第十七話 魔法
頭の中が想定外の事態に慌てふためく。
えっと……どういう事だ?
とりあえず……思考を一つに絞って冷静に考える。
料理用の水がない……
てことは、ほとんどの料理の材料が足りない……
という事は、ほとんど料理ができない……
それで一番困るのは……シュナ。
今すべきことは……シュナへの……謝罪。
シュナの方に体を向けて謝罪をしようとする。
だが……シュナの顔を見ると、これまでの思考が一気に吹っ飛んでいく。
……笑っている?
「シュナ……何か隠していないか?」
「クス……まさか気がつかないとは思わなかったのじゃ。よく考えれば分かる気がするのじゃ。」
シュナが微笑と共に謎かけの様な言葉を発する。
……あ!?
「シュナの魔法があるじゃないか!」
「正解じゃ。まさか気がつかないとは思わなかったのじゃ。」
「……騙してたのか……なんか悔しい……」
「お主もなかなか純粋じゃのう。」
「純粋はこういうときに使う言葉じゃない気がする。まぁ、そろそろ進む?日が暮れる前には外に出て野宿の準備をしたいから。」
「そうじゃな、よいしょっと。」
シュナがゆったりと腰を上げる。
とりあえず、コップの中に入っていた水を全て喉に流し込み、僕も立ち上がる。
「ちょっと、コップを貸してもらえるじゃろうか。」
「なんかわからないけど、ほい。」
コップをシュナに差し出す。
すると、シュナは高速で魔法陣を展開させる。
ごく簡単な、現象だけを発生させる魔法陣だ。
何の変哲もない水が発生し、コップの奥底などに着いていた液体などをキレイさっぱり洗い流す。
これはありがたい。
中に入っていた本にラモンの匂いのする液体が付いたらさんざんだ。
「そして、これじゃ。」
シュナがコップを床に置き、再び魔法陣を展開させる。
これは……『温風』か。
火魔法の劣化版で、攻撃には全くと言っていいほど使えない。
ただ、少し熱い風を流すだけの魔法だ。
だが、現象量が多く設定されている。
魔法陣が起動し、少し熱いぐらいの風が魔法陣から噴き出してくる。
現象量が多いせいか、なかなか強い風だ。
熱と風の勢いによってコップについていた水分が跡かたも無く消える。
「これで完璧じゃ。」
「ありがとうな。でも、魔法残留を使わずに洗ったら温魔法を使わなくてもできたんじゃないか?」
一つだけ浮かんできた疑問をシュナにぶつけてみる。
「それはだめじゃ。魔法の効力が切れた時点で消えるのは魔法で発生した水の部分だけじゃ。それじゃから、中にもしまだラモン水が薄まった状態で残っておったらまた、着いてしまうのでダメなのじゃ。」
「意外と考えているんだね。」
「わらわは体を使う事があまりできないのじゃから、これぐらいしかやることがないのじゃ。」
「いやいや、魔法が使えるじゃないか。」
「それでも……お主の役に立っている自信がないのじゃ。」
シュナの表情が一気に深刻そうになる。
……こんな時にかける言葉が思いつかずに混乱する。
えっと……とりあえず……
「僕なんかより全然役に立つから大丈夫だよ!僕なんて道端の小さな宝石ぐらいだよ。」
「最後の一言で台無しじゃ。」
「しまった……いろいろ混ざった……」
シュナの顔が残念そうな物を見るような目を一瞬むけてきた後、笑いをこらえているような顔になる。
……不本意だが、結果的には良かったのだろうか。
「そろそろ行くとしようじゃないか。あんまり長く休んでると時間が無くなるのじゃ。」
「そういえば、そうだったな。じゃぁ、行くとしようか。」
忘れものがないか、確認して再び道を歩み始める。
定期的に出ていた罠も途中でぱったりと無くなっている。
魔法系のトラップもあったけど、やっぱり、物理系のトラップが多かったな……
そして、ついに久しぶりの……モンスターと遭遇した。




