第三十話 回避
「とりあえず……ここをまっすぐ本気で走っても間に合わなそうだね……あの距離は落ちてくるまでの約一秒間で抜けきれるとは思えないし。」
「わらわもこれを打破する方法は見つからないのじゃ……」
魔法を使ってもあの重い鉄を持ちあげる事はできなさそうだし……
これは、相当の曲者だろう。
「シュナ、ちょっとだけ落として試してみたい事がある。」
「了解じゃ。わらわは何をすればいいのじゃ?」
「そこで待っていてくれ、『起動』」
魔境眼を起動させ、罠の起動位置を確認する。
あれは……壁状の物理察知装置かな……
薄く輝くシートみたいなものが貼られているのは魔境眼を通して見える。
察知されないように飛び越えるのは不可能……
という事は、罠自体を破壊するしかないか……
とりあえず、弱点を把握するには一度起動させるしかない……
「シュナ。もしもの事があったら、風魔法で援護してくれ。」
「……良くわからないけど了解じゃ。」
慎重に薄いシートの様な場所の目の前まで近づき、体をシュナの方に向ける。
「お主!罠は大丈夫なのじゃろうか!」
「大丈夫大丈夫。行くよ!」
足をいつでも走りだせる状態にして、手を後ろに伸ばす。
「せ~の!」
指先をシートの様な物に突き刺し、罠を作動させた時のピリっとした感覚が指につたわるのを感じる。
全力でたわめていた足を伸ばし、一気に駆けだす。
わき目も振らずに跳びだし、シュナの居る場所まで速攻で戻る。
そのまま、ブレーキをかけ振りかえるとちょうど金属の塊が落下するところだった。
シュナをつかんだり、体を反転させる必要がなかったから少しだけ余裕ができたのかな……
金属が落ちてから、だいたい一秒後、縄がピンと張り、金属が上に引き上げられていく。
「これは……やっぱり曲者じゃのう……」
「上を通ってくという手も、同じぐらいの一秒で引き上げられるから、向こう側まで走りきれる自信がないからな……」
頭の中でこの罠を乗り越える方法を考える。
金属を砕くのは論外。
走り抜けるのもほぼ不可能。
もちろん上も無理。
残されたのは……弱いであろう縄の部分を断ち切る事。
たぶん、あんなに大きな金属を支えているからだいぶ頑丈な物を使っているだろう。
この刀で切れるとおもうが、もっと重要なのが切断のタイミング。
僕が罠を落として、縄を出しても僕が切断に使える時間は0.5秒ぐらい。
さすがに、その時間で奥の所の縄まで切断に行けるはずはない。
シュナを起動にいかせるのは絶対にだめだ。
絶対にここまで戻ってこれないし、シュナにそんな危ない事をさせたくない……
悩み続けた結果、一つの方法を思いつく。
罠は、人でないと作動しないのだろうか。
なにか、物を投げ入れたら作動するのだろうか。
「やってみるか……」
魔法袋から、さきほどドロップした銅の剣を取り出す。
これなら、余裕で向こうまで投げきる事ができるだろう。
剣を横向きにもち、回転しながら投げられるようにする。
このまま……
「うりゃぁ!」
体全体を使って銅の剣を投げ込む。
そのまま、銅の剣は弧を描きながら、まっすぐと飛んでいき、あの薄く輝くシートを通り抜ける。
作動したか……
何も起こらないかに思われた、一秒後、急に金属の塊が落下し地面に落ちていた銅の剣を押しつぶす。
よかった……作動する……
この一秒の間に何ができるか……
とりあえず、一番近くの縄に刀を振りこむ。
少し硬かったものの、あっさりと切断ができた。
……でも、これだと一本切断するのに時間が掛かりそうだな……
魔法も付けてやれば簡単に切れるだろう。
とりあえず少しだけ下がり、引き上げられていく金属の塊から下りる。
こんなところで押しつぶされたら馬鹿みたいだ。
「シュナ、ちょっとだけ手伝ってくれるか?」
「了解じゃが、何をすればよいのじゃ?」
「魔法を使って奥の方の縄を切断してほしいんだ。走っても間に合わなそうだし。」
「分かったのじゃ。というか、わらわがすべて切断しても良いのじゃが……」
「いやいや、そんな事ができたらうらやましすぎる……シュナならやりかねない……分かった。じゃぁ一回やってみて。」
魔法袋から次の犠牲になるものを取り出す。
魔物の骨。
偶然ドロップして、捨てようと思ったけど、せっかくだし安くてもいいから持っていこうという事になったものだ。
こんなところで役に立つとはな……
「せーの!」
骨を振りかぶって、放り投げる。
放物線を描きながら、骨は回転して飛んでいき薄いシートを通り抜ける。
カランという音が響いた直後、金属の塊が落下する。
「シュナ!いいよ!」
「いくぞい!」
シュナが既に展開させていた大きな魔法陣を起動させる。
これは……見た事がない……




