第三十一話 風線
魔法陣から、緑色の線が出現する。
細い……けど頑丈そうな線。
それが、完全に出現した後……突然消滅する……
どこに行った!?
はっと思い金属の塊を見ると、すでに遠いところまで移動して薄くしか見えない緑の線が視界に入る。
まさか……高速で移動していたから気が付かなかったのかな……
という事は……
パタリという音が連続で響き、縄の下半分が金属の塊に落下する。
一度に……全てが切断された……
これは、僕が役立たずだったんじゃ……
まぁ、これを考えても仕方がない。
得意分野と苦手分野が誰にでもあるんだからと自分に言い聞かせる。
「えっと、今の魔法は……」
「オリジナル魔法の、『風斬線』じゃ。風の線を作り出し、それを飛ばす事によっていろんなものを切り裂くのじゃ。他の人がいたり、こわしてはいけない物とかがあったら使えないのじゃ。容赦なく二つに分断されてしまうのじゃからな。」
「まって、それだったらダンジョンの壁は……」
「多少削れているかも知れんのう。まぁ、ちょっと弱めにしておいたから大丈夫じゃと思うのじゃが。」
「うーん……弱めであの威力とは……おそるべきあの威力……」
自分の役立たずさにまた、不甲斐なさを感じる。
シュナって……遠距離攻撃の中では最強じゃないか……?
「とりあえず、進むのはどうじゃ?立ち止まっているだけじゃ暇なのじゃ。」
「おっと、ごめんごめん。じゃあ行こうか。」
足を踏み出して、金属の塊を踏みつける。
この硬さ……やっぱり砕くのは無理そうだったな。
「この傷……シュナの魔法でできたものかな……」
「たぶん、そうじゃ。ちょっと強すぎたかもしれんのう。」
きれいな斬り込みが奥深くまでできている。
ささくれも何もない綺麗な線が描かれていた。
「って危ない!」
こっちに来ていた魔物を発見し、シュナより前に躍り出る。
魔物は……スライムか……
ちょうどよかった。
スライムグミの在庫が怪しくなってきたところだった。
のこり……三つしかない。
シュナの胃袋を考えると、一日五個は必要だろうし……確実に仕留める!
起動させたままだった魔境眼を通して、スライムの核を視認する。
やっぱり一個……
変異種はめったに出ないようだ。
一気に至近距離まで駆けこんで、刀を振るい核を打ち砕く。
パキリと核を壊されたスライムはプルプルと震えながら縮み、小さな塊になる。
無事、スライムグミを獲得できたか……
僕が役に立つのはこれぐらいじゃないかなと少しだけ不安の雲が現れるものの、そんな事を考える暇はないと吹き飛ばす。
「ほら、食べる?」
「もちろんじゃ!」
できたてほやほやのスライムグミをシュナに投げ渡す。
モグモグとほおばるシュナに癒やされながら、道を突き進む。
「って、ストップだ、シュナ。」
「どうしたのじゃ?」
「一応念のために少しばかり下がってくれる?」
シュナが言われるがままに後をに下がったのを確認して、足を前に少しだけ突き出す。
魔境眼にうつった、薄いシートに足を踏みだしたというわけだ。
直後、グラグラという音が響き、目の前の地面が急降下して見えなくなる。
……落とし穴か……
落ちたらひとたまりもないぐらいのサイズ。
気がつかなかったらと思うと、背中がゾクリとする。
みている限り、地面が戻ってくる様子はない。
一度きりのタイプの罠なんだろう。
だが、落とし穴は床全体を覆うような大きさ。
端っこを渡ろうとしても、端っこという物が存在していない。
普通に飛び込んでも無理そうだし……耳を使うか……
カルロさんたちと居た時は、笑われそうで使っていなかったけど、今は使うべきだろう。
魔法袋から耳の箱を取り出す。
僕は、いつもの猫耳。
シュナにはいつもの狐耳を手渡す。
飛び越えるなら、ウサ耳がいいかと思ったが、天井がそこまで高くないため、あんまりつかえないだろうと思った為使っていない。
「シュナ、もしもの時は援護をよろしくね。」
「了解じゃ!」
少しだけ下がって助走距離を稼ぐ。
これぐらいならいいかな……
「ちょっと、持つぞ。」
シュナを両手で抱え持つ。
俗に言うお姫様だっこという状態だ。
「せーの!」
一気に足を踏み出し、走り出す。
限界まで加速し……ぎりぎりで地面をけり出す!
足の裏に地面の感覚がなくなり、風を切るような感覚が生まれる。
ぎりぎり……届くか届かないかの距離か……
「シュナ!」
「もう準備してあるのじゃ!」
下にすでに展開されていた魔法陣が起動し、ものすごい風が噴き出してくる。
これなら……行ける!
足から着地しようとするが、体の姿勢がうまく動かせない……
せめて……シュナが怪我をしないように自分の体を下にする。
ドシンと背中に衝撃が走り、その直後、お腹にも似たような衝撃が走る。
やっぱりシュナは軽いけど……少し痛いな……




