第三十六話 敵襲
「げっへっへ!まったくいいもんを見つけたぜ。上玉の獣人がいっぱいじゃねぇか。」
「いったい、いくらぐらいで売れるかぜ。」
「うりはらう前に少しだけ遊んでもいいよな?」
「じゃぁ俺もだ。もちろん奴隷商人に売った時のお金は折半だよな。」
「遊ぶのはまぁまぁの奴にしておけよ。値段が下がっちまうからな……」
現れたのは5人の集団。
こいつらは……冒険者か……
こいつら獣人を売る気だろう。
別に僕は正義感があふれているわけでもない。
奴隷狩りを偽善ぶってダメだとかいう気もない。
でも……自分とかかわった獣人が売りはらわれていく様子など……見たくはない。
「な、なんでこんなところに人間が!」
「に、逃げるわよ!」
獣人が一斉に立ち上がり、逃げようとする。
「うりゃぁ!逃げさせはしないぜ!」
反対側の道に魔法陣が展開される。
赤い構成の魔法陣……まさか!
「止まれ!そこで突っ込んだら大変な事になる!」
僕の声に何とか反応してくれたのか、魔法陣のぎりぎり手前で止まってくれた。
直後、魔法陣が完成し、起動させられる。
この魔法の選択は……的確すぎる。
赤い炎か立ち上がり、壁を構築する。
触ったら火傷じゃ済まされないレベルの威力……
『火壁』だ。
冷静に頭を動かし、何をするのが最善かを考える。
今は……とりあえず敵の前に……
「お主!横にとぶのじゃ!」
その声が鼓膜を叩く者の、考え事をしていたからか反応が遅れてしまった。
急いで足をたわめて横にとぶ……
間に合うか……
だが、非情にも魔法陣の展開が完了し『土縛』が起動する。
のばされた土の縄は僕の足を掴み、地面に叩き落す。
「ぐはっ……」
腹への衝撃に肺から空気が抜けてしまう。
しかも……相当固い。
「男は殺してもいいぞ!どうせ高くは売れなさそうな物ばっかりだしな!」
「とりあえず、戦闘力のあるやつを無力化しろ!殺すのは後でも構わん!」
「おりゃ!お前は後回しだ!」
頭を思いっきりけられ、体が揺れる。
い、痛い……
とりあえず、土の縄を切断しようと刀を振り下ろすもなかなか切断できない。
「全ての基本となる土の精よ!ここに一つの切断する武器を作り上げ、我を守り、敵を切り裂く刃のな……」
「おせぇよ!」
魔法が獣人の中で一番強そうだった人に衝突し、横の壁ににぶい音を立てながら衝突するのが見える。
早く……早く切れろ!
「シュナ!僕の事は放っておいてあっちを助けに!」
「了解じゃ!」
シュナは縄を切ろうとしていた魔法陣をスライドし、照準が敵に合うように移動させる。
魔法陣は固定されて動かせるはずはないのに……
まぁ、これもシュナのチートっぷりという事だろう。
構成された風の刃が飛んでいき、男の持っている杖に当たりそうになる……
「おっとっと。ってあぶね!」
下卑た顔をした男がなぜかよろめき、攻撃はぎりぎりのところを通り抜ける。
くそ……
「お楽しみタイムを考える事も大事だけど、武器も大事にしろよな。こわしたらまた面倒だぞ。」
「へーい。あの巨乳は俺がもらうぞ!」
「どうせ、ろくでもない事をしようとしてるんだろ。じゃぁ、俺はあの子を。」
「いいのか?あれはたぶん男だぞ。」
「うわ、まじか……まぁ、そういう趣味のやつに売りはらえば高く売れるかもな。」
下卑た会話が頭を揺さぶり、焦りが頭の中を支配していく。
「あぁ!もうめんどくさい!」
刀を全力で振りかざし、体重を乗せて一気に振り下ろす。
風魔法も添加した状態での攻撃に、四分の三ぐらいまで残っていた縄が一気に切断される。
よし!急いで助けに!
足を前に踏み出して、風魔法と共に飛び出し獣人たちと男たちの間に割り込むように立つ。
とりあえず、武器を突きの構えで持ち、男たちの持っている杖に向かって連続で突く。
ポキリと連続で物の折れる音が響き、突いた三本のうち、二本の杖が折れる。
それと共に、パキンと二つの魔法陣が砕ける音が響き渡る。
武器を介して使った魔法は、武器を破壊されることによって壊れてしまう。
「シュナ!あと一つを頼む!」
「了解じゃ!」
とりあえず、人を殺したくはないので全力で接近し、脇腹に刀の柄の部分を叩きつける。
一人の男が体をくの字にして、壁に衝突するのを確認し、次の男へ斬りかかる。
「あぶねぇ!」
もう一人の男に柄を叩きつけようとしたら、速攻で取りだされた短剣に阻まれる。
刃の部分は折れたけれど……勢いが消されてしまっているから、当たっても意味はない……
その場の判断で後ろに跳び、横から飛んできた氷の球を避ける。
こいつら……意外と強い!




