというのも過言でもない。
せいぜい雑魚魔物がドロップとして落とす弱い剣か、とてつもなく強いボスクラスモンスターの落とす剣ぐらいだろう。
後者はたいてい、貴族とかがお遊びで買うし自分に本当にあったのを探すにはオーダーメイドしかない。
もちろんお金もかかるし、完成するまで時間がかかってしまうから面倒なんだけどね……
一旦、戦いが落ちついた事を確認し、相手の実力を測る。
三人は、魔法の実力はまぁまぁ。
武器もそこまでレア度が高いものに見えず、魔法陣の展開速度は速いものの、威力が乗っていないように感じる。
ただ、一人は強敵だろう。
反射神経もなかなかの物で、魔法の腕もなかなかの物だ。
たぶん……冒険者のランクAぐらいの物だと思う。
後の一人は、全くの未知数。
強い武器を持っている様子もないし、攻撃に一度も参加していなかった。
体の性能が高いというわけでもなさそうだし、持っているのは軽い袋の様な物。
たぶん、物持ちとか雑用を担当しているのだろう。
戦力からは外して良さそうだ。
とりあえず、頭の中でこいつらを無力化する方法を考える。
気絶させるのがもっともいいが、こんな集団戦でひとりひとり気絶させるための急所を正確に狙うのはさすがに無理がある。
シュナの協力があって……確率は半分という所だろう。
ここは……シュナの攻撃で無力化する事が最高だろう。
小さな声でばれないようにシュナに話しかける。
「シュナ、あいつらを縛魔法で止められるか?」
「できるのじゃが……気がつかれたらダメじゃぞ。」
「そこは、僕が何とかする。」
「了解じゃ。」
「てめぇ……獣人のくせに武器を壊しやがって……簡単には死なせんぞ……」
男たちが緊張に耐えかねたように魔法陣を展開させ始める。
全部……僕に向かってだ。
このまま避けたら、2つはどこかへ飛んでいくだろうが、残った二つは射線上にいる後ろの獣人達に当たってしまうだろう。
避けられると思うけど……子供とかにあたったら一大事だ。
刀の腹にうまく魔法を当て、攻撃を防ぐ。
そのまま、刀を振りかぶり柄の部分を一番強そうな男に叩きつけようとする。
だが、先に反応されてぎりぎりでかわされ、少し遅れて拳が僕の腹に叩きこまれる。
腕で余裕を持って防げたものの、地味に威力が強い。
たぶん腕に魔法道具でも仕込んでおいたのであろう。
まぁ、直撃しても死にはしなかっただろうけど。
気絶はさせられなかったけど……作戦は成功だろう。
僕の攻撃に気を取られていたまぁまぁの男たち三人組の足元には既に魔法陣が完成しかけている。
このまま気が付かなければ……大丈夫だ。
「お前ら!下がれ!」
「……チッ!」
一番強そうな男が発した声に反応し、三人組が一気に魔法陣の範囲から出ようとする。
だが、それと同時に魔法陣も作動する。
……間に合え!
発生した縄は男たちに向かって伸び……そのままほとんどが崩れ落ちる。
だが、一人の男だけはとらえるのに成功する。
まぁ、一人減っただけでも!
飛んでくる魔法をぎりぎりの位置でかわし、または刀で受け止める。
なかなか、進まない戦況にいらいらが募り、思いっきり殴りたくなる。
「おっと。」
少し上から飛んできた魔法を前方にしゃがみながら突き進む事で避け、ついでに足を振りまわして敵の足をけり、思いっきり転ばせる。
これで一時的な無力化に成功っと。
あとは……二人……
「こいつ強いぞ!全力でやれ!」
「了解!」
後ろで荷物持ちをしていた男が動き出す。
後ろに持っていた袋から取り出したのは……
本!?




