第十六話 魔術
辺りにバラバラになった岩のかけらが散乱する。
降り注ぐ細かくなった岩の砂をふるい落とし、シュナの無事を確認する。
「シュナ、怪我はないか?」
「わらわは大丈夫じゃ。それにしてもおかしいのう……」
シュナが首をかしげながら何かを考え始める。
何かおかしいところでもあっただろうか。
ただ罠が多かっただけじゃ……あ。
「罠が……あまりにも多すぎる。」
「そうじゃ、マルクスさんからもらった本には、比較的少ないが強力な罠があると書いてあったのじゃ。だが、おかしすぎるのじゃ。」
「さすがに、多すぎる気がするよね。」
「それだけじゃないのじゃ。これまでの罠は……全体的に大怪我をさせない程度の罠で、あまりにも弱すぎる様に感じるのじゃ。さらには、さっきの罠も大きな岩が落ちてきたのじゃが、岩自体が脆すぎる気がするのじゃ。」
「という事は……」
「たぶん、帰る事を促しているように感じるのじゃ。」
「てことは奥になにかあるかもしれないという事?」
「そうかしれないという事じゃ。」
「でも、進まないといけないんだけどね。崩壊草を取る為に。」
「まぁ、考えても仕方ない事なのじゃ。今は、宝箱の中身を確認するべきじゃないのかのう。」
「そういえば、そうだな。」
話にひと段落つけて、空いたままになっている宝箱に近づく。
罠は既に作動したようで、近づいても何も起きない。
中に首を突っ込んでみると、砂煙をかぶった本が鎮座していた。
砂を払いながら、その本を取り出す。
「これは……魔術書?」
魔術書は、魔法を覚えるときに使うもので、二つのタイプがある。
読んで自分で読んで学び、習得していくものと、開いて読むだけで自動で習得されるものだ。
もちろん、自分で読んだ方が精度が高いらしいが、そこまでは分からない。
自動で習得されるものは、一回で使用不可能になるが簡単だ。
習得しても、適性とかがないと使えないのだが。
特定の練習ばかりやっていて、習得できていない魔法を弱くても使いたいと言うときに使うのが一般的だ。
あとは、魔法の練習をする時間がない人用の護身のために習得するものだろう。
そういうものは、唯一銀貨数枚ぐらいで入手ができる安価な玉魔法が定番だ。
まぁ、練習すれば魔術書なしでも教えてくれる人がいたり、自分で学び続ければ習得できるのだが。
「たぶん、そうじゃな。どんな魔法なのかわかるじゃろうか。」
「そういえば、古代遺跡と同じ文字で書かれているんだったな。えっと……『炎柱』だって。」
「残念ながらわらわは習得済みじゃ。」
「そっか……じゃぁ、これは売却だな。」
魔法袋に入れて、しまう。
なかなか高額で売れそうで、楽しみだ。
「ちょっと休んだら、行くとしない?」
「そうじゃな、罠に神経を尖らせ過ぎて疲れてしまったのじゃ。」
床にバラバラに散らばっている砂を手でどかして、ドシンと腰を下ろす。
少しひんやりとしていて心地いい。
とりあえず、魔法袋から大きい水筒と二つのコップを取り出して床に置き、特製の水を注ぐ。
片方のコップを手に取り、中に注いだ液体を喉へ流し込む。
さわやかな酸味が口の中に広がり、疲れが癒やされるような気がする。
それを見て、同じようにシュナが喉へ流し込む。
「これは……ほんのりとした酸味がいい味を出しておるのう……普通の水ではないのじゃろう。」
「疲れた時に飲んだら、楽になるかなって思って。普通の水よりは美味しいだろうし。」
「何か入れたのじゃろうか。……果物みたいなのじゃが、何が入っているのじゃ?」
「ご名答。入っているのは、ラモンだよ。偶然、果物屋で見つけたから入れてみたんだ。味は大丈夫?」
「全然、大丈夫じゃ。これは良いもんじゃのう。」
気に行ってくれたようで本当に良かった。
甘い方もいいかと思ったけど、戦闘の後は少しさわやかな方がいいと思ってラモンを選んで正解だったな。
「でも、良かったのじゃろうか。」
シュナが、急に真剣な顔になる。
何か……問題があったのだろうか。
「何が?なんか変なところあった?」
「それは大丈夫なのじゃが……料理用の水は別に準備してあるのじゃろうな。」
「……忘れてた……」
みなさん、ブックマーク、評価、感想など宜しくお願いします。
下の文字クリックも宜しくです!




