第二十三話 過去
「ちょっと、魔法が旨く使えなくて……いろいろあったんですけれど、なんとか物理攻撃でこれまでをやり過ごしてきたんですよ。」
「ほう、得意な分野を徹底的に伸ばしたんですか……なんだかすごいですね……僕たちも……似たよなものですかねぇ……」
カルロさんが、呟いた小さな一言が気になる。
なんだか、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
何か、過去を思い出したのだろうか。
「僕たちも……本当に似たようなものですね……」
カルタさんも呟く。
戦いも参加してなくて、何をしているのか分からない不思議な人だ……
「カルロ!こいつには話してもいい気がするぞ!」
マルスさんが何か悟ったような顔で言ってくる。
なんだか、空気に着いていけない。
今、何がおきているんだろう。
「まぁ、マルスの人を見る目はなかなかの物ですからね、信用して話すのも良いでしょうか。少しだけ、話を聞いてもらえますか?」
「いいですけど……何の話ですか?」
「過去の……話です。僕は、昔は貴族だったんです……下級の者ですが……。貴族の中でも魔法の才能は時には身分を左右するものでした。子供のころ……僕は全く使えなかったんです……魔法を。」
その言葉にハッとさせられる。
この人も僕と同類なのか……
もしかしたら……この魔法が使えない体質を治す手掛かりになるかもしれない。
「家族からは腫れもの扱い、同じ学校に通う人からはいじめを受けていたんです……」
僕とは似たような状況だが……僕はまだ家族と言えるような味方がいたからましだろう。
「四面楚歌の状態で、15歳ぐらいまで過ごしてきたんですが……そこで転機が来たんです。その頃は、国から出て貴族とかいう面倒くさいしがらみから逃れて自由に暮らしたいと思っていて、時間を見つけては少し離れた本屋に遠征していたんです。そしてある日、ちょっと違う未知をいったらめったにない罠にかかってしまったんです。」
罠……
普通の道などにも極まれに設置されていて、たまに命にかかわるものもある。
この話の罠は……
「その罠は……真下にあるダンジョンまで転移させる物でした。」
最悪の分類に入るであろう罠。
戦闘力のない人がかかったら確実に死ぬレベルの物だ。
「しかも、転移されたダンジョンは……国が保護している最悪のダンジョンでした……冒険者のランクSでも……いや、EX級でも攻略できないであろう物です。知られている限りでは誰も攻略が成功していないそうです。そこで、魔物などに追われて逃げ惑っていたら……誰かに会ったのです。」
噂だけは聞いたことがある。
国の保護しているダンジョンは、死亡率が高すぎるものか、呪いがあるものかだ。
どっちにしても……普通なら死んでいたのであろう。
「その人は、真っ黒な服を着てダンジョンの真ん中に佇んでいました。僕の後ろから追ってきている魔物を見ても眉一つ動かさず、凛とした佇まいでした。慌てて助けを求めたら、少しだけ頷き……何かをしたんです。」
「何か?なんですか?」
「それは……僕にもほとんどわかりません。ただ、唯一分かっているのは……魔物が一瞬で消えた事です。しかも、全部。音もせず、ただ一瞬で。」
「……消滅……」
さすがに、そういう現象を起こす魔法は聞いた事がない。
そんなものが、あったら国中大騒ぎだろう。
なにかトリックがあったのだろうか。
「そのあと、男はこちらに突然話しかけてきました。確か、『力が、欲しいか。』と。」
「……怪しすぎますね。」
「でも、その時は……頼るしかなかったんです。ただ、首を動かして頷いたら謎の箱を手渡してきたんです。それを受け取った瞬間……自分の部屋の中にとんでいました。」
「転移……魔法……」
「魔法陣もなく、突然のことで、しばらくボーとしてしまったのですがふと、手元にあった箱が異常に重い事に気がついたんです。恐る恐る開けると……なかには、この武器が二つと、一冊の金色の魔術書、そして一枚のメモが入っていたんです。とりあえず、魔術書を開いて読んだのですが、その直後、普通には起きない体を中からいじられるような感覚がして、気が付いたら倒れていたんです。」
「その本に……なにか呪いでもあったんですか?」
「いや、悪い呪いではなかったです……でも、呪いと同じようになったんです。これを読んだ日から……魔法陣が構築できなくなったんです。文字通り、少しも作る事ができないんです。今も。」
「でも、さっきは魔法が使えていたはずじゃ……」
「それは、その代償に見合う見返りがあったからです。気がつくのには少し時間がかかりましたが、メモに全てが書いてありました。それは、この武器を通して特定の魔法を使う事ができるというものです。これまでは、強い魔法はほとんど使えなかったので他の魔法が犠牲になっても何も感じませんでした。使えるようになったのは、全属性の玉魔法、弾魔法、そして爆魔法です。威力も相当高く、これまで下げずまれていた生活が一転するほどでした。」
「だから、あのような強力な魔法が使えたんですか。」
「まぁ、それぐらいです。しかし、メモはそれだけで終わらず、不吉な一文があったんです。『復讐の成功を願う』と。もちろん、僕はそんな勇気も無かったので、しませんでしたが。僕一人がいじめられていたんで、いじめてた人を倒しても何もいい事はなかったというのもありますけど。」
なんだが、僕よりも相当な大人な気がする。
僕は、最後には復讐心で動いていたからな……
「まぁ、簡単に説明するとこんな感じです。まぁ、仲間の二人はまた少しだけ違いますが。」
「じゃぁ、俺から説明するか。」
今度は、マルスさんが話し始めた。
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暴食の奪還者~奪われた闇の力~
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