第二十五話 過敏
「僕は昔は貴族ではなく、冒険者を毎年輩出している一家の一人だったんです。」
「冒険者一家……相当な実力者ぞろいというわけですか?」
「まぁ、そういう事です。ですが、僕は魔法が対して使えず、そして……感覚が過敏だったんです。」
感覚が過敏……
良くわからないが、相当きつそうだ。
「まぁ、冒険者一家ですから、もちろん戦闘訓練とかやらされました。魔法の才能が足りなかった分もあるのに……それを補うように物理戦闘を叩きこまれました。ですが、感覚が過敏なので……怪我の痛みが人一倍大きいのです……」
「これは……きついですね……」
「もちろん、訓練で怪我を連発して……途中で……さぼるようになったんです……もちろん同じように育った兄弟からはいじめられ、家出しました。もちろん、見つかったら捕まると思ったから徹底的に慎重に逃げました。感覚が過敏だったからか、過度の恐怖からか、人のいる場所がはっきりとわかったので見つからないように進むのは楽でしたが。」
感覚過敏で起きた事が……感覚過敏に助けられるとは……
「ですが、家は魔物の住む森の中。魔物がわんさかいる中、逃げ惑う事しかできませんでした。怪我をするから戦いはしたくないし、とりあえず走り回っていました。で、同じように謎の男が現れたんです。同じように箱を渡そうとしてきました。だが、追手かと思って箱を無視して逃げようとしたら箱を落として男は消えました。それで、さらに怖くなって逃げたんです……」
「確かに、急に消えたら怖くなりますよね……」
「で、途中でどこかの旅人が食べ物を恵んでくれたのかなと思い、恐る恐る戻ったら箱はすでに消え、何も無くなっていました。で、もう一回逃げ惑う事になったんです。」
自分から救いの可能性を逃してしまったのだろうか。
消えた箱の事も気になるな……
「そこで、魔物に襲われて怪我も増えて、歩けなくなり、死にかけたときに……この二人が来てくれたんです。偶然通りかかっただけでしたが、本当に幸運でした。」
「あのときは、お前足の裏を怪我して歩けなくなっていたからな……歩くだけで痛そうだったな。」
「毒にもやられていて顔が真っ青でしたからね。」
「意識も朦朧としていて、天国からのお迎えが来たと思っていました。そこで、毒薬と回復薬を飲んだところでもう意識が無くなったのを覚えています。」
「俺が担いで下の町まで連れて行ったよな。」
「宿の部屋まで連れて行ってそのまま、次の目的地までいこうという事でしたね。でも、宿屋に着く前に目覚めてしまいましたが。」
「で、起きたんですが誰かに頼るしかなかったので、とりあえずこの二人に連れて行ってほしいと頼んだんです。もちろん、断られましたが。」
「同じ目的で、こいつと合流して旅をしていたからな。もしもの為だ。」
「そこで、ふと僕はあの謎の男の事を思い出して、その人の仲間か聞いてみたんです。心なしか、マルスさんと雰囲気が似ていたからってのもありますけど。そしたら、突然表情を変えて聞いて来たんです。」
「まさか、こいつも同じような事があったとは思わなかったからな。」
「僕たちの目的は、その謎の男の人にお礼を言う事でしたからね、カルタを背負いながら大慌てで謎の男と遭遇したところまで戻り、周囲を探索しました。しかし、見つからず、徒労に終わりました。」
謎の男の人の謎がどんどん増えていく……
しかも、全員が関係者……
「で、僕もその男を探す旅に入れてほしいと言ったんです。あてがこれしかなかったし、男の人に逃げてしまったお詫びも言いたかったので。」
「それで、僕たちと一緒にいるんです。大体、三人で行動し始めて2年ぐらいですかね……」
カルロさんがまた、なつかしむ表情になる。
「まぁ、僕はずっと役立たずですけれどね。」
「いいじゃないか!もしもの時にものすごい活躍するじゃないか。探索の時も能力がすごいし。」
マルスさんが励ますように言う。
能力ってなんだろう……
「そういえば、カルタさんの能力ってなんですか?」
「それは……」
「別に隠す事ではないと思いますよ。人によっては名誉な事ですから。」
「う……先に探索の時の方からでいいですか?」
「……流れが読めません……」
三人の中で謎の会話が進んでいく。
「まぁ、僕は感覚が過敏と言ったじゃないですか。そのせいで人一倍痛みに弱いんですが、そのかわりに人の気配……物の気配に魔物の気配までわかるんです。しかも、だいぶ遠くまで。」
「それって……すごいじゃないですか!」
「探索の時は便利なんですけど……常に敏感なんで、人の視線とかは苦手なんですよ……しかも宿屋にいるとたまに……」
「宿屋がどうかしたんですか?」
「いや、どうもこうも……何を言わせようとしてるんですか!」
「何を言ってるのか……」
カルタさんが頬を赤くして慌てふためく。
宿屋で何かがあるのだろうか。
周りの気配が簡単にわかり、宿屋だと大変……
……良くわからない……
「おい……まさか、こいつ……」
「純粋なのですかねぇ。この反応とか会話とかで分からないとなると……若いですねぇ……」
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