第十話 王国
なんとなくもう一話。
町の入り口まで着き、今から出発という時。
目の前からきらきらと着飾った装備を来た馬に乗った集団がやってくる。
「うっわ……最悪だ……」
「どうしたのじゃ?」
自己中心的でプライドだけが無駄に高く、実力もないのに強い道具と権力を豊富に持つと言われている最悪の集団。
……王国兵。
国の保護している組織で、横暴ばかり繰り返している悪名高き軍団。
わいろ、身分を上げるための冤罪は当たり前。
町での無銭飲食や強奪、さらには女の人の誘拐も当たり前だそうだ。
「シュナ、ちょっと道を逸れて。」
「よくわからないけど了解じゃ。」
道の端に移動して、王国兵たちが通り過ぎようとするのを待つ。
こんな辺境なところに何をしに来たんだろう。
物でも勝手に押収しにきたのか、税の取り立てとか言って金を奪いに来たのだろうか。
どっちにしても最悪だ……
「……不味いかもな……」
僕らが逸れた時には他の人々は既に端の方に移動していた。
中には、土下座までしている者もいる……というか大半が土下座している。
たぶん、僕らが逸れたのが最後……ってことは目をつけられてしまったかもな……
王国兵が近くまで来る。
先頭の馬に乗っている男は一層豪華な装備をつけている。
たぶん、隊長格とかそんなもんだろう。
その男が……最悪の予想と同じようにこちらへむかってくる。
後ろの王国兵も同じようにこちらへむかってくる。
「そちらのお嬢さん、一緒に来ませんか?」
最初は優しい男のような振りをするのは目に見えている。
僕もシュナも旅人のロープを着ているが、シュナの銀の髪の毛は隠し切れていない。
調った顔も見られているだろう。
「すまないのじゃが、予定があるのじゃ。」
「遠慮せずに、ほら。馬に乗ります?最高級の馬ですよ。」
「すみません、僕の連れなんで。失礼します。」
シュナの腕を掴んで、その場から退避しようとする。
王国兵の事をシュナがそこまで詳しく知っているとは思わない。
シュナの王国兵への好感度は下がっていると思うが、あいつらの悪質さは知らないだろう……
「あぁ?だれだてめぇ!」
いきなり王国兵がこちらに向かって怒鳴ってくる。
やばい……機嫌を損ねたかも……
こちらをジロジロとみてくる視線が痛い。
「ほぉ……お前、いいもん持ってんじゃねぇか。それをよこせ、没収だ。国の為に使ってやる。ついでにお前の女ももらってやろうじゃないか。」
見下すような目でこちらを脅してきた。
指差しているのは腰にさしていた刀。
いつも通りの行動パターンか……
「……横暴すぎる……」
「はぁ?なんか言ったか?」
男は腰に付けている装飾の着いたきらきらの剣に手を当てている。
いつでも切り殺せるという事だろうか。
「とりあえず、こいつは頂くぜ。」
そう言って、シュナの手を取ろうとする。
その直後、シュナはその差し伸べられた手を叩き落とす。
この行動、見覚えが……
「触らないでほしいのじゃ。」
この言葉も……
予想通り、断られる事がないと思っていたのか男の顔がぽかんとし、赤く染まっていく。
プライドが許さなかったのだろうか、腰から剣を抜き始めた。
魔法で戦わないところから、お前なんかこれで十分だと言いたいのだろうか。
だが、動きはぎこちなくそこまで強そうではない。
……一応、ご愁傷様だ。
「なら……力づくでも奪い取らせてもらおうか!」
剣をこちらに向けて振りかざしてくる。
芯の通っていない、プライドで凝り固められたよわよわしい攻撃。
刀を抜いて対処しようとするも、思いとどまる。
ここで、武器などを出したらさらに面倒な事になるだろう。
国へ剣を向けたな!反逆者め!とか言って捕まって冤罪で死刑という流れもあり得る……
ここは武器を使わずに、倒した方がいいだろう。
上から迫ってくる剣を見て、通り道を読む。
ちょうど、真上から僕の頭を切り裂く軌道。
足を動かして軌道の右側に移動する。
さっきまでいた場所に向かっていく剣を見ながら、右のこぶしを固める。
そのまま、剣の横腹に向けて……こぶしを叩きつける!
(パキン……)
「……やばい……」
あっさりと剣は横腹から砕け、上の部分はどこかに飛んで行った。
……もろすぎるでしょ……
装飾に凝り過ぎて、実際の耐久力が下がってしまったという事だろうか。
「え……お前!国へ立て着いたな!反逆者め!」
……本当に面倒な事になった。
今できる事を考える。
……逃げるしかない……
「って何してるの!?」
「少しばかりムカついたのじゃ。ちょっとだけやらせてもらうのじゃ!」
男の足元にあった魔法陣が軌道して、氷の檻の様な形になる。
『氷檻』か……
氷の檻が馬ごと中の人を覆う。
「てめぇ!隊長を出せ!」
「なんだこれは!全く壊れないぞ!」
「……どれだけ強いのを作ったんだ?」
「密度を限界まで上げたのじゃ。溶けるまで2日ぐらいかかるじゃろう。」
「えげつないな……」
気がつくと、王国兵が武器を馬の上から構えていた。
中には既に魔法陣を作り上げている者までいる。
「シュナ!行くぞ!」
「了解じゃ!ってヒキャァァァ!」
シュナの体を思いっきり掴んで町の外へ走り出す。
馬は、方向転換が難しい。
しかも、人が密集している中、後ろを見るのは困難だろう。
背後から飛んでくる魔法をよけながら、突っ走っていく。
ダンジョンへの道は、馬が入れない。
少し走れば逃げれるだろう。
顔もロープで隠していたからみられていないだろうし、指名手配などもされないから大丈夫だろう。
何はともあれ……危なかった……




